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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
9/19

09-悪魔の騎士

 俺──レオンの封じられていた力が、全て解放されたのが、自分でよくわかった。


 悪魔っつーのは、負の感情を司る生き物なんだ。負の感情ってのは、原始的な感情って言い換えることも出来る。

 そして俺は、そんな感情を内包した悪魔だ。


 憤怒ラース


 暴食グラトニー


 傲慢プライド


 強欲グリード


 怠惰スロース


 色欲ラスト


 嫉妬エンヴィ


 封印されていた醜い感情が、俺の中から一気に溢れ出した。

 俺の全てを解き放った男が、地面に這いつくばらないように支えながら、少し離れた場所に立っていたフェリスに視線を向けた。


「レオン……?」


 フェリスは少し不安そうな顔をしていた。んなシケたツラすんなよな。


「こいつ、すげぇよ。俺の封印を全部ぶっ壊しやがった」


 溢れる全能感が、俺の気を大きくしているのがわかる。


「それなら良かったですね」


 フェリスは安心した様子で、柔らかな笑みを浮かべた。

 普通は悪魔が考えるようなことじゃねえんだけど、フェリスは聖女と評するに相応しい表情をしていた。


「マスターを返してください」


 その会話を遮るように、別の女が口を開いた。

 レイルバレル、だったよな。

 彼女は、俺が支えてるこいつに手を伸ばしていた。


「おっと、わりぃ」


 大人しく彼を返してやった。

 俺がこいつを支えている必要はねえ。

 ……にしても、気を失っちまったのに、このレイルバレルって女は焦る気配がない。

 不思議だ。俺が口を挟むことじゃねえけどよ。


「……はあ」


 思わず肩を竦めて、溜息を吐いてしまった。


「どうしたのですか?」


 フェリスが隣に立った。


「色々と回り始めたな」


「……ああ、そうですね」


 これ以上に望んだら罰が当たる。

 強欲の権能も持っている俺がそう思ってしまうほどに、力で身体が満たされていた。


「これなら、お前を外に連れ出してやれる」


 フェリスをここに閉じこめる呪いも、この力があればぶっ壊すことができる。


「ありがとうございます。お願いできますか?」


「当たり前だろ。俺はお前の騎士だからな」


「……期待してます」


 上目遣いでフェリスは俺を見あげた。そこに感じた色っぽさは、俺の色欲の感情を異常に刺激した。


「んで、今後はどうする?」


 その色欲を制御する為に、俺はフェリスに別の話を振った。


「彼らに恩を返す必要があります。

 私の事情に巻き込んでしまった貴方を、その縛りから解き放つ手助けをしてくれました。

 私の性ですが、恩は返さねばなりません」


 名前が無いって面倒だな。流石に誰のことを言ってんのかはわかったが。


「俺はお前に巻き込まれたとは思ってねえよ」


 騎士が守りたいものを守って何が悪いんだよ。そうやって俺が思ってても、フェリスの心が晴れるわけじゃねえしな。


 恩返しって意味なら、ひとつ思いつくことがある。

 上手く行けば、俺たちも彼らも、ウィンウィンの関係になれるかもしれねえ。


「俺はお前を守るのは当たり前だが、こいつだったら剣を捧げても良いと思ってる」


 騎士には王が必要だ。王が存在して初めて騎士となる。

 俺は悪魔である前に騎士である。

 王に相応しい者が現れれば、今後の身の振る舞いを考えないわけにはいかない。


 つまり──


「俺が騎士として、彼を王として忠誠を誓うってどうだ?」


 フェリスが駄目だと言ったらそれまでだ。

 俺にとって、彼女以上に大切な存在はいねえ。


「私も良いと思いますよ。

 色々と見えてしまったのでわかりますが、私は彼らと共に動くべきだと思いますし」


 フェリスは他者の魂を見ることができる。彼らの魂を見て"そう"言うのであれば、彼らと共に動かない理由が無くなった。


 より良い主を探す程度にはなるんだろうが、少なくとも俺とフェリスを害さなけりゃ、極端な事を言えば、誰でも良かったりする。


 その中でも、神々と戦って勝てそうなやつを、俺は主君にして仕えたい。

 こうやって、封印を解放されても、負けてまた封印されちまったら意味がねえんだ。 


 ふと、俺の封印を全て解除した男に視線を向ける。

 彼は意識を失っていたが、心做しか心地良さそうな表情をしていた。


「レイルバレルって言ったか?

 こいつ、名前を付けてやらないのか?」


 レイルバレルに話を振った。


 彼を床に寝かせて、レイルバレルはそんな彼に膝枕をしていた。

 魂なんて見なくてもわかるくらいに、彼女は彼が好きで愛している。表情が優しい。

 俺とフェリスの間にあるものとは、違う愛情だと思う。

 自分で自分の愛を語るのは、非常に居た堪れない気分になったから、やっぱり考えんのはやめる。


「レイと呼んでください。

 ……私がマスターに名前を付けるなんて、とても恐れ多いですよ」


 その答えは、半ば理解できていた内容だった。

 レイルバレル──レイは、彼を非常に敬愛している。


「お前、こいつの何処が好きなんだ?」


 俺は気になっちまったから、ついついぶっきらぼうに聞いてしまった。


「優しいところですかね。いえ、他にも良いところは沢山ありますけどね」


 ふふっ、と彼女は笑った。


 レイの言動を傍から見ると、まるで彼とは対等のように見えることがある。

 だが、それはちげえみたいだ。明確に上下関係がある。少なくとも彼女は、彼を圧倒的に上の存在だと考えている。


 この男に、自分が上であるという感性があるとは思えねえけど。

 全開状態の俺でも、勝てるかどうか怪しいこの男は、誰かに威張ったりする様子は見せなかった。

 俺と話してる時は、そんな素振りは見せなかったし、そんな素振りを匂わせることもしなかった。

 普段からそのような態度をしているような、そんな考え方をしているのであれば、流石に俺でも気が付ける。


 ……それでも、傲慢な彼の心は見えなかった。


「レオン、乙女心に土足で踏み込むのは良くないですよ」


 フェリスに窘められてしまった。これ以上をレイに聞くなと言われちまった。


「わーったよ」


 俺は反抗せずに素直に頷いた。口うるせえなぁと思ったのは、俺が悪魔で粗暴なやつだからだろうな。


「レイさん、寝具を使いますか?」


 地べたに直で座っているレイに、フェリスが問い掛ける。


「いいえ、このままで問題ありません。

 じきに目覚めるでしょうし」


 レイはまるで壊れ物を扱うかのように、優しく柔く撫でていた。

 それを見て、俺の中にもひとつの欲望が湧いてきた。


「フェリス」


「どうしました?」


「いや、ちょっと膝枕が羨ましいなと」


「……私の膝をご所望ですか?」


「そういうこった」


 話が早くて嬉しい。


「良かったです。彼女の膝が良いのかと」


「んなこと言うわけねえだろっ!?」


 俺にはお前しかいねえよっ!?


「冗談。

 ……急に変なことを言い出すものですから、少し照れくさくなってしまいました」


 小さく舌を出して笑うフェリスは、その均等の取れたプロポーションも相まって、まるで、不可侵の聖女様が軽くお巫山戯をしているかの印象を受けた。


 聖女ってのは……まあ、とんでもなく清楚な女性とでも考えてくれればいい。


 とんでもなくフェリスが可愛く見えるのは、これは醜い感情の封印が外れたせいか……?


「レオン、大丈夫ですか?」


 俺の様子の変化に気が付いたんだろうな。こてんと小首を傾げて覗き込んできた。

 顔と顔の距離は、少し踏みこめば当たる距離だ。


「んっ」


 本能のままに唇を合わせると、フェリスは可愛らしい声を上げた。


「はっ……はっ……」


 少し離れると、赤く火照った顔をしていたのは、俺の"色欲"が彼女にも伝播したからだろう。


「……レオン、これは、ダメですよ……」


 モジモジとしながら、フェリスは少し睨むような顔をしていた。


「いや、わりぃ。封印が外れてからタガが外れっぱなしだ」


 悪魔ってのは、原始的な感情を他者に植え付けて、増幅させることを生きる糧としているから、俺が今やったのは酷く悪魔的な……本能的なやつなんだよな。


 逆に天使ってのは、他者の魂を見て、様々なことを行う種族だ。例えば異世界召喚の対象にする人物を探したり……とかな。


「……レオン、その、私を寝具に」


「おいおい、良いのか?」


「……駄目です。私を寝かせるだけです」


「……わーったよ。ちぇっ」


 フェリスを抱けると思ったのに。


「来客中に……許すわけないでしょう?

 ……この馬鹿」


 彼女は俺から伝播した原始的な感情に、強い理性で抗っていた。

 その罵倒は可愛いから逆効果なんだよなぁ……と思ったが、それは言わねえようにしよう。


 彼女の中にある原始的な感情を冷めたら、とてつもない説教を喰らう可能性が高い。いや、恐らく一時間は正座コースだろう。

 今はヘイトを貯めないに限る。


 俺はフェリスの華奢な身体を抱えて、家の中に置かれている寝具に寝かせてやった。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:レオン

 種族レイス:ロードデーモン

 能力アビリティ

 ・憤怒ラース:Lv.ERROR

 ・暴食グラトニー:Lv.ERROR

 ・傲慢プライド:Lv.ERROR

 ・強欲グリード:Lv.ERROR

 ・怠惰スロース:Lv.ERROR

 ・色欲ラスト:Lv.ERROR

 ・嫉妬エンヴィ:Lv.ERROR

 技術スキル

 ・飛翔デーモンフライト:Lv.9

 ・剣術ソードスキル:Lv.10

 ・盾術シールドスキル:Lv.10

 ・生活雑務ライフメンテナンス:Lv.4

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