未来編:光翔と春音 ― 記憶の風を超えて
プロローグ:二つの鼓動
光翔と春音は、生まれながらにして特別だった。
医学の家系に生まれ、祖父たちの名が語り継がれる中で、
彼らは「遺された希望」として育てられた。
だが、特別な名前には、ときに“重さ”もある。
「僕にだってできるって証明したい」
「私は、誰かの“痛み”がわかる人になりたい」
そう語るふたりの瞳には、しっかりと自分の未来が映っていた。
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第一章:ガラス越しの教室
光翔は、内向的で繊細な少年だった。
本を読むのが好きで、誰かを観察するのが得意。
アレルギー体質もあり、教室では時々“ガラス越し”の席に座ることもあった。
でも、彼には不思議な力があった。
人の“隠された感情”を察することができるのだ。
ある日、クラスのいじめられっ子が泣いているのを見て、
光翔は言った。
「君が泣いてると、僕の胸も苦しくなるんだ。
だから、代わりに僕がその子たちに話してくる」
その日から、彼は「小さな仲裁者」と呼ばれるようになった。
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第二章:春音のピアノと、小児病棟
春音は、陽のように明るくて、自由奔放。
幼い頃から音楽が大好きで、特にピアノの音に心を重ねていた。
母・日葵の病院に併設された小児病棟で、
彼女はよく、入院中の子どもたちに演奏を届けていた。
あるとき、アレルギーで外に出られない少年に出会う。
少年は春音に言った。
「僕、外の音って聴いたことないんだ。
風の音とか、桜の葉っぱが揺れる音とか」
その日、春音は録音機をもって外へ出た。
風の音、鳥の声、木々のざわめき。
全部録って、少年に届けた。
「これが、世界の音だよ」
少年は泣いた。そして春音も泣いた。
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第三章:光と風の約束
中学卒業の春、ふたりは両親から手紙を受け取った。
それは、陸翔と日葵が若き日に交わした“未来への誓い”が綴られたものだった。
「この世界には、見えない痛みがある。
でも、君たちの手は、それを感じることができる。
そして、いつか君たち自身の“光”を生み出すと信じている」
光翔は、医師になる決意をした。
ただの治療者ではなく、“心の苦しみ”を扱える医師に。
春音は、音楽療法士の道を選んだ。
音で人を癒し、風のように寄り添える存在になるために。
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最終章:記憶を越えて
大学生になったふたりは、
かつて陸と楓が出会った研究所の跡地を訪れる。
そこには今、子どもたちのアレルギー支援センターが建っていた。
「この場所で、いろんな人が繋がって、命が生まれて、未来が育ったんだね」
春音がそう言ったとき、光翔はそっと彼女の手を取った。
「ここから始めよう。僕たちの物語を。
君が風なら、僕は道になる。ずっと一緒に、誰かを照らすために」
春の風が吹いた。
いちかがいた丘の上、
桜が優しく揺れ、まるで「よくやったね」と言っているようだった。
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エピローグ:そして物語は、続く
光翔は総合心療内科の医師となり、
春音は音楽療法士として全国の小児病棟をまわる日々。
それぞれの道で、でも心はいつも隣に。
家族の物語は、光として、風として、
次の世代にも静かに語り継がれていく。




