05-ダンジョンマスター
俺とレイは、1000階層の底から、ようやく400階層に辿り着いた
俺が初めて目覚めてから、既に300日以上経っていた。
「……特殊な階層ですね」
俺たちが立っている階層は、今までの階層とは違いドーム型の空間になっていた。
そして、その中央にひとりの人間がいた。
こんな空間に存在する人間が、ただの人──ヒューマン族であるはずがない。
「……何者だ?」
素直に問いかけた。会話ができるならそれに越したことはない。
「人に正体を訊ねるならば、先に名乗ったらどうだ?」
その男はそう言った。ごもっともな指摘だが俺には少し厳しかった。
「俺には記憶が無くてな。だから、名乗れる名前を知らないんだよ」
名前くらい教えてくれたって良いだろ?
と、無言の圧力をレイに向けておく。彼女は美しい黒髪を揺らして拒んだ。
まあ、わかっていた結果だから、それに対して何かを思うことはない。
「それは、随分と哀れだな」
憐憫の篭った視線で、ダンジョンマスターは言った。その瞳はある種の老練さを感じさせる。
「だろ?
会話ができるなら話が早い。俺は上を目指してるんだ。通してくれるか?」
話は通じそうだ。だがしかし、大人しく通してくれるとは思わなかった。
何でそう思うのかって?
ただの直感だよ。
「私はこのダンジョンのダンジョンマスターだ。
ここを通りたければ、私を殺してから往け」
ダンジョンマスターはそう言った。
ほらな、俺の直感は当たるんだ。不用意な殺しは嫌いなんだがなぁ。
「ダンジョンマスターってなんだ?」
隣に立っていたレイに耳打ちする。
「ダンジョンマスターとは、ダンジョンを管理、支配する存在です」
彼女の話を聞いて、そこまで強くは思えなかった。恐らくは、戦闘が得意な種族ではないだろう。
「ダンジョンマスター、本当に良いのか?」
目の前に立っている彼が、俺の相手になるとは思えなかった。
「構わん、掛かってこい」
だがしかし、ダンジョンマスターはそう言った。
知性的な瞳を宿す男だから、俺との力の差を理解してくれないかと、そう願っていたんだが……どうやら、戦いは避けられなさそうだ。
大地を蹴りこんだ。次の瞬間には、俺はダンジョンマスターの真正面に立っていた。
「速いなっ」
ダンジョンマスターはこの速度を見ても、喋る余裕があるらしい。
俺は拳を手加減無しで振るった。すると、ダンジョンマスターの身体は弾けた。
それでも、倒せていないことはわかった。
何故なら、身体は木で出来ていた──いわゆる変わり身という奴だろう。
「流石だ。下から登ってきただけはある」
そんな声が聞こえた瞬間、ダンジョンマスターの攻撃を、この身に受ける以外の選択肢は俺にはなかった。
無数の岩肌が剥き出しになった槍が、身体に突き刺さった。
俺の身体は、槍の先端に叩き付けられて宙を舞う。俺が先程まで立っていた場所に、ダンジョンマスターの姿があった。
……あれもたぶん変わり身なんだろうなぁ。
「……ほう?」
ダンジョンマスターは不思議そうな顔をしていた。
槍が俺の身体を貫けなかったからだろう。普通は槍を突き立てたら刺さるんだよ。
「随分と頑丈な身体をしてるな?
耐久値だけ見れば神話級以上だ」
ダンジョンマスターは上手く着地した俺を見て、不思議そうな、はたまた興味深そうな表情をしていた。
そう言えば、その神話級とやらってどれくらい強いんだろうな?
レイも神話級って言葉を使うが、俺はその階級とやらを詳しく知らない。
「お前は何級なんだ?」
「私か?
ダンジョンマスターは基本的に神話級だな」
「……そうか」
再びダンジョンマスターの目前に身体を潜り込ませる。
それなりの速度で懐に入り込んだつもりだが、ダンジョンマスターはしっかりと俺の速度を目で追っていた。
ここで拳を振っても、ダンジョンマスターには当たらないだろう。
だったら、当たるまで殴る。どれだけ変わり身を使おうが、殴って殴って殴り倒してやる。
俺の拳とダンジョンマスターの間に岩壁が差し込まれる。そのまま叩き割って、更に一歩進もうとすると、既にダンジョンマスターと俺の距離は離れてしまっていた。
こいつ、移動も早いのか。
「マスター、倒す必要は無いのでは?」
少し離れた所から、レイの通る声が聞こえた。
冷静にダンジョンマスターを見据えて、少し考えてみた。
レイの言う通りだな。このまま強引に突破する分には、そこまで困らなさそうだ。
「方針変更だ。付いてこい」
「イエス、マスター」
踵を返して走り出す。
戦いを選ばないというのは、弱さではない。勝つ必要のない戦いを避けるのは、選択肢の一つだ。
「行かせんっ」
レイと合流しようとすると、それを阻むように岩壁が地面から生えてくる。それを拳ひとつで爆砕すると、そのまま彼女と合流した。
「彼には、マスターを止める手立てがありません」
「俺も倒す手立てが無いから、条件的には引き分けって感じだな」
俺たちの現状認識はほぼ同じだった。
「急ぐぞ」
俺はレイを抱えて、399階層に繋がる階段に向かって走り出した。
レイを腕に抱え上げると、そのまま全力で駆け出した。
レイは俺よりも足が遅い。
だから、全力で移動する時は、レイは抱えて移動する。
……そもそも、俺より足が速いやつがいるのか些か疑問ではある。
振り返ることはしなかったが、ダンジョンマスターが俺たちを追い掛ける気配はなかった。
「結局、あいつは何だったんだろうな?」
今までの敵とは違い、どうしても相手を害してやろうという殺意が感じられたんだが、あのダンジョンマスターからはそれが感じられなかった。
今も追ってくる気配がない。
「マスターが試されたような、そんな感じがしました」
「試された……か。門番的な立ち位置だったのかな」
「それはあると思います」
岩肌に削られた、上の階層に繋がっている階段に辿り着いた。
「後は階段を登るだけだな」
俺はレイを地面に降ろす。彼女と共に399階層に足を踏み入れる。
「またか──」
「変わり映えしない道が続きますね」
その先に続いていたのは、何度も通ったような岩肌の一本道だった。
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