8/12
第8章 閉ざされた心の扉
夜の静けさの中で、陸は自分の部屋の窓の外を見つめていた。
外は深い闇に包まれているが、彼の心はもっと深い闇に閉ざされていた。
「好きになりたい。でも、好きになれない」——
その矛盾が、彼の胸を締めつける。
幼い頃から積み重ねられた恐怖と孤独が、彼の心の扉を堅く閉ざしていた。
誰かに触れられること、近づかれることが、命に関わる恐怖を呼び起こす。
楓がそばにいても、彼は一歩引いてしまう。
その優しさが、逆に痛みとなって返ってきた。
「ごめん、楓……僕はまだ、君に応えられない」
電話越しの彼の声は、震えていた。
「でも、君のことは大切だ。だからこそ、遠くにいるんだ」
楓は黙って聞いていた。何も責めず、ただその言葉を受け止めた。
「陸くんのペースでいい。急がなくていい。私は待つから」
その言葉は、彼の心に少しだけ灯りをともした。
***
翌日、陸は研究室でひとり、試験管を見つめていた。
心の扉はまだ閉じたままだけれど、どこかで、その扉を開く鍵を探しているようだった。