番外 明希の受難
明希と真琴(琴吹)の出会いの話です(*´ω`*)
古い雑居ビルの一角に在る余り大きいとは言えないスペースに在り来たりな名前のセキュリティーシステム会社がある。他の会社の電気は消えてしまっているがここだけは二十四時間明かりが消える事は無い。薄暗い廊下を行き、明希はその会社の前まで行くとドアを開けた。
「お疲れ‥今日は遅かったな‥」
ドアを開けると十五人分ほどのデスクがあって二人だけが区々に自分のデスクで慌ただしくパソコンを操作している。その内の一人が明希が入ってくるなりそう声を掛けた。
「ああ、追跡用のデータプログラムも入れてくれってんで現場で組んできた
あそこはちょっと面倒な仕様になってるから既製品のプログラムじゃ誤作動起こしちまうからな‥」
言いながら自分のデスクまで来ると鞄からメモリーカードを出してパソコンに繋ぎ、立ったまま何かを操作し始める。
「へぇ‥なかなか凝ったプログラム組むねぇ‥」
別の一人がパソコンを眺めながら明希に言うと先ほど声を掛けた方も別窓を開いてそれを確認した。
「うわぁ‥これもしかして即興で組んだのか?
やる奴だとは思ってたけど相変わらずやる事がいちいちムカつくな!」
明希の才能に嫉妬を隠さず悔しがるとすぐにまたそれを閉じて元の業務に戻る。
「まぁ、それ位は出来なきゃこの会社に中途入社なんてさせて貰えんでしょ?」
規模は小さいが要人の取引先が多いこの会社にはプロ中のプロが揃っていてかなり高度な知識と技術を求められるがこういった知識は全て組織にいた時にインプットされていて明希にとっては造作も無い事だった。
「じゃぁ、お先に‥」
明希は業務データを全て移し終えるとまた鞄を手にドアへ向かう。
「「お疲れ」」
座っている二人がそのままの体制で返事を返すと明希はドアを開ける。
「あ‥お疲れ様です!」
ドアを開けるとその向こうには驚いた顔をしたまま立ち竦む女性がいた。
「ああ、飯買に行ってたのか‥」
「はい、三上さんも食べますか?」
明希がいつものように気の抜けた声で言うと女性は即座に返す。
「小倉ちゃんはまた三上贔屓する!
そいつはもう上がりだから良いんだよ」
明希に嫉妬していた方が小倉に向かって拗ねたように言うと明希は少し溜息を吐いた。
「言われなくても帰りますよ‥ま、そういう事だから‥」
明希は答えると小倉の横をすり抜けて廊下へ出て振り返りもせずに去って行く。
「もう!あんな言い方しなくっても良いじゃないですか‥」
少し怒ったように言いながら小倉は買ってきた物を空いているデスクに置いた。
明希は会社を出るとオフィス街を抜けて居酒屋へ足を運び、軽く食事を取ると繁華街にある公園を抜けようとその前まできて足を止める。組織を出て一ヶ月、一般的な生活に慣れる事に気を取られていて最近は風俗にも足を運んでいない事に気が付いた。一旦、着替えてまたわざわざ出歩くのも面倒なのでこのまま適当に寄って帰ろうか少し考える。
「お兄さん‥俺と遊ばない?」
不意に声を掛けられ明希は驚いて振り向いた。確かに少し平和ボケしていたかもしれないがそれでもまだ普通の者より敏感に気配は察知出来る自信はあったのに意図も簡単に背後を取られたのだ。
「俺は野郎と遊ぶ趣味はねぇよ」
明希は自分を誤魔化すように平静を装い、その人物をまじまじと見ながら警戒しつつ答える。白髪に近い様な銀髪に赤い瞳、また厄介な来客だろうかと内心思いながら青年を睨み付けた。
「良いじゃん‥お兄さん、俺と同じ匂いがするしそれに‥綺麗な金髪でグッときちゃった」
薄く妖艶な笑みを浮かべて青年が言うと躊躇いも無く明希を引っ張って公園に入って行く。
「おい!俺はあんたと遊ぶ気はねぇって言ってんだろ?」
言いながらも明希が引っ張られるまま付いて行くのは少しこの奇妙な青年に興味があったからだ。もし何らかの手の者であるならその身元を探らないと気が済まないのは組織にいた頃の後遺症だろう。一般人になり切れていないと自覚させられる瞬間だ。青年は明希を公園の公衆便所まで連れてくると個室に連れ込みいきなり口付てきた。あまりの性急さに明希は驚きながらも辺りに気配が無いか気を張るが誰の気配も無い。少しホッとしながらもその濃厚な口付に少し眩暈がする。次に青年は明希のズボンのファスナーを下ろしそれを取り出すと躊躇いも無く咥えた。
「おい‥」
少し抵抗しようとしたが狭い個室の中では逃げようも無く明希は諦めて青年の好きにさせた。疲れと溜まっているせいもあったが何より青年の妙技に明希は驚くほど早く達してしまい、それでも青年はそれを飲み干したまま口を離さない。
「今度は俺を楽しませてよ‥」
暫く明希のそれを舌で弄んでから青年はズボンを下ろし背を向けて犯すように促した。二人は濃厚に交わり、ようやく落ち着くと身なりを整えて何事も無かったように公衆便所を出る。
「お兄さん巧いね‥また会う事が有ったら遊んでよ‥」
青年が言うと明希は煙草を咥えながら呆れたような顔をした。
「男を漁るんならそう言うところ行けよ
やるだけやって言うのも何だがこういうやり方はその内、痛い目見るぞ」
自分でらしく無いと思いながらも注意を促すが青年がそんな明希を見て少し噴出した。
「俺は琴吹‥お兄さんは?」
妖艶な笑みを浮かべながら聞く琴吹に明希は複雑な表情をする。
「何だかめでたい名前だな‥」
「残念、めでたい寿じゃなくって楽器の琴と吹くと書いて琴吹
お兄さんは‥三上明希って言うんだ
女の子みたいな名前だね」
明希が呟くと琴吹はすぐに返して明希の免許証を見ながら楽しそうに微笑んだ。それを見て明希は固まった後キッと表情を険しくする。確かに状況も状況なので油断はあったかもしれないがそれにしても掏られている事に気付かなかったとは完全な己の失態だ。
「てめぇ‥いつの間に‥返せ!」
それを取り返そうとするが琴吹はそれをひょいと避けるとベンチを踏み台にして軽く飛んで後方へ身を弾く。
「また遊んでくれたら返してあげるよ」
そう言うとネオン瞬くの向こう側へ走り去る。明希は慌てて追いかけたがその姿はもうどこにもなかった。
翌日、明希は昨日の出来事に不機嫌な顔で目覚めるがそれ以上にあの妖艶な青年の瞳に魅せられている自分に少し呆れた。
〈新手の娼夫か?〉
煙草を咥えながら昨日の情事を思い返す。免許証は掏られたが金銭的な物は全く盗まれた形跡は無く、どうやって免許証だけ掏ったのだろうかと少し考えてみたが思い当るシーンは無い。後はあの粘り付くような感触と快感、それと腰よりやや下の尻の上部にあった龍のような痣だけが印象強く残っている。多少、上物の風俗店であってもあの快感はちょっとやそっとじゃ得られないと思うと明希は複雑な表情を浮かべた。もし売り込まれたら買っても良いかとさえ思う自分が恨めしくなる。そんな気持ちを払拭するようにシャワーを浴びるとクリーニングし立てのスーツに身を包んだ。昨日、着ていた物は帰ってきて気付いたのだがあちこちに情事の痕が残っていて慌ててシミにならないよう処理だけして紙袋に入れた。まだクリーニングから帰ってきて初日だというのに明希はいろいろと気持ちが飛んでいたのだと悟ると紙袋を見てまた項垂れる。
気を取り直して出勤すると業務に入るが顧客の一人から連絡があって出かける事になった。如何せん免許証が無いので電車で向かう事にする。
「急にすまんが一つカメラを増設したんでその分も中央に繋いで貰いたいんだが‥」
大きな自社ビルの応接室に招かれて専務からそう話を切り出されると明希はそれを快諾して作業に取り掛かった。非常階段の上部に付けられたカメラからの映像を管理室から中央セキュリティールームにも映像が届くようにシステムを組み始める。作業をしていると地下のカメラに場違いな一行が映り、明希は少しそれに見入った。
「ああ、今日は地下の祠にお供えをする日でね
神社の関係者が暫く出入りするから気にしないでよ」
その作業を見ていた警備員がそう説明する。
「へぇ‥それにしても変わった装束だな‥」
その様子を見ながら明希がそう言ったのは神主装束の三人がその顔を模様の描かれた和紙か何かで隠し、仰々しく並んで行進していて奇妙な違和感があったからだ。その三人が通り過ぎると後ろからまた二人入ってきてその内の一人を見て明希は思わず身を乗り出した。烏帽子と前に垂らされた和紙で顔は確認出来ないがその僅かに見える髪は白っぽい銀髪をしていて明希はそれが琴吹であると確信する。
「ああ‥珍しい髪の色でしょ?
何でも白銀の龍神遣いとかって言われてる有名な陰陽師らしいよ
うちの祭神も龍神様なんでわざわざ会長が神社に頼んで呼んで貰ってるって話だけどちょっとこうやって見ると気味悪いよねぇ」
警備員がそう続けると明希はようやく落ち着いて椅子に腰を下ろし直した。とりあえずそのまま手早くシステムを組むと作業を終えて琴吹が出てくるのを通用口近くで待つ。暫くすると先ほど見た一行らしき者達が着替えた状態で手に荷物を持ち現れた。裏方作業の人間もいるのか思っていたより少し人数は多い。その中に琴吹もいて明希はその一行と通用口を出ると後を付けた。すぐに琴吹は一人だけ輪から抜け明希はその肩に手を掛ける。
「おい!免許証返せよ」
急に引き止められてキョトンとした顔でいる琴吹に明希は強い口調で言った。
「はぁ?あんた誰だよ‥」
訝しげな顔でそう言った琴吹は何だか昨日と雰囲気が違う。
「昨日、俺から免許証取ったろ?
あれが無いと困るから返してくれ」
「だから何の事だよ?
俺、あんたと会った事も無いって‥誰かと勘違いしてるんじゃないか?」
明希が言うと即座に琴吹が戸惑いながら返すのを聞き、その嘘の無い瞳に海達の事を思い出した。
「あ‥ああ、そうか‥ならあんたに兄弟かよく似た親戚はいないか?
俺はそいつに用があるんだ」
人違いかもと言う思いから少し遠慮気味に聞くと琴吹はまた怪訝な表情をする。
「こんな髪や瞳の奴がそうゴロゴロ身内にいる訳無いだろ?
とにかく新手のセールスか何かならお断りだから‥」
そう言われてあまりにも狐に摘ままれたような現象に明希は途方に暮れる。
「じゃぁ、確認するがあんたは琴吹って名前じゃ無いんだな?」
唯一の手がかりである名前を口にすると少し表情が変わった。
「何でその名前‥いや、そんなはずは‥」
明希が焦ったように聞き返すとそこまで言ってまるで全ての機能が停止したかのように琴吹にそっくりな青年は固まってしまう。
「真琴?」
二人の後方からそう声を掛けられて真琴はハッとしてそちらを見て明希もその視線の先を追った。
「ああ、やっぱり‥昨日来なかったんで心配したんだけど大丈夫そうだね」
早乙女は紙袋を手ににこやかに真琴に話しかけると傍まで来てちらっと明希を見る。
「お友達?」
何も事情を知らない早乙女は聞いてから始終にこにこしていたがあまりに真琴が呆然としているので伺うように首をかしげた。
「俺‥またやったかも‥」
少し青褪めて真琴が早乙女に言うと早乙女は驚いたような顔をしてから明希を見る。
「あの‥彼が何かしましたか?」
真琴では無く早乙女がそう聞いたので明希は何か事情があると察して戸惑いながらも掻い摘んで昨日の事を話した。勿論、濃厚なセックスの話は避けた。
「それだけ?
俺、あんたに何もしてない?」
少し絡まれて免許証を掏られた話だけすると真琴は恐る恐る明希に聞いてくる。
「あの‥失礼ですけど彼‥琴吹に性的接触を迫られませんでしたか?」
明希が答えあぐねていると真琴と違って早乙女はズバリ聞いてきた。
「まぁ‥少しな‥」
明希はずっぽり嵌めましたとは本人の手前、言うのは避けたがそれを聞いて何かを察するとあられもなく真琴はその場に膝を折った。
「彼に貴方と居た時の記憶は無いんですよ‥
極度の二重人格体質でしてね
もし何かご迷惑をかけたのならお伺いしますが‥」
戸惑う明希に早乙女が言うと明希は少し信じられないと言った表情をしたが目の前で再起不能な位落ち込む真琴を見て演技では無いと感じた。
「いや‥俺は免許証を返して貰えればそれで構わんのだが‥」
明希も途方に暮れながら言うと早乙女は再起不能の真琴に財布を出すよう促し、その中身を確認し始める。
「これですか?」
その中から明希の免許証を探し当てるとそれを明希に渡して他に何か無いか確認する。
「どうやら昨日は彼だけみたいですね‥」
早乙女がいつまでも魂の抜けている真琴に言うと真琴は涙目でホッとしたような顔をしたので明希は以前にも前科がある事を察した。
「ちょくちょくこういう事があるのか?」
明希は何と無く聞いてみると早乙女は苦笑する。
「まさか‥そこまで酷ければ彼に日常生活は遅れませんよ
ただ、少し厄介な人格なので定期的に抑える処置をしてるんですが偶に出てきてしまうんで困っているんです」
早乙女が説明すると明希は誰彼構わず受け入れる琴吹を思い出し確かに厄介な人格だと思った。
「とにかく迷惑かけた事は謝る」
ようやく己を取り戻して真琴は平謝りすると明希は複雑な気分になる。迷惑よりも快楽を無料で提供された訳なのでどう反応して良いモノか‥
「まぁ‥あんたも大変だろうがめげんなよ」
明希はそう言うと憐れむような視線を向けて溜息を吐く。
「とにかくもし彼がまた何かするようならこちらまでご連絡下さい」
早乙女は言いながら名刺を出して渡し、それを見て明希は早乙女の心理療法士という肩書に深く納得して一つ頷いた。それから二人と別れて帰社して業務をこなしてその日のノルマを終え、いつものように居酒屋で食事をすると帰宅する。玄関を入ると部屋に明かりが点いていて驚きながら寝室のドアを開けると真琴が座っていた。
「お帰り‥」
「不法侵入だろう‥」
驚きながらも挨拶した真琴に返す。
「別に知らない仲じゃないし良いだろ?」
妖艶な笑みを浮かべて言ったのは昨日の琴吹のモノ。
「お前‥琴吹か?」
明希が確認するように問うとまた薄く笑みを浮かべて明希に歩み寄り首に腕を回した。
「言い忘れてたけど真琴は俺の事を何も知らないんだ‥俺は真琴の事は何でも知ってるけどね
だからこれからは俺達だけの秘密‥」
そう言うとまた濃厚に明希に口付る。
少し戸惑いながらも明希はそれに応じると琴吹をベッドに押し倒した。濃密な口付を交わしながら乱暴にお互い衣服を剥ぎ取っていき本能のままに絡み合う。今まで感じた事のないほどの快感に濃厚に混じり合い、ほぼ一晩中お互いを求め合い眠りに就く。室内に光が差し、明希は目が覚めて気怠い身体を起こすともうそこに琴吹の姿は無かった。
明希はその日の勤めを終えると早乙女の元を訪れた。
「いったいあいつはどういう奴なんだ?」
「すいませんがここは禁煙です」
ソファに腰を下ろしポケットに手を入れると空かさず早乙女に言われて明希は少し複雑な表情でその手を元の位置に収める。
「また何かありましたか?」
早乙女にそう言われると何となく東條の事を思い出す。まるで全てを見透かされているような気分だ。
「また昨日、俺の所に琴吹が来た‥」
それだけ答えた。
「彼が一人に執着するのは珍しい‥貴方は余程、床上手のようですね」
にこやかに早乙女がそう言うと明希は何と無く視線を逸らせる。
「実は彼には自分でも抑えられない殺人衝動があるんですよ
それを回避する為に快楽で代用しているんです」
早乙女は隠すでも無く素直に琴吹の現状を話した。
「えらく物騒な話だな‥」
驚くでも無く明希が答えるのを聞いて早乙女は明希もまた堅気で無い事を見抜き、全てを話す決意を固める。
「元々、彼‥真琴は見た通り普通のどこにいてもおかしく無い青年でした
見た目は異様ですが本当に普通の‥ね‥
ですが霊能者として活動を始めて暫くした時にちょっと厄介な連中に関わってしまいまして監禁された上にレイプされたんですよ
その時のショックで真琴の中に別人格が生まれてしまったんです
暫く普通の生活すら出来ない状態でしたが治療をしてある程度その人格を抑え、普通の生活が送れるまでになりました
勿論、真琴には琴吹で在る時の記憶も全くありませんしとても否定的です
彼にとって琴吹が受けた屈辱や抱える殺人衝動は認めたくない己の一部分なんです
でも、それも彼の一部である事には違いないので偶にここへ来て琴吹の人格を呼び出しヒーリングを行っているんですがどうやら昨日はここへ来る前にターゲットを見つけてしまったようで‥」
淡々と語ると少し苦笑した。
「あんたもあいつと?」
「まさか‥私はあくまで彼の胸の内を癒すだけですよ
貴方のように身体を満足させるほどの技術は持ち合わせてませんしその趣味も無いので‥」
明希は少し呆れたように聞くと早乙女は即座に答える。
「ああ、そう‥」
何だか流石にそこまで言われると恥ずかしさが込み上げてくる。そして真琴と琴吹に付いていろいろ聞いてから早乙女の元を後にして帰宅する。
「だから勝手に入ってくるなと言っただろう‥」
帰宅してまた明希はうんざりした顔で琴吹に言った。
「そんな顔しないで‥もっと欲しいんだ」
また昨日と同じように濃厚なキスを求められ明希は仕方なく応えたが流石に昨日、一晩中励んだので適当に快楽を貪るとごろんとベッドに身を横たえる。
「あんたこんなにちょくちょく出てきて良いのかよ?
真琴って奴の生活に支障出たら不味いんじゃないのか?」
「別に支障が出るような出方はしてないよ
あいつが苦痛に思う事は全部引き受けてるんだからこれくらいは構わないだろ?」
煙草を咥えながら明希が聞くと琴吹は背中を向けたまま答えた。早乙女から聞いた話にもあったが真琴が強く否定した気持ちを琴吹は逃げる事も無く全て大切に抱えているのだ。それを考えると少しこの琴吹と言う人格が意地らしく思えてくる。
「そう言えば明希ちゃん、俺より年下だったんだね?
俺、てっきり年上かと思ってたよ」
さっきまでの話から一転して頬杖を突きながら琴吹が言うのを聞いて明希は少し驚いたような顔をした。その華奢な身体つきはどう贔屓目に見ても二十歳前後にしか見えない。
「あんた幾つだよ?」
「二十七」
呆れたように聞くと少し笑って答えたのを聞いて固まる。てっきり自分より年下だと思っていたから尚更だが強請るように向けられる視線の妖艶さはそれを納得させる。おそらくノーマルな男でもこの顔で迫られれば一線を越えてしまうだろう。
「ったく‥金取るぞ」
明希は言いながらまた強請るように向けられた視線に応えた。結局、また朝方近くまで情事に及んでしまい明希は寝不足を抱えながら目を覚ます。やはり目が覚めると琴吹の姿は無く、書置きだけが目に入った。
一応何かあったら真琴に力貸してやって‥
名刺は貰っとく
それを見て諦めたように明希は溜息を吐く。以降、二人との奇妙な付き合いが始まったのだった。
おわり