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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
15/19

15-神祖の吸血鬼

「……」


 ここは……どこ?


「シン王、目覚めましたよ」


 銀髪の、まるで天使のような女性が──私、ミリアリア・トランジスタの目に映った。


 彼女は、すぐそばにいる細身の男性に語りかけている。

 状況はまったく掴めない。だから、まずは彼らの関係性を調べることにした。


 “血眼ブラッドサイト”を使用。


 褐色肌の男性と目の前の銀髪の女性──この二人には血の繋がりこそないが、家族同然の絆があるようだ。


 一方で、黒髪の女性と灰色髪の男性のあいだには、かつて“家族に近い何か”があった気配が、薄く掠れたように残っている。

 それは、壊れて消えかけた絆の残響。


 褐色の騎士と銀髪の女、そしてあの灰色髪の男性。三人の間にもつながりはある。

 けれどそれは、血縁でも家族でもない。もう少し曖昧で、どこか距離のある関係……そんな印象。

 黒髪の女性と、褐色の騎士と銀髪の女は、ほとんどつながりを見つけられなかったわ。


「……身体が、暖かい」


 何かしらの加護か、魔力の干渉がある。目覚めたばかりの私でも、それは感じ取れた。


「良かった。意識ははっきりしてますか?」


 銀髪の女性が、やわらかい声で問いかけてくる。


「ええ、ありがとう。……あなたたちが、助けてくれたのね?」


 起き上がろうとしたそのとき、彼女にそっと肩を抑えられた。


「起き上がれば、その美しい肢体が丸見えになってしまいますよ」


 その言葉で、ようやく自分が何も身につけていないことに気がついた。


 そんなことで恥じるような年齢ではない。けれど、改めて言われると、やっぱり少しは意識してしまうものね。


「シン王とレオンは、あちらを向いていてください」


 銀髪の女性がそう言った瞬間、彼女の背に六枚の翼がふわりと広がった。

 天使“のような”ではなく、本当に天使なのだとわかる。

 彼女は六枚の翼で、私の身体を周囲から隠してくれた。

 その翼はとてもキレイだったわ。こんなことの為に使っていいのかしら?


「これに着替えてください。サイズの微調整は──」


「ありがとう。でも、大丈夫よ」


 私は静かに立ち上がり、自分の手首をそっと噛んだ。

 牙が皮膚を破り、にじんだ一滴の血が地面に落ちる。


 その血液は、やがて私の足元を中心に、静かに、薄く広がっていった。

 次第に深紅の布となり、滑らかに私の身体を包み込む。


「美しいですね。……羨ましいです」


 そう口にした銀髪の女性は、とても容姿が整っていた。

 下手をすれば──いえ、正直に言って、私よりも整っているかもしれない。

 そんな彼女が、私の身にまとった深紅のドレスを見て、静かに感想を述べた。


「そ、そう言われると……少し照れるわ。

 特に、貴女みたいに綺麗な人に言われたら」


 本当に綺麗な人から褒められると、さすがに照れてしまう。

 ……寝起きだから、余計に気が緩んでいるのかもしれないけれども。


「あら、ありがとうございます。

 でも、そんなに謙遜しなくてもいいんですよ。貴女も、とてもお綺麗です」


 彼女の声には穏やかな響きがあって、まるで相手を包み込むようだった。

 目の前の女性は、私よりも落ち着いていて──どこか、精神的に大人びた印象を受けた。


「シン王、こちらを向いても大丈夫です」


 彼女は視線を私から背後の細身の男性へと向けた。

 声を受けて、彼がゆっくりこちらを振り返る。


 華奢な体つきに、飾り気のない黒ずくめの服装。

 どこか無頓着で、洒落っ気など微塵も感じられない。それでも……


 顔立ちは、私の好みだった。


 灰色の髪。夜空を映したような瞳。

 その目を見た瞬間、彼が秘めている力に気づく。


 底知れない、圧倒的な力。


 そして、私は思い出した。

 なぜ自分がここにいるのかを。


 私は吸血鬼。神組の吸血鬼と呼ばれていた。


 その力を、神々は恐れた。

 故郷を壊され、抗い、そして……封じられた。


 殺せなかった。だから、封印された。


 私が弱かった。それだけのこと。それ以上でも、それ以下でもない。


「俺の名は、シン・エルヴァディア」


 彼は、こちらの気持ちには触れず、それでも柔らかな口調で名乗った。


「この女性はフェリス。後ろを向いているのが、レオンだ。

 それから……」


 シン・エルヴァディア。

 姓を持つということは、それなりの身分なのかしら。

 いいえ、そうでなければおかしいわ。

 私が感じ取れるだけでも、神々が相手にならないほどの力を持っているもの。


「私はレイルバレルと申します。レイと呼んでくださいね」


 黒髪と黒い瞳の女性が、すっと目の前に現れる。

 その動きに、わずかに胸が跳ねたけれど、顔には出さなかったつもりよ。


「私はミリアリア・トランジスタ。吸血鬼よ」


 助けてもらったのだから、いつまでも警戒していても仕方ない。そう思って、私は素直に名乗った。


 それに──シン・エルヴァディア。

 あの男のことが、どうしても気になっていた。


 王と呼ばれているらしく、顔も体つきも、私の好みにどんぴしゃ。

 何より、彼が持つ力……あれほどの存在感を感じ取れる時点で、私を封じた神々をも上回っているのは明らかだった。


 しかも、あんなに優しそうに話すのよ?


 ここまで揃っていて、心が揺れない女なんているのかしら。


「……シン王って、呼べばいいのかしら?」


 少し踏み込んでみることにした。


「いや、勝手にあいつらがそう呼んでるだけだよ」


 彼はすぐに否定したけれど、その言葉はどうにも謙遜に聞こえる。

 私の目から見ても、彼が“王”と呼ばれるのは自然なことに思えた。


「それで……あなたは、何者なの?」


 一度はその謙遜を受け入れる。否定するのは、かえって野暮だもの。


「俺は……何者なんだろうな。

 実は昔の記憶がなくてさ。最近になって、ちょっとだけ思い出したりもするけど……」


 そう言って、彼は照れくさそうに頭をかいた。

 その仕草はまるで庶民のそれで、王族らしさなんて微塵もなかった。


「ねえ、ちょっと手荒な真似をしてもいい?」


 彼のすぐそばに歩み寄り、耳元でそっと囁く。


「……何をするつもりだ?」


 彼の訝しむような表情。直後、褐色肌の男が素早く武器に手をかけたのが視界に入った。

 優秀な騎士ね。ただ、殺意も敵意もなければ反応が遅れる──それが、戦士という存在の限界でもある。


 私は自分の腕に爪を立て、鋭く引き裂いた。

 迸った血が弧を描き、空間に散る。


 血液は瞬く間に霧のように広がり、私と彼とを包み込んだ。

 境界の外から中は見えず、私たちにも外は見えない。


 これは、吸血鬼に許された最強の結界術。

 ここはもう、他者の干渉が及ばない“内側”。


「てめえっ……!」


 騎士──レオンが怒声を上げた。


「気にするな、レオン」


 シンは落ち着き払っていた。驚きも、警戒もない。


 周囲の騎士や天使ではどうにもできない結界。

 今この瞬間、この結界の内側において、彼は私の問いに真正面から向き合える場所にいる。


 私と対峙しても、怯えることなく、冷静でいられる男。

 私は、ますます彼という存在に興味が湧いてしまうのだった。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:ミリアリア・トランジスタ

 種族レイス:ディヴァイン・ヴァンパイア

 能力アビリティ

 ・吸血ブラッドサッキング:Lv.ERROR

 ・血眼ブラッドサイト:Lv.ERROR

 ・血培養ブラッドカルティベーション:Lv.ERROR

 ・血覚醒ブラッドアウェイクニング:Lv.ERROR

 技術スキル

 ・血闘術ブラッドコンバット:Lv.MAX

 ・血技術ブラッドアーツ:Lv.MAX

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