12-天使として
「フェリスさん、何故あんなことを?」
レイさんは、どこか怒りを滲ませた表情を浮かべていた。
その腕には、彼女が何よりも大切にしている彼が抱えられている。
その気迫に押されたのか、レオンが私の前へと進み出て、庇うように立ちはだかった。
「レオン。今は、あなたの出番ではありませんよ」
私はレイさんと、話をしなければなりません。
彼女の腕の中にある彼──その過去に、私が踏み込んだことについて。
どうして、なぜ、そんなことをしたのか。言葉にして、向き合う必要があります。
私は、エルヴァディアの名を拝して在る者。
かつて夫婦であり、今はそうではないとしても。
本来ならば消えるはずもない過去を、無かったことにしようとする彼女と、向き合わずにいるという選択は、私にはありません。
そして何よりも、彼女自身が「無かったこと」など、本心では望んでいないのです。
彼女の魂は、忘却を強く拒んでいる。
理性ではなく、感情がそれを否定しているのです。
……私には、それがわかってしまう。
だからこそ、嘘を吐く彼女に、はっきりと「否」を突きつけなければならない。
天使の性なのでしょうか。魂の在り方と正しく向き合い、心のままに、幸せへと歩んでほしいと願ってしまうのは。
私は一つ、息を吸って、そして──
「貴女は、彼に愛されたいと思っているのでしょう?」
確信を、そのまま言葉にして突きつけた。
「……違います」
レイさんは、少し気圧されたように言った。
「それは、理屈と理論による否定ですよね?」
“私が関わらないほうが、彼は幸せになれる”という思い込みに過ぎない。
仮にそれが事実であったとしても、それは貴女が“そうしたい”ことではないはずです。
“正しさ”と“願い”は、同一ではありません。
「それは……そうかもしれません。けれど、彼は……私がいたから……」
私はレイさんの過去を知りません。
彼と彼女がどんな時間を過ごしてきたのかも、見てきたわけではない。
けれど──
「……それの何が、悪いのですか?」
彼が不幸だと、貴女は思っているのでしょうか?
「……ええ。彼はもっと自由に生きられたはずなんです。それを、私が……」
「自由に生きられなかったことが“悪”だと、そう決めつけているのは、貴女自身ではありませんか」
「……では、自由を失うことが、不幸ではないと?」
「人によります。
それを不幸だと感じる人もいるでしょう。けれど、そうではない人もいるかもしれません」
「でも……私は……」
レイさんは、愚かではないのです。
シン・エヴァルディアという存在の強大さを、その名を通して知ってしまった。
だからこそ、“愚か者に彼の妻が務まるはずがない”と、そう思ってしまうのでしょう。
「……私は、自信が持てないのです」
その言葉こそが、彼女の本音なのだと、私は確信しました。
彼女は、とても悲しそうな顔をしていました。
胸が締めつけられるような、そんな深く沈んだ表情。
あまりに悲しげで、あまりに痛ましくて……
「いつか、自信が持てるといいですね」
積み重ねた年月が、かえって“自信”や“自我”と呼べるものを蝕むことがある。
そんな話を、どこかで聞いたことがあります。
「それは……無理な話です」
その返答には、取り繕いの欠片もなく。
今の彼女には、本当にそうとしか思えないのだと伝わってきました。
けれど、だからこそ。
封印を解いてくださった恩を、私は“支える”という形で返していきたいと思っています。
天使として──誰かの心を照らし、導く役目を果たせるのなら。
個別情報一覧
名前:フェリス・エルヴァディア
種族:プリモーディアルエンジェル
能力
・識魂:Lv.MAX
・祝福:Lv.MAX
・浄化:Lv.MAX
・加護:Lv.MAX
・封滅結界:Lv.1
技術
・飛翔:Lv.10
・護身術:Lv.10
・生活雑務:Lv.6