04-レイとの出会い
「んっ……」
俺の意識に光が差し込んだ。よく眠っていたようだ。
「お目覚めですね。マスター」
「ああ、おはよう。レイ」
レイの声が聞こえた。俺はその言葉に挨拶を返した。
……挨拶を返し、た?
あれ、えっと……?
その信じられない事実に、頭が全力でフル回転させながら、上体を勢いよく起こした。
えっと、今、俺は喋ったよな?
ってか、俺の目の前に黒髪黒目のとても美しい女性がいるんだけど、これってどういうことだ?
改めてまじまじと観察する。彼女は長く美しい黒髪を下ろしていて、その瞳は吸い込まれそうな程に真っ黒であった。
「マスター。目を白黒させてどうしたのですか?」
隣に座っていた彼女は、そんな俺の動揺を察したのか、優しい手付きで俺の頬を撫でた。
「……君は誰だ?」
「忘れてしまったのですか?
私はレイルバレル。マスターの従者ですよ」
えっ、えっ……
「え"え"え"え"え"え"え"えぇえぇェェェェっ!?」
思わず絶叫してしまった。
確かに1000階層から500階層までの間で、こいつ俺の能力の一部なのにやたら自我を持ってるな、とかはずっと思っていた。
でも、能力は自分の一部なんだから、自分の自我の裏面みたいなものだと考えていた。
まさか、完全に別人格だったとはな。
「驚き終わりましたか?」
彼女は面白そうな表情を浮かべてていた。
「いや、まだ驚いてる」
「マスター、感情の上がり下がりが大変ですね」
「いや、レイのせいだからな?
って、こうやって出てこれるなら、最初から出てきて話し相手になってくれれば良かったのに」
1000階層から500階層まで、誰も話す相手が居なかったんだぞ?
それなりに寂しかったんだけどなぁ……
「マスターの考えに、偶に返事はしてたかと思いますが?」
「いや、そうかもしれないけど、実際に口で喋るのとは違うだろ?」
温かさが違うっ!
温かさがっ!!
「そうですか?
そういう所は昔から変わりませんね」
言葉だけの時からは想像ができないほどに、レイは柔和な表情をして話していた。
って、今とんでもないこと言ったな?
「俺の昔を知ってるのか?」
「あっ……」
レイは"しまった"といった表情をしていた。そして、少しだけ顔を引き締めてから、更に言葉を続けた。
「マスターの言う通りですね。私もついつい緩んでしまったのかもしれません。
ですが、マスターの過去に触れることはできないのです。
もちろん、勝手に思い出す分には問題ないのですが……」
「……そうなのか」
どんな理由があるのかは、過去の記憶がない俺にはわからない。
だけど、こうやって面と向かってレイと話してみると、とても俺の敵に回るような存在には見えなかった。
「レイはどうして、こんなに美しい女性になったんだ?
いや、どうやって……と聞くのが正しいのか?
それとも、元からレイはこういうことができたのか?」
だから、別の疑問を彼女にぶつけた。
美しいというのは、皮肉ではなく紛うことなき事実だ。
「この姿は、私が霊体になる前の姿なのです」
霊体──物質的な肉体を持たない精神的存在のことだ。
「へえ、そうなのか」
俺の知らない過去の話だから、ふわっと流すしかない。
「マスターを包んだスライムの身体を乗っ取って、この身体に変身したのです」
「あぁ、あのスライムを……いやまて、乗っ取るってなんだよ?」
意味がわからない。
「元を正せば、私の霊体はマスターの身体に定着していませんでした」
「霊体はひとつの物理的身体にひとつ、という常識は知ってる」
「マスターのおっしゃる通りです。
少し訂正します。
マスターの霊体が定着した肉体に、新たに私の霊体は定着させられませんでした」
「だから、俺の肉体から離れやすかった?」
「はい。
スライムとは意識の薄い生命体ですので、私ほど強い意識があれば、その身体を乗っ取れると思ったのです。
上手くいけば、私も身体が手に入るかもしれないと、そう思いました」
「その予想が当たった、ということか」
「はい。ですので……こんなこともできますよ」
「おおっ……」
レイの右手が液体状の触手に変わった。その様子を見て、思わず感嘆の声がこぼれた。
「面白い身体だな」
「……その点では、マスターもまた服が……」
「あっ……」
また服が無くなっていた。いや、なんでだよ……
ってか、面白い身体ではないだろ。何が"その点では"だ。
能力"創造"を使用して、前まで着ていた一張羅を作成した。黒の長袖の軽衣に長裾の脚衣を身につけた。
この「創造」という能力は、「能力創造」や「衣服創造」など、いわゆる“創造系”の能力を統合したものだ。
「先に進むか」
少し気まずさを感じて、立ち上がった俺は進行方向に視線を向けた。
「ふふっ、そうですね」
どうやら、そんな俺の感情も筒抜けになっている感じがした。
「そんなに苦い顔をしないでください」
レイも静かに立ち上がった。無駄のない動きと美しい姿勢が、どこかしなやかな印象を与えていた。
「本当に俺の昔を知ってるんだろうなって、そう思ってさ」
「そうですね。私から見ると、マスターとは長い付き合いです」
レイから見た俺との付き合いと、俺から見たレイとの付き合いは、同じようで全く違う。
少し寂しいような、けれども、彼女は教えられないと言うから黙るしかない。
……気になるなぁ。
「先に進みましょう」
レイは変わらずに俺の行動を促した。
声色は機械的にも聞こえたが、表情はとても柔和であった。
変わらないことを悩んでも意味がない。
レイに反抗する理由もないから、言葉の通りに先に進むことにした。
個別情報一覧
名前:
種族:???
能力
・直感:Lv.MAX
・個別情報一覧
・創造:Lv.MAX
・暗視:Lv.MAX
・解析眼:Lv.MAX
・火魔法:Lv.MAX
・雷魔法:Lv.MAX
技術
・格闘術:Lv.MAX