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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
6/19

06-一軒家

 少しでもいいなと思ったらブクマくださると泣いて喜びます。

「風景が変わったな……」


 350階層に到達した俺たちの視界には、今までの岩肌から打って変わって、明るく眩しい、青々とした木々や草花が広がっていた。


「……そう、ですね。生えている植物も本物……」


 レイは足元に生えている雑草に、恐る恐る手を触れる。その表情を見る限り本当に本物のようだ。


「良い階層だな。ずっとここに住みたくなるな」


 何気なく口にしたその言葉は、俺の心に少し棘を刺した。

 ……なんで、少しチクッとしたんだろうな。過去の俺と関係あるのかな。あるのかもしれないな。


「私はもっと長閑な、もっと自然な世界に住みたいですね」


 彼女の言葉は、目の前の光景に対する不満を表していた。


 その"願い"は岩肌に囲まれて三百日とちょっとを過ごした俺たちにとっては、少し贅沢過ぎるように感じた。


「これだけでも、俺は充分嬉しいよ」


「気分は晴れますね」


 レイは素直じゃない。

 そう思ったが、口には出さなかった。


「先に進みましょう」


 レイは感傷に浸る様子もなく、次の行動を促してきた。


 この階層は一本道ではなく、ダンジョンマスターと戦った時と同じで、ドーム型になっているようだった。

 大きく違うことがあるとすれば、木々や草花が広がっていることだ。


「真っ直ぐ進むのは、それなりに難しい気がするな」


 ダンジョンマスターと戦ったときは、次の階層へ続く階段がちゃんと見えていた。

 今までの階層は一本道だったから、迷うことなんてなかったんだ。

 でも今いる階層は違う。ドーム型で、しかもやたらと草木が茂っていて、先がまったく見通せない。


「まずは先に進みましょう。迷ったら悩みましょう」


 レイは俺と比べて実直行動派だと思う。けど、俺は彼女の言葉に頷きを返した。

 先に進まないと話にならないしな。物語にもならない。記憶の無い俺には、先に進む以外の選択肢はない。


 レイは進路をふさぐ草木を、右手を刃に変えて次々と切り払っていく。

 スライムの体って、自由に形を変えられるらしくて便利だ。運動能力は俺のほうが上だけど、便利さは圧倒的に彼女の勝ちだな。


 そんなレイの背中を追いながら、俺はおとなしく後ろを歩く。だけど、視界はちっとも開けてこなかった。


「マスター、ちょっと見てください」


 レイが手招きしてきた。

 指さす先を見てみると、草木の隙間にぽっかりと穴が開いていた。


「……え?」


 思わず顔を近づけて覗き込む。

 すると、その先には木造の一軒家が建っていた。


「マジかよ……」


 思わず声が漏れた。


 ついさっきまで、人の気配なんてまったく感じなかった。

 でも、一軒家なんてものを見つけてしまった以上、嫌でも「誰かがいる」と思えてくる。


「あの家を訪ねてみるか?」


 あの家に近付けば、何か新たな出来事が起こる気がした。


「私はどちらでも構いません」


 レイはあまり乗り気ではなさそうだった。

 少なくとも、俺に行動を促していた時の勢いは、今の彼女には見られなかった。


「じゃあ、行ってみるか」


 気になったから、俺は生い茂った草木から足を踏み出した。

 やがて、一軒家の玄関前に辿り着いた。


 コンコン、と片手でノックする。


「誰かいないかー?」


「……」


 俺の呼び掛けに応える者は誰もいない。


「私がいます」


 すると、後ろに立っていたレイが、俺の横ににょきっと生えた。美しい黒髪を揺らして。


「ここでボケなくていい」


 お前に言ってねえのはわかるだろ。


「……誰もいないか。残念だな」


 誰かに出会えるかもと期待した自分が居た。ダンジョンマスターはノーカンだ。あれは敵って感じがしたし。


 諦めて、そのまま次の階層に進むしかないか。

 そうやって諦観にも似た感情を抱いた瞬間──


「マスターっ!」


 俺が"立っていた"場所に、大きな大きな鎌が振り下ろされた。

 過去形なのは、レイがその攻撃に当たらないように、俺の身体を退かしてくれたからだ。


「おわっ!?」


 少し遅れてとても驚いた。目の前の地面がクレーターになっていた。


 俺はクレーターから視線を上げる。


 その大鎌を片腕で振るった男は、褐色の筋肉隆々な男であり、反対側の腕には大盾を持っていた。

 かきあげられた髪は、強い粗暴感を出していた。

 そのせいもあってか、凶悪な死神にも見えるし、はたまた、力強い騎士のようにも見えた。


「お前ら、いったい何者だ?」


 その大男は言った。どうやら、他の化け物たちとは違い、意思疎通ができるようだ。

 意思疎通できるからと言って、仲良くやれるとは限らないが。あのダンジョンマスターは無理だったし。


「俺たちはこの地下から来たんだよ。名前は忘れた。過去の記憶が無いんだ」


 言いながら思う。名前が無いといちいち面倒だな。


「この下から……だと?

 ……悪霊跋扈しているこのダンジョンの?」


 その男は信じられない、といった表情をしていた。根は素直で腹芸が苦手そうだ。


「ま、それは何でもいいか。それより、俺の家に近付いた理由を言え」


 だがしかし、次の瞬間には的確な質問が投げられた。初撃から殺しに来た割には、随分と冷静な印象を受けた。


 ってか、こいつの家だったのかよ。


「誰かに会えるかなって……そう思って」


 こんな素朴な理由で納得して貰えるとは思わなかったが、事実それ以外の理由は無い。


「くっ、クハハハハっ!!

 なんだお前っ!

 おもしれーなっ!!」


 すると、目の前の男は腹を抱えて爆笑し始めた。

 いや、なんで笑われたのか何もわからないのだが??


「ああいや、悪い悪い。気分を悪くするな。

 この魔境なヘルダウンスフィアで、そんな馬鹿げたことをやろうとしてるのが面白くて……くくっ」


 いや、それ訂正になってないだろ。馬鹿にしてるだろ。

 と思ったが、隣のレイも柔らかに面白そうに笑っていたので、俺が常識外れなことは理解した。


 だから、何も言わなかった。むう……


「俺の名はレオン。

 訳あって、このダンジョンに封印されている悪魔だ」


 笑い過ぎて溢れた涙を拭いながら、彼は快活に言った。

 悪魔だった。人じゃなかった。

 しかも封印されてる、か。自分で自分を危険な存在ですとアピールしてるようなものじゃないか。


「……なんか、ドン引きした顔してるけど、てめーも下から上がってきたなら、封印されてた口だろ?」


 レオンにそうやって言われて、記憶の無い俺はふと考えた。

 言われてみればそうだ。俺が目覚めたあの部屋は、俺を封印する為の箱だったのではないか……って。


「いや、悪い。本当に記憶にない」


「封印を壊すって、そんなに簡単なことじゃねーんだぞ?

 壊した記憶が無いってのか?」


 "そんな簡単に出来てたら、俺たちはこんな場所にいねえ"と、レオンは悪態を吐いていた。


「……苦戦した記憶はない。壊した何かが封印だったのか?」


「あながち、あんたのお気楽さを見ると、無いとは思えねえな」


「そんな気楽に生きてるつもりは無いが……」


「いや、お気楽過ぎるだろ。

 そんな脳天気な感じで、普通は生き残れねえよ」


 "特にこのダンジョンでは"と、レオンは続けざまに呟いた。


 突然に、一軒家の玄関扉が開いた。

 ぎぃ、という音が鳴ったから、自然と俺とレイの視線が一軒家の方に向かった。


 そこには、銀髪で見た目麗しい、まるで聖母のような女性が立っていた。レイほど長くは無いが、それでも長く美しい髪を揺らしていた。


「フェリスっ!?」


 レオンはそれを見て、焦ったように叫んだ。

 そうか、さっきこいつは俺"たち"って言ってたな。この階層に住んでいるのはレオンともう一人──今、彼がフェリスと呼んだ女性なのだろう。


「レオン、そんなに焦らなくても大丈夫ですよ」


 静かで品のある足取りで、彼女は俺たちの目の前まで歩み寄ってきた。


「初めまして。私の名はフェリス。

 貴女の名はレイルバレル。

 そして、貴方は……シン、ですね?」


 彼女はごく当たり前のように、レイの真名を口にした。

 どうしてその名前を知っているのかはわからない。しかも、それだけじゃない。


「……いや、俺に“名前”はないはずだ」


 そう、俺は“シン”なんて名を聞いた覚えがない。

 だから、今の自分の認識のまま、彼女の言葉に否定で返した。


「そうなのですか?

 ……そのようですね。失礼致しました」


 フェリスは小首を傾げてから、その所作のひとつが、整い過ぎた容姿から彫刻のような印象を与えながらも、何かを見て思い至ったのか、柔らかに頭を下げた。まるで失言だったとでも言うように。


「レイルバレルさん、少し時間をいただいてもよろしいですか?」


「……はい」


 レイはフェリスの誘いに、渋々といった具合に頷いた。


「レオン、その方とお話しててください」


「おうよ」


 フェリスの言葉にレオンは頷く。


「だってよ」


 そして、彼の大きく太い腕が俺の肩に回された。暑苦しい……いや、暑くはないんだが、暑く感じるんだよ。


「では、マスターは少しお待ちください」


「わかった」


 レイは躊躇いもなく、フェリスのあとを追って一軒家の中へと入っていった。

 扉が閉まる音が、妙に遠く響いた気がした。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム

 種族レイス:???

 能力アビリティ

 ・直感センス:Lv.MAX

 ・個別情報一覧ステータス

 ・創造クリエイト:Lv.MAX

 ・暗視ナイトビジョン:Lv.MAX

 ・解析眼アナリシス:Lv.MAX

 ・火魔法ファイアマジック:Lv.MAX

 ・雷魔法ライトニングマジック:Lv.MAX

 技術スキル

 ・格闘術マーシャルアーツ:Lv.MAX

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