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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
16/19

16-求愛

「……で、なんでこんなことをしたんだ?」


 俺──シン・エルヴァディアは、深紅のドレスをまとった女に、できるだけ冷静に問いかけた。


 ミリアリア。金色の髪に、血のように赤い瞳。いかにも吸血鬼然とした容姿だった。


「貴方が、いい男だったからよ」


 即答だった。迷いのない返しに、俺の眉がわずかに動いた。


「それがどうして、こんな手荒な真似に繋がる?」


「強引にでも、既成事実を作ってやろうと思ったのよ」


 気づけば、彼女は俺の背後に立っていた。攻撃の気配はない。代わりに、柔らかな感触が背中に押し当てられる。


 ……どうやら本気で、アプローチをかけてきているらしい。


「別に、私だけを選んでとは言わないわ。……それでも、どう?」


「魅力的な提案だな」


 正直に言えば、ミリアリアは十分に魅力的だった。妖艶で、品もある。背後から伝わる体温も、それを裏付けている。


「私、貴方の血を吸ってみたいのよね」


「……それが目的か?」


 吸血鬼という種族が血を糧とするのは、知識として知っている。


「違うわ。私ほどの存在になれば、吸わなくても生きていける。

 それに、好みじゃない相手の血なんて吸いたくもない」


 そう言いながら、彼女の牙が俺の肩をそっとなぞった。くすぐったい感触が残る。


「……ねえ、もっと貴方のこと、知りたい。

 いろいろ、聞いてもいい?」


「答えられることは……少ないと思うけどな」


 俺には記憶がない。過去を語るにも、材料が足りなさすぎる。


「ねえ、あのレイって女。あれは、貴方の女なの?」


「……は?」


 意外な質問に、間抜けな声が出た。


「なんでそう思った?」


 俺にはその記憶はない。

 そうかもしれないと思ったことはあったが、レイの性格で打ち明けてこないということは、それはつまり、そんな事実は無いと考えていた。


「その反応……やっぱり、何か心当たりはあるのね?」


 ミリアリアは、確信があってこの質問をぶつけてきたのだとわかった。


「やだ、ちょっと。そんなに動揺しないでよ」


 軽く笑いながら、からかうように言ってくる。


「……そんなに動揺してるように見えるか?」


「見えるわよ。そんなに強いくせに、なにを怖がってるの?」


 ──何を、怖がってる?


「……わからない」


 正直な気持ちだった。自分でも、何に怯えているのかわからない。


「じゃあ、話を戻すわ。

 つまり、レイという女が妻だったという記憶は、貴方には“ない”のね?」


「ああ、ない」


 答えた瞬間、何かが胸の奥で鈍く動いた気がした。何も思い出せていないはずなのに、何かが、ざわつく。


「俺からも、ひとつ聞いていいか?」


「いいわよ。なぁに?」


「なんで、レイが俺の妻だって思った?」


 問い返すと、彼女の表情に微妙な笑みが浮かんだ。


「──その秘密、話したら私のことを娶ってくれる?」


 ……こいつ、本気だ。


 俺がそれだけの代価を支払ってでも知りたがっていることを、理解している。


「……わかった」


 その答えが、どんな責任を背負うものであっても、俺は自分の過去に手を伸ばしたかった。


「……ほんと、正気?」


 しかし返ってきたのは、どこか呆れたような声だった。


「え?」


「貴方ねえ……妻がいる“かも”って状態で、なんで他の女を娶る約束しようとしてるのよ?」


 ミリアリアは、まるで信じられないと言いたげにため息をついた。


「……まあ、それもそうだな。けど、今の俺には、それが“わからない”んだ」


「“知らなければ無罪”ってわけじゃないでしょう?

 ……じゃあ、記憶を呼び起こしてみる?」


「そんなことできるのか!?」


 思わず彼女の肩に手が伸びていた。強く掴んだ自覚はあった。


「ちょっと、痛いわよ」


「……悪い」


 俺はそっと彼女から手を離した。


「貴方、迷子なのね。

 ──いいわ。助けてあげる」


 その言葉とともに、彼女の鋭い牙が、俺の肩に深く刺さった。


「一瞬だけ、私の眷属になって」


「……っ!?」


 その瞬間、俺の中の“何か”が燃え上がるのを感じた。




「レイ、おはよう」


 俺──シン・エルヴァディアは、かつての記憶の中にいる“妻”に声をかけた。


「おはようございます、旦那様」


 風に揺れる長い黒髪。静かな笑顔。白いワンピースがよく似合っていた。


 思わず手を伸ばして、彼女の頭にそっと触れる。


「……どうしたのですか?」


 撫でられながら、彼女は不思議そうにこちらを見上げた。


「──思い出した」


 この景色、この温度。この感情。


 俺は、かつて宇宙のすべてを治めた王だった──シン・エルヴァディア。




「きゃっ……!」


 ミリアリア・トランジスタの身体が、何かに弾かれるように吹き飛んだ。


 理由は分かっている。

 彼女の眷属化によって、俺の中の力が完全に目覚め、封印されていた記憶が呼び起こされた。

 だがそれは、主従のリンクを一瞬で破壊するほどの力の奔流だった。


「ゲホッ……!」


 彼女が血を吐いたのは、無理もない。

 吸血鬼の眷属化とは、血を通して魂を結ぶ行為。その結び目が一方的に破断されたのだ。


「……ありがとう」


 俺は、感謝の言葉と共に手を差し出す。

 掌から放たれた創造の力で、彼女の身体に負った損傷を修復していく。


「はぁ……っ、ほんと、無茶苦茶ね……で、私のこと、娶ってくれる?」


「思わず即答したくなるくらいには、いい女だ」


 それは本音だった。

 俺の心を揺らすほどに、彼女は強く、美しく、魅力的だった。


「でも……俺には妻がいる。レイを裏切ることはできない」


 レイに聞かずして、勝手に決める話ではない。


「ふふっ、やっぱり。──そういうところも、好きになっちゃうのよね」


 ミリアリアは微笑んだ。


「この境界、もうすぐ消えるわ。彼女と、ちゃんと話してきなさい」


「……なぜ、そこまで?」


「惚れた男には、一番いい顔をしていてほしいのよ」


「君に惚れられた男は、幸せだな」


「あら、じゃあ貴方は幸せね」


「……そう思うよ」


 血の結界は、静かにその姿を消していった。


 俺の視線は、ミリアリアから離れて、レイルバレルに向いていた。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:シン・エルヴァディア

 種族レイス:アビス・オリジン

 能力アビリティ

 ・創造クリエイト:Lv.MAX

 ・全能オールマイティ:Lv.MAX

 技術スキル

 ・模倣コピー:Lv.MAX

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