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英雄の欠片、化物となりて。  作者: 言ノ悠
00-プロローグ
10/19

10-俺の名は。

「マスター、おはようございます」


 重たいまぶたをどうにか持ち上げると、視界に黒髪の女性が入った。


 ……誰だっけ。いや、すぐに思い出した。レイだ。


「……おはよう」


 昔と同じように、なんとなく彼女の顔に手を伸ばして触れた。たぶん、前にもこんなことがあった気がする。


「お身体の調子はどうですか?」


「んー、大丈夫。……俺、なんで倒れてたんだっけ?」


 正直、そこがすっぽり抜けてる。


「レオンの封印を解いた時に、そのまま……」


「あー、そうだったな」


 あいつの封印を『全解乃誓』で解除したんだった。


「で、次は……あのフェリスとかいう女の封印か?」


 ゆっくりと体を起こしながら、いつの間にか背が低くなっていたレイに聞く。


「そうですね。ぜひ、よろしくお願いします」


 立ち上がった彼女は、俺とほとんど同じくらいの背丈になっていた。


「……彼らは何処に?」


 周囲にレオンの姿も、フェリスの姿も無かった。


「家の中に入られましたね。マスターもお疲れですし、待つのが良いと思います」


 レイの言う通りだ。俺の身体は少し怠さを感じている。


「もし良ければ、また少し眠りますか?」


 彼女は再び地べたに座り、自らの太腿を手で叩いた。


「無しじゃないな。

 でも、別に膝枕は要らない……」


「遠慮しないでください」


 いや、遠慮しないでって言われてもなぁ。


「それとも、その外見はお嫌いですか?」


 彼女は黒髪を揺らしながら、綺麗な黒い瞳で俺を下から覗き込んできた。


「……何かに影響されたか?」


 思わず首を傾げるほどに、彼女の様子が普段と違う。


「いつも通りですよ。……嫌、ですか?」


「……俺は嫌じゃないけど、俺が起きるまで動けないぞ?」


「どうせスライムですから、あまり気になさらずに」


 そうだった。こんなに綺麗な姿をしていても、中身はスライムなんだよな。


「わかったよ」


 レイの隣に座って、俺は身体を横に倒した。


「では、ゆっくりお休みください。時が来たら起こしますね」


 彼女の膝の上から、下から見えた彼女の表情は、とても柔らかかった。


「必要な時に起こしてくれ」


 その表情を見た瞬間、俺は安心しきって力を抜いた。無意識のうちにまとっていた力がすっと抜けて、意識が暗闇に落ちていく──




 ──「マスター、起きてください」


 どれくらい眠ってたのかはわからない。

 目を開けて視線をゆるりと動かすと、レオンとフェリスが俺の目の前に立っているのがわかった。


「……フェリスの、封印を解けば良いんだよな?」


 少し寝惚けた声になってしまったが、やるべき事は明確に理解している。


「はい、よろしくお願いします」


 レイの声を聞いて、俺はゆっくりと立ち上がった。


「よろしくお願いいたします」


 フェリスが丁寧に頭を下げた。動作の一つひとつがやたらと綺麗で、どこか気品があった。


「全解」


 右手を彼女に向けて『全解乃誓』を発動する。

 休んで軽くなったはずの身体に、またずしんとした重さが戻ってきた。


 そしてフェリスの背中から、六枚の翼が広がった。まさに“天使”って感じの姿だった。


 彼女は俺の方へと手を伸ばし、その指先がふれるより先に、体がふわっと軽くなるのを感じた。


 これはフェリスの能力なのだろう。


「ありがとうございます。

 私に刻まれた封印の、その全てが解かれました」


 彼女は羽ばたくように六枚の翼を広げながら、また深々と頭を下げた。


「いや、こちらこそありがとう。

 身体がだいぶ楽になったよ」


「これくらいはさせてください。私とレオンの礼です。……もちろん、これで足りるとは思ってませんが」


 礼とか言われても、別に何かを求めてたわけじゃない。もしかしたら、レイに何か考えがあるかもしれないが──


 と、思ってたら、レオンが片膝をついて、頭を垂れた。


「キング。俺はあんたをキングとして認める。礼になるかはわかんねえが、もし良かったら、俺の剣をあんたに捧げたい」


 なんか急に重い話を持ち出してきた。


「素性のわからない相手に剣を捧げるのは、良くないと思うがな」


 俺は間接的に否定をした。冷静になって考えて欲しい。

 忠誠を誓うほど、俺に価値があるとは思えない。過去の記憶すらないからな。


「マスターは、キングであるべきだと思います」


 すると、隣で地べたに座ったままのレイは、レオンの言葉をしっかりはっきりした口調で肯定した。


 え、レイもそんなことを思っていたのか?


「私も、あなた様をキングとお呼びすることに、何の疑問もありません。

 あの封印を解ける方が、他にいらっしゃるとは思えませんので」


 フェリスも、やけに自然に受け入れてる。

 この感じ……俺が寝てる間に何か話したっぽいな。


「ただ……キングとして敬愛するにしても、そろそろ“名前”を決めた方がよろしいのでは?」


 急にそんな話を振ってきたフェリスは、まるで聖母のような表情で俺を見ていた。


 確かに名前が欲しい、とは俺も思っている。

 マスターやキングと呼ばれ続けるのは、まるで俺が"俺"である必要がないような、そんな錯覚を受けるからだ。


「名前……ねぇ」


 でも、だからって簡単に決められるもんじゃない。


「“シン”が良いと思います」


 フェリスがぽつりと言った。


 たしか前にも、彼女はその名前を口にしてた気がする。

 でも気になったのはそこじゃない。隣でレイが驚いたように立ち上がったことだった。


 戸惑ってるというか、何かを飲み込めずにいるような表情で、フェリスをじっと見ていた。


「どうですか?」


 フェリスはレイの反応をわざと無視して、俺に決断を迫ってきた。


「……なんでその名前なんだ?」


 前も、そして今回も口にされてしまったら、何か意味があると思うのは当然だろう。


「あなた様に一番似合う名前だと思ったまでです。

 ……天使の直感だと思ってください」


 フェリスは最初に接触した時に、レイの本名を看破していた。

 彼女がそのような能力を持っているのは知っている。

 ……つまり、俺の昔の名は"シン"だったってことか?


 色々と頭を巡らせた。

 俺が"シン"という名を名乗るべきかどうか。

 それを名乗ったことによる利点はあるのか。

 逆に言えば、何か不利益を被ることがあるのか。


 利点はない。ただの名前だし。

 不利益も……今のところはない。ただの名前だからな。


「わかった。俺はこれからシンと名乗ることにするよ。

 俺の名はシン・エルヴァディア。……どうだろうか?」


 あれ……エルヴァディアって単語は何処から出てきたんだ?

 勝手に、まるで当たり前のように、俺の口をついて出た言葉は、何も違和感を感じさせなかった。


 レイの方を見ると、口をパクパクさせていた。


「エルヴァディアって知ってる?」


「……あ、いえ……その……」


 レイに訊ねると、彼女はわかりやすく挙動不審になった。この様子は答えてくれなさそうだな。

 更に問い詰めるのは可哀想だ。


「フェリス、レオン。俺の名をどう思う?」


 だから、目の前の天使と悪魔に問い掛けた。


「良いと思うぜ。

 んじゃあ、俺にもその『エルヴァディア』って名前をくれよ」


「えっ?」


 レオンの言葉に、俺は思わず聞き返していた。


「王の騎士になるんだから、それくらいあったって良いだろ?」


「でしたら、レオンの妻である私は、強制的に『エルヴァディア』の性を名乗ることになりますね」


 レオンとフェリスは勝手に盛り上がっていた。


「いやいやいや、何の由来かもわからない性を名乗るつもりなのか?」


 俺はその盛り上がりに、敢えて冷水を浴びせる。


「フェリスが良いと思ってんなら、俺は異論ねえよ」


「私はその名の響きが好きですよ。綺麗ですし」


 名前って、そんな簡単に決めて良いものじゃないだろ。

 ……そもそも、エルヴァディアって性を彼らに名乗らせるには、どうしたら良いんだ?


 彼らが自称しているだけでは、恐らく意味が無いだろうし。


「……マスター、儀式を行ってください」


 レイはボソリと言った。


「えっ?」


「名付けの儀式です」


「いや、そのやり方を知らない」


「……まあ、そうですよね」


 彼女は遠い目をしていた。


 何もかもやり方がわからなくて、本当に申し訳ない……


「私が儀式用の陣を描きます。それを使ってください」


「……わかった」


 俺にはレイの気持ちがわからなかった。

 さっきまで挙動不審だったのに、今はその名前の為に協力しようとしている。

 その感情が変化した理由を、俺は察することができなかった。


 個別情報一覧ステータス


 名前ネーム:シン・エルヴァディア

 種族レイス:???

 能力アビリティ

 ・直感センス:Lv.MAX

 ・個別情報一覧ステータス

 ・創造クリエイト:Lv.MAX

 ・暗視ナイトビジョン:Lv.MAX

 ・解析眼アナリシス:Lv.MAX

 ・火魔法ファイアマジック:Lv.MAX

 ・雷魔法ライトニングマジック:Lv.MAX

 ・全解乃誓オールリベレートオース:Lv.ERROR

 技術スキル

 ・格闘術マーシャルアーツ:Lv.MAX


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