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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
14/19

14-十字架

「……雰囲気が変わったな」


 今までのような岩肌とは違って、いかにも人工物らしい金属壁が連なっていた。


「俺より前に出るなよ。ゆっくり行くぞ」


 レオンが大盾を構えて、俺たちに後ろを固めるよう促す。


「任せる」


 もしレオンがやられたら、すぐに撤退して応急処置をしなきゃいけない。

 だから俺は、進んだあとの道に変化がないか、神経を尖らせていた。


 進むペースはさらに落ちた。


 でも、これだけ警戒してたのに──何も起きなかった。

 襲われることも、誰かと出会うこともなかった。


 その代わりに、一枚の分厚い鉄扉に行く手を塞がれた。先に進むことができなくなった。


「……どうする?」


 レオンは扉から目を離さずに、後ろの俺に判断を仰ぐ。

 こういうとき、気を抜かないあたり、さすが歴戦の騎士って感じだ。


「進むには壊すしかないだろ」


「んじゃ、壊すぜ」


 レオンが大鎌を振りかぶって、勢いよく鉄扉に叩きつけた。


 ……今さらだが、自分より大きな鎌と盾を一緒に持ち歩いてるって、ちょっとやりすぎじゃないか?


 でもまあ、その“やりすぎ装備”も、今回は通用しなかった。


 ガンッ!


「いってぇ……」


 衝撃で腕が痺れたのか、レオンは武器を落としかけていた。それでもちゃんと踏ん張ってるのは流石だな。


「……レオンが斬れないとなると、ちょっと面倒ですね」


 フェリスが手を口元に当てて、どうするか考え込み始めた。


「俺がやってみてもいい?」


「あ、はい」


「どうぞ」


 フェリスがレオンを下がらせてくれて、レイも俺の通り道を作ってくれた。


 この鉄扉がどのくらい硬いのか、自分の拳で試してみたくなった。


 腰を落として、拳を構える。

 一歩踏み込んで、全身の力を拳に乗せ、思いきり鉄扉に叩きつけた。


 ドンッ!


 拳がぶつかった瞬間、地面がクレーター状にめり込んだ。

 その勢いに耐えきれず、鉄扉は一気に吹っ飛んでいった。


「まじ……かよ」


「すご……」


「さすがです」


 レオンとフェリスは、目を丸くして驚いていた。

 一方でレイは、特に驚いた様子もなく、まるで「いつも通り」とでも言いたげに、静かに頷いていた。


「シン王、後ろに」


 レオンが何かに気づいて、俺の前に立ち、大盾を構えて鉄扉の奥を見据える。


「“加護”と“封滅結界”を付与します」


 フェリスが手をかざすと、俺たちの身体がほのかに光をまとった。

 何が付与されたのか──正直、俺にはさっぱりわからない。


「……生きてるのか?」


 鉄扉の奥の奥に、ひとつの十字架を見つけた。

 そこに埋め込まれた人物が見えた。見えたのは頭だけで、それ以外は十字架に埋もれているようだった。

 肩にかからないくらいの金色の髪が見えていた。だが、それ以外の輪郭はよくわからなかった。


「近づかないとわかりません。行きましょう」


 レイの言葉にうなずき、俺は十字架へ向かって歩き出す。

 壊れた鉄扉からそこまでは、それなりに距離があった。


 やがて、目の前にたどり着いた。


「……生きてそうだな。とても綺麗な……女性だよな?」


 十字架の人物の、外に見える顔だけ見ると整い過ぎていて、逆に性別がよくわからない。けど、よく見ると女性っぽかった。

 なんの種族なのかもわからないから、単純に女性らしい個体が多い人型の種族の可能性もある。


「能力を使ったらいいのでは?」


「他人の情報を勝手に盗み見るの、抵抗あるんだよな。殺す相手だったら、あんまり抵抗はないんだが」


 レイの言葉に俺は首を横に振った。

 相手の個人情報を勝手に覗くのは、あまり気持ちの良いものではない。


「それに何より面白くないんだよな。"解析眼"を使うのは」


 全ての情報が何となくわかってしまうのは、酷く面白味に欠けるんだよ。

 もちろん、どうしても知りたい時は、使うことに躊躇いはない。


「……ここに封印されてるの、可哀想だよな」


 目の前の人物は、十字架に埋め込まれていて、身動きひとつできない。こんなの見せられて、何もせずに帰るってのは……さすがに気が引ける。


「マスターのお心のままにすべきでは?」


「言われなくてもそうするよ」


 目覚めてから、レイに常に"心のままに"と言われてきた。だから、気になったらやってみる。今さら戸惑う気にはならない。


「全解」


 “全解乃誓”を発動すると、十字架にヒビが入り、徐々に中の人物の身体が露わになっていく。その途中で、フェリスが一枚の布をそっと掛けた。


「私がこちらを受け止めるので、レイさんはシン王を受け止めてください」


 フェリスが、十字架から解放された人物を抱きとめた。レイは彼女の指示にうなずきつつ、どこか怪訝そうな顔で俺を見ていた。


「どうした?」


 その表情が気になって、俺は首を傾げる。


「お身体……大丈夫なのですか?」


 そう言われて、ようやくレイの視線の意味を理解する。


「ああ、そういや……平気だな。……慣れたのかもしれない」


 これまでは“全解乃誓”を使うたびに、意識を飛ばしていた。

 でも今回は、まったく問題ない。むしろ、やけに元気なぐらいだ。


 自分の身体なのに、何がどうなってるのかよくわかってないってのは、面倒な話だ。

 しかも“解析眼”で自分を見ることもできない。まあ、そもそも自分の姿が見えないから当然なんだけど。


 今は俺のことよりも優先させるべきだ。気持ちを切り替えて視線をフェリスに向けた。


「フェリス、そっちはどうだ?」


 封印から解放された人物の容態を確認する。


「特に問題は無さそうですね。目立った外傷があるわけでもないので……」


「そうか。じゃあ、彼女が目覚めるまで、しばらく様子を見よう」


 俺がそう言うと、フェリスは小さくうなずき、そっと膝の上に彼女を乗せたまま姿勢を整えた。

 レイも傍らに立ち、何かを感じ取るように、指先で彼女の髪にそっと触れる。


「魔力の流れは……あります。ただ、すごく弱いですね。

 おそらく封印による長期的な消耗。今は、眠りの中で回復している段階かと」


「じゃあ、無理に起こさないほうがいいな」


「はい。自然に回復するのを待ちましょう」


 何かが壊れそうなくらい静かな空気が流れる。

 誰も言葉を発さず、ただ彼女の呼吸が安定していることを確認し続けるだけだった。


 俺は彼女の顔を、改めてじっと見つめた。


 美しい、というよりも……整いすぎている。

 人間離れした、どこか現実味のない雰囲気がある。


 ──とはいえ、レイやフェリスも現実離れしてる。フェリスは特にそうだ。知らない人が見ても天使だとわかるだろう。


 だから正直、驚きはそこまで大きくなかった。

 むしろ「またすごいのが出てきたな」ってくらいの感覚だ。

 たしかに綺麗だけど、目が慣れてしまっていた。


「レオン、鼻の下を伸ばさない」


「うぇ……んなことしてねえって……」


 フェリスにぴしゃりと釘を刺されて、レオンはどこか気まずそうな顔をしていた。


 容姿だけで言うなら──封印から解かれたばかりのあの女性よりも、フェリスの方がよっぽど整っている。

 なのにあっちで鼻の下を伸ばしてるって……正直、ちょっと馬鹿なんじゃないかと思ってしまった。


 俺はというと、彼女を見ても特に何も思わなかった。

 やっぱり、いつも隣にはレイがいるからかもしれない。

 免疫というか、耐性がついてるというか……


 ……“いつも隣にいる”?


 そう思った瞬間、自分の中に引っかかりが生まれた。


 もしかして……俺とレイって、そういう関係だったのか?


 思い出したわけじゃない。けど、これまでの彼女の振る舞いを振り返ると──そうとしか思えない気もする。

 でもな、それならレイの性格上、「私はあなたの妻です」くらい、平然と口にしていてもおかしくないはずだ。


「……どうしました?」


 声に出してはいなかったはずなのに、レイがこちらに問いかけてきた。


「いや、なんでもない」


 気づけば、彼女のことをじっと見つめていたらしい。

 そう指摘されて、俺はちょっと気まずくなって、慌てて視線を逸らした。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:シン・エルヴァディア

 種族レイス:???

 能力アビリティ

 ・直感センス:Lv.MAX

 ・個別情報一覧ステータス

 ・創造クリエイト:Lv.MAX

 ・暗視ナイトビジョン:Lv.MAX

 ・解析眼アナリシス:Lv.MAX

 ・火魔法ファイアマジック:Lv.MAX

 ・雷魔法ライトニングマジック:Lv.MAX

 ・全解乃誓オールリベレートオース:Lv.ERROR

 技術スキル

 ・格闘術マーシャルアーツ:Lv.MAX

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