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第6章 傘の下の約束
雨はまだ、しとしとと降り続けていた。
病院の窓から見える街路樹の葉が濡れ、黒く光っている。
「もう、あんな無茶はやめてくれよ」
ベッドに座る陸に、宮坂楓は優しく諭すように言った。
手に持ったビニール傘を彼の前に差し出しながら。
「……わかってる。でも、君が……」
陸は言葉を探した。
「君が素手で僕を助けてくれた。あの時、初めて怖くなかった。触れられても、命が危ぶまれても……」
楓は静かに微笑んだ。
「私たちは違う世界にいるけど、同じ空の下にいる。陸くんの命は、私にとって宝物。だから……」
彼女は差し出した傘をゆっくりと陸の頭上に開いた。
「これからは、ずっと一緒に歩こう。雨の日も、晴れの日も」
陸の瞳に涙がにじんだ。
「ありがとう、楓。君がいるなら、どんな困難も乗り越えられそうだ」
ふたりは病室の窓の外を見つめた。雨はまだ止まないが、心の中には静かな光が差し込んでいた。
——命を守るための距離は、
——でも、心はもう、寄り添っている。