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100ものアレルギーを持つ男  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第一章 触れられない恋
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第4章 好きになることは、罪ですか?

 彼女は、毎朝同じ時間に研究室に来る。

 白衣の下にはいつも同じ種類のコットンシャツ。香水も整髪剤も使わない。リップすら塗らず、ただ静かに笑っている。


 それらはすべて、綾瀬陸の命を守るための配慮だった。

 だが陸にとっては、それ以上の意味を持っていた。


 ——僕のために、ここまでしてくれる人がいる。

 その事実が、怖かった。


 「今日も顔色いいね、陸くん。青い薬、効いてるみたい」


 「うん、まだ反応は出てない。……でも、調子に乗ると崩れるから」


 「ふふ、慎重だね。でも、それが君の強さだと思う」


 彼女の声は、ガラス越しでもやさしかった。

 まるで温室の中の音楽のように、柔らかく、陸の神経をなでる。


 ***


 その日の午後、楓がふとつぶやいた。


 「陸くんは、恋をしたことある?」


 その言葉は、あまりに唐突で、あまりに繊細だった。


 「……あるわけないでしょ」


 陸は、自嘲気味に笑った。


 「僕は人と手をつなぐこともできない。食事も、外出も、キスなんて……命がけだ。そんな僕が“恋”なんて、しちゃいけない」


 楓は、黙って聞いていた。何も否定せず、目をそらさず、ただ受け止めていた。


 「……じゃあ、“してはいけない”って、誰が決めたの?」


 「……え?」


 「あなた? 医者? 社会?それとも、体?」


 陸は答えられなかった。

 正論だった。でも、怖かった。期待すれば、痛む。望めば、失う。


 「私はね、誰かを好きになることって、それだけで尊いと思う。たとえ触れられなくても、そばにいられなくても……想うだけで、十分意味があると思うの」


 彼女の声は、決して強くはなかった。でも、不思議と胸に残った。


 その日の夜。陸は部屋で、研究ノートの余白に一文だけ書いた。


 「僕は——もしかして、彼女が好きだ。」


 けれどそのすぐ下に、こう書き足してしまった。


 「……それは、罪ですか?」


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