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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
11/19

11-本音と建前

 私──レイルバレルは、主従の義を執り行うための魔法陣を描いていた。


 私にはフェリスが、マスターの名を敢えて告げた意味がわからなかった。

 彼女には、私が過去に触れてはならない理由を話したはずなのに、何故そんなことをしたのか……本当に理解ができなかった。


 後で聞くしかない。聞くことしかできない。話してくれるかはわからない。

 聞いたところで理解できるかもわからない。会話とは、所詮はコミュニケーションを取り合うものであって、何かを理解させる道具ではないから。


 やがて、私は儀式に使う魔法陣を描き終えた。


 何度も行ってきた儀式。それでも彼は、使い方すらも覚えていなかった。


「マスター、彼らに名を」


「わかった。……どうやって使うんだ?」


 問い返されたとき、胸の奥にわずかな痛みが走った。

 思い出していないのだと、あらためて突きつけられた気がした。


 過去の記憶を失っていることは、知っていたはずなのに。

 いや、むしろ私は──彼が新たに生きることを願ったのに。

 なのに、どうしてこんなにも、思い出して欲しいと願ってしまうのだろう。


「陣の中央に立ってください」


 彼が失った手順を、私はひとつずつ教える。


「レオンさん、フェリスさん。あなたたちは、周囲に」


 必要な配置を終えたところで、彼が言った。


「レイ、お前もだ」


「私は結構です」


 その厚意は受け取れなかった。

 ……もう、十分過ぎるほど貰っている。

 昔に。記憶の向こう側で。


「では、地面に手を」


 彼は素直に従い、手のひらを魔法陣に置いた。


「魔力を注いでください。……そのまま、意識を通してください」


 主従の義は、魔力に限らず、気力や神力でも成立する。

 けれど彼にとって、魔力が最も扱いやすい力であることは知っていた。


 注がれた魔力が陣に流れ込んだ瞬間、レオンとフェリスの足元が淡く、そして次第に強く輝き出す。


「付けたい名を、告げてください」


 彼はひと呼吸置き、静かに言った。


「レオン・エルヴァディア、フェリス・エルヴァディア」


 その瞬間、魔法陣の輝きが一段と増した。

 主が名を与えた──眷属の契りが、確かに結ばれた。


「レイ……なんか、また身体が重いんだが……」


 ふらつく足取りで、彼はようやく立っていた。

 目元を擦る仕草が、少しだけ無防備だった。


「名付けは、実質的に“眷属化”ですから。力の一部を、他者に渡す行為です」


 眷属化。それは他者に名を与え、己の力の一部を預ける行為。

 彼ほどの存在の力が、ほんの僅かでも移れば、それはもう、他者にとっては別格の祝福となる。


「……なる、ほど」


 彼はその場に座り込んだ。思った以上に、力を削がれたらしい。


 レオンとフェリスは、自身の手を見つめていた。驚きと戸惑いと、言葉にならない何かが、視線に滲んでいた。


「すげぇ……」


「凄い……ですね……」


 当然の反応だろう。

 彼の身には、かつて宇宙さえ呑み込むと言われた、異質な力が宿っている。

 その力の一部を手にすれば、全能感に似た錯覚が訪れるのも、無理はない。


 それがわかっていても、私はマスターの姓を名乗る気にはならなかった。

 その姓は私がかつて名乗ることを許された響きであり、言葉であるからこそ、新たに拝名する気にはなれなかった。


 過去の私は、マスターに愛され守られるだけの生を過ごしていた。

 マスターは、他の可愛い女子を複数娶ることだって、昔の彼だったら余裕だったはずなのだ。

 けど、私が居るからと、そんな事はしなかった。それは一種の心地良さがある反面、私自身が宇宙を統治する王と釣り合うのか、という疑問を生んだ。

 ……だから、記憶を失った彼だからこそ、私のことなど忘れてくれて構わない。

 何も気にせずに、何も考えずに、自分の自由に生きて欲しいと切に願う。


「マスター、また少しおやすみください」


 私は座り込んでしまった彼をそっと抱える。


「……なんか、ほんとに、眠って、ばかり…だな」


「いいじゃないですか。寝る子は育つと言いますし」


 その言葉に応じることもなく、私の腕の中で、彼は静かに目を閉じた。


 星のような瞳が消え、灰色の髪が、わずかな風に揺れる。

 ここはダンジョンの奥深く。それでも、風が吹くことはある。

 その理由は知らないが、今この風だけは、妙に心地よかった。


 けれど、言葉にならない何かが、ただひたすらに渦巻いていた。

 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:レイルバレル

 種族レイス:イモータルスライム

 能力アビリティ

 ・個別情報一覧ステータス

 ・全耐性オールレジスト:Lv.MAX

 ・物理無効フィジカルイミュニティ:Lv.MAX

 ・溶喰メルトイースト:Lv.5

 ・変身メタモルフォーゼ:Lv.4

 ・分裂ディヴィジョン:Lv.2

 ・結合フュージョン:Lv.2

 技術スキル

 ・体術:Lv.6

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