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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
7/19

07-原初の天使

「レイルバレルさん。まずは感謝を」


 私──フェリスは美しい黒髪を携えた女性に、ひとつ丁寧な所作を心掛けて頭を下げた。


 何故このような行動を取ったか。それは彼女の魂を見たからです。


 私の魂は今年で1030歳となります。これでもそれなりに長寿であるはずなのに……


 彼女たちの魂の年齢は、何億……いや、何兆?

 少なくとも私の目にはその概念を捉えることができませんでした。


 即ち、私より圧倒的高次元な存在であることは、明確にわかってしまったのです。


 だから、丁寧に対応しなければなりません。


「レイでいいです。私もお話したいと思ったので、気にしないでください」


 彼女はそう言ってくれました。……良かった。


 レイルバレル──レイさんの魂の根幹にあるのは、隣に居た彼への"愛"でした。

 そこまで見えたのにも関わらず、彼の魂に刻まれた名を私が口に出した時に、とても困ったような焦ったような、そんな表情をしたのです。


「……何故、マスターの名を?」


「その話に移る前に、こちらに掛けてください」


 それなりに長い話になるだろうと思ったので、私は居間の中央に置かれた、木製のテーブル席に座るように促します。


「……わかりました」


 少し不服な表情をされましたが、それでも素直に誘導に乗ってくれました。


 私は彼女が席に着くのを確認しながら、二つのカップにお茶を汲みテーブルに置きました。


「粗茶ですが、良かったら」


 すると、彼女の表情は不服なものから怪訝なものへと変わりました。


「毒は入ってませんよ」


「……それは気にしてません」


 私の言葉は、どうやら余計だったようです。


 私は相手の魂を見ることができますが、考えが読めるわけではありません。


「何故、彼の名を隠しているのですか?」


 席に着いた私は、目の前の彼女に問いかけました。


 彼の魂に刻まれた名は"シン"だったのに、目の前の彼女はそれを知っているのにも関わらず、意図的に隠しているかのような、そんな印象を受けたからです。

 確かに彼の魂には、様々な魂の欠片が纏わりついていましたし、普通の魂では無いのだろう……とは思いましたが。


「そういう呪いなのです。

 私が神々と約束した……それと引き換えに受け入れた、私の、呪いなんです」


「彼の名を告げることが、出来ない呪いなのですか?」


 彼女の言葉はあまりにも抽象的で、ついつい深堀するように私は聞いていました。

 こういう私の性格は、この階層に封印される前から変わりませんね。


「……いえ、彼の過去に、私が触れることができない呪いですね」


 レイさんは恐る恐る、周囲には聞こえないように言いました。

 私にしか聞こえない、本当に小さな声でそうやって言いました。

 その声音と、表情には、とても大きな名残惜しさを感じました。

 まるで、レイさんは彼の過去に触れたがっているような、そう考えているのではないかと思ってしまうほどでした。


「大切な方なのですね」


 彼女にとって彼は大切な存在なのでしょう。どうしようもなく愛おしくて、どうしようもなく思い悩んでしまうのでしょう。


「……まあ、それは、そうですね」


 レイさんはとても優しそうな、そんな柔和な表情をしていました。

 美人が更に美人に見えるほどに、柔らかな雰囲気を漂わせて。


「呪いの解呪であれば、私ができるかもしれませんよ?」


 私は恩を売る目的もあって、彼女にそんな提案をしてみました。


「いいえ、結構です。もし仮に試みるとしても、今はまだ時が早いのです」


 レイさんはカップを口に運んで、優雅な動きでずずっとお茶を啜りました。


「それは……何故ですか?

 レイさんはこんなにも、彼の事を愛しているのに」


 魂に刻まれるほどの愛が激情でないはずがないのに、なぜ彼女は待つことを選ぶことができるのでしょうか?


「フェリスさん、昔話を……聞いてくれますか?」


 レイさんはまた、小さな声で恐る恐る続けます。

 それはまるで、私の疑問になぞるかのように、けれども、自分の感情の吐露する先を探すかのようにも感じられました。


「もちろん、構いませんよ」


 他者の悩みを聞くのは、私の天使としての本分ですから、もしお話してくださるのであれば、私は幾らでもお伺いしましょう。


「私は彼の妻、だった者なんです。

 ……といっても、幾兆年も昔の話なんですが」


 レイさんは語り口調で、ゆっくりと話し始めました。


「彼はどんなおなごも好きに娶ることができるような、そんな強大な王でした」


 彼女は少し寂しそうな表情をしていました。


「どれくらい強大かと言いますと、宇宙全土を統治するような……それくらいです」


 彼女の愛しき相手は、彼女の言葉を信じるのであれば、様々な世界の創世神話の時代から存在していることになります。


「それでも、彼は私を大切に愛してくれました。宇宙の全てを収めた彼は、それでも私を愛してくれました」


 彼女の魂は幾兆と年月を重ねています。それは彼も同様です。それを考えると、到底信じられない話でも信憑性が上がりますね。


「私はそんな生活が幸せでした。そんな男に愛されて、不幸せであることわけがありません」


 レイさんは、しとしとと言葉を続けます。


「……ですが、そんな平穏は、宇宙崩壊が始まると同時に、あっさりと崩れ去ります」


 一千年以上生きた私でも、全く聞いた事のない歴史です。

 惑星単位の崩壊ですら、ほとんど知らないですし聞くことはありません。


「王は様々な英雄と共に、宇宙崩壊の原因となった超巨大なブラックホールへと、立ち向かっていきました」


 本当に聞いたことがない歴史の話です。彼女の妄想だと一蹴しても良いくらいです。

 ……ですが、一蹴にできない説得力があります。


「そのブラックホールを力で壊すことができませんでした。どんな技術や感情があっても、その領域に辿り着くことはできませんでした」


 ブラックホール、私が知る限りは全ての光を飲み込む影だとか……


「だから王は、自らの身体をブラックホールに投げ込んで、そして、そのブラックホールを乗っ取る形で宇宙崩壊の危機を救いました」


 私の視線には、思わず恐怖の色が宿ってしまった。

 彼がブラックホールの力を抱えているということは、それ即ち、いつでも世界を飲み込むことができるということだから。


「ブラックホールと同化して、身も心もやつれてしまった彼を裏切ったのは、様々な世界の神々でした。

 ……あろうことか、彼を助けてやるから、その代わりに王であった過去に触れるなと」


 そこに強い恨みがこもっていました。対峙する私が、思わず身体を仰け反らせるほどに。


「私が彼に過去を教えてしまうと、あらゆる世界の神々が彼を殺しに来ます。

 そういう……呪いなのです」


 もし仮に私が解呪に失敗した場合の、その代償が大き過ぎると判断されたのでしょう。

 だから、彼女は自分の感情より冷静な判断を優先させた。


「そうなのですね。

 だから、私の力添えは必要ないのですね。

 もし可能であれば、私たちの封印を解いてもらえないかと思っていたのですが……」


 私は彼女の話に、初めて口を挟みました。

 自分が考えていたことを、正直に話した方が良いと判断したまでですが。

 基本的に相手との付き合いは、相互利益が必要です。

 特に、自分より上の相手には、先に与える事が必要です。

 ですが、こちらから与えられる物が何も無いのだとしたら、こちらが欲しい物を提示する他ありません。


「封印の解除であれば、マスターの力を借りればできると思います。

 それに、恩を売らなくても、彼はやってくれると思いますよ。

 ……そういう存在だから、私は好きになったんです」


 少し照れくさそうにレイさんは言いました。

 その表情は外見には似合っていましたが、魂の年齢には似合っていませんでした。


「その……頼んでもよろしいのですか?」


 本当に封印が解除できるのであれば、今の今まで、私の為にこの地に縛り付けていたレオンを解放してやれます。

 悪魔のくせに、天使の私を庇って、私ともども封印されてしまった愛すべき馬鹿を、そろそろ私の手から離してやらねばと思っていました。


「まずは、マスターに聞いてみましょう」


「ありがとうございます」


 私は素直に頭を下げた。

 封印を解除してくださるのならば、私も彼に力添えしようと心に決めました。


 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:フェリス

 種族レイス:プリモーディアルエンジェル

 能力アビリティ

 ・識魂ソウルディサーンメント:Lv.MAX

 ・祝福ブレッシング:Lv.MAX

 ・浄化ピュリフィケイション:Lv.MAX

 ・加護ディヴァインプロテクション:Lv.MAX

 技術スキル

 ・飛翔エンジェルフライト:Lv.10

 ・護身術アイギスアーツ:Lv.10

 ・生活雑務ライフメンテナンス:Lv.6

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