13-衣食住の変化
「んっ……」
「おはようございます、マスター」
「おはよう。キング」
「おはようございます、主君」
目を覚ますと、俺──シンはレイの腕の中にいた。
声を頼りにあたりを見回すと、レオンの姿があって、すぐそばにフェリスもいた。
それから、レイの顔を見て、さらに周囲に視線を向ける。
まわりの景色が、さっきまでとはまるで違っていた。
レオンやフェリスと出会った、あの草木が生い茂るフィールドは跡形もない。
代わりに広がっていたのは、ゴツゴツとした岩の壁。見慣れた、ダンジョンの風景だった。
「……恥ずかしいな」
レイは力はあるけど、見た目は華奢な黒髪の美女だ。
そんな彼女に抱きかかえられてるなんて、なんというか……絵面的にどうなんだ、って感じだ。
「下りますか?」
「ああ、下ろしてくれ」
俺は彼女の腕から下りた。
「キング、調子はどうだ?」
厳つい身体で、気さくそうに言った。
「レオン、そのキングって呼び方を止めろ」
キングって言われるのはこそばゆい。俺は王様じゃないしな。
「いいじゃねえかよ。俺にとってはキングなんだし」
「せめて、名前で呼んでくれよ」
俺には名前があるんだ。マスターとかキングとか言われ続けると、意味が無いじゃないか。
すると、レオンが嫌そうな顔をした。
「そうですね。私も主君ではなくシン様とお呼びしますね」
話が平行線になるかと思いきや、フェリスが事の顛末を決めるように告げた。
「レオンも良いですね?」
「うっ……わかったよ……」
短い期間でもわかったが、レオンは彼女の尻に敷かれている。
フェリスが"こう"だと決めてしまえば、彼は何も言い返すことができない。
「レイさんも良いですか?」
「私はマスターとお呼びします」
「……レイさん?」
レイの言葉を聞いて、フェリスは銀色の美しい視線を鋭くした。
「……嫌です」
その視線から逃げるように、レイは顔を背けてしまった。
「まあまあ。どうしても嫌なら、無理にとは言わないよ。な?」
空気が悪くなりそうだったから、俺は深追いしないことにした。
「じゃあ俺もキングって──
「レオン、ふざけるのはその辺にしておきなさい」
──はい」
フェリスにピシャリと言われて、レオンは一気にしおれた。借りてきた猫みたいだ。
「シン様、こんな奴ですが力はあるので、使ってやってくださいね」
「……まあ、必要になったらな」
とはいえ、俺が騎士を使う場面なんて、あるんだろうか。
でも、レオンがそばにいるだけで、それなりに威圧感は出せそうだ。少なくとも見た目だけは。
レオンは悪魔らしい褐色肌であり、めちゃくちゃ筋肉隆々だからな。
俺みたいにヒョロい奴よりも、視覚的によっぽど強そうなんだよな。
「──敵だ」
急に、レオンの声が変わった。軽口を叩いていたさっきまでとは違う、とても冷えた声。
彼は肩に大鎌を担ぎ、大盾を構えて正面を睨みつけていた。
「蹴散らしなさい」
フェリスがそう告げると、レオンの身体が光った。彼女が何かをしたのだろうが、それを調べる気にはならなかった。あまり興味が湧かなかった。
「おうよっ」
レオンの前に立ち塞がったのは、大きな大きな蛇だった。
そして、あっという間に一刀両断されて、息を引き取った。
レオンの大鎌は、特に抵抗なく蛇を斬り裂いたのだった。
「こんなもんだぜ。どうよ?」
彼にドヤ顔された。俺は大人しく親指を上げて、グッドサインを出してやった。
「レイ、あの化け物はなんだ?」
「あれはレジェンド・サーペントです。伝説級の蛇種の……その定番ですね。
他にも蛇種には伝説級が多く存在します」
あれが伝説級か。今までの神話級とは雰囲気が違った。
神話級は"触る神に祟りなし"って言葉が似合うが、伝説級は"強大な何か"って感覚を抱いた。
「先に進みましょう」
レイは伝説級の化け物を前にして、何の感慨も持たずに淡々と前進を促した。
「おいおい、伝説級を倒したんだから、もうちょっと何かあっても良いだろ?」
その冷淡さにレオンは声を上げた。
「……たかが伝説級を倒したくらいで、何があると言うのですか?」
レイは冷酷な視線を向けた。そこには心做しか、様々な感情が含まれているように見えた。
「そんな言い方──
「レオンっ!」
──わかったよ」
フェリスの言葉で、レオンは不貞腐れながらも、渋々と口を閉じた。
レイの冷淡さは、今までの俺は気にならなかったが、他者から見ると気になるものらしい。
何が彼女を冷淡たらしめるのか。そんなことを、つい考えてしまうくらいには、俺も気になってしまった。
神話級も伝説級も、どちらも倒せば英雄と呼ばれて相応しいはずだ。
それを軽々と一刀両断したのだから、レオンの腕前や実力は折り紙付きだ。
伝説級だとか、神話級だとか、さっきレイに聞いたばかりなのに、理解している知識になっていることに違和感を感じるな……
過去の俺が知っている事柄なんだろうな。
「俺はいい騎士だと思ったよ。だから、これからも頼んだ」
俺は、レイが落胆させた気持ちを拾い上げるように、レオンを賞賛した。
「おうよ。シン王のお心のままに」
キングとは言われなくなったが、シン"王"と呼ぶことにしたらしい。
そもそもキングとか王とか、呼ばれたくないんだけどな……
騎士に名を与えた時点で、それは無理な話か。騎士ってそういう生き物だからなぁ。
それはある種の諦めにも近い感情で、訂正する気も起きないから、俺は肩を竦めるだけにした。
349階層からは、出現する化け物に偏りがあった。
例えば、349階層は蛇系の化け物ばかりが姿を見せ、それを見てはすぐにレオンが一刀両断した。
更にひとつ登ると、今度はトカゲのような爬虫類型の化け物が多く現れた。火を噴いたりするのもいた。
俺たちは旅人数が増えたから、一階層を抜けるのに今まで以上に時間が掛かった。
俺が三人抱えて走るわけにもいかないから、進む速度は当然落ちた。
だがそれ以上に、レオンやフェリスは、俺やレイとは違い食事が必要で、衣食住に掛かる時間が増えたんだ。
何を食事にしたかって?
倒した化け物を調理する以外に方法はなかった。
倒した化け物は、レオンが鮮やかな手つきで捌いていた。火もレオンが起こしていた。ただ、焼くのはフェリスがやっていたな。
レオンとフェリスは黙々と作業のように食べていた。俺も一口齧ったが、食べた化け物は美味しくなかった。
そう思うってことは、過去の俺は、美味い食事をしたことがあるのだろう。
……なんて、過去の俺に想いを馳せてはみたが、それ以上は何も思い出せなかった。
そんな感じで、俺たちは一つひとつ階層を登って行った。
ちょうど300階層にたどり着くと、そこには岩肌の通路ではなく、金属製のより強固な通路が広がっていた。
個別情報一覧
名前:シン・エルヴァディア
種族:???
能力
・直感:Lv.MAX
・個別情報一覧
・創造:Lv.MAX
・暗視:Lv.MAX
・解析眼:Lv.MAX
・火魔法:Lv.MAX
・雷魔法:Lv.MAX
・全解乃誓:Lv.ERROR
技術
・格闘術:Lv.MAX