物語:光を紡ぐ者たちへ
第一章 再会は白衣の向こう側で
――都内の総合医療研究センター。
ここで日葵は、小児アレルギー科の医師として働いていた。
明るく、優しく、そして誰よりも親に寄り添う彼女の診察は、常に予約でいっぱいだった。
医師としての腕もさることながら、彼女には「心を診る力」があった。
ある日、アレルギーの新薬に関する共同研究プロジェクトが始動することになり、
その研究責任者として呼ばれたのが、免疫学研究員・陸翔だった。
「久しぶりだね、ひまり」
「……変わってないね。相変わらず、白衣の似合う人」
思春期のあの頃、すれ違い、気持ちを伝えきれなかった二人は、
大人になって初めて、“同じ立場”で再び向き合っていた。
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第二章 心臓に手を置いて、確かめたこと
研究と現場、理論と感情。
対立するようで、どこか補い合うような関係性だった。
陸翔は研究所にこもりがちで、人前で話すのは苦手。
でも彼の論文や成果は、次々と国際誌に掲載されるほど高精度だった。
日葵は患者の顔を見て、話をして、その子の“今”を判断する。
数字やデータに現れないものを読み取る力があった。
ある夜。疲れ切った日葵が、陸翔の研究室で寝落ちしていた。
そっとブランケットをかけた彼の手が、彼女の胸元に触れたとき、
鼓動が跳ねるように響いた。
――ああ、この感じ、覚えてる。
高校時代、触れそうで触れられなかった距離。
それが今、静かに近づいている。
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第三章 告白は、過去と未来をつなぐもの
共同研究が進む中、ある患者が、重度のアナフィラキシー発作で搬送されてきた。
新薬の臨床試験対象だった、10歳の少年だった。
対応に追われる日葵と、研究の結果を疑われる陸翔。
「私の判断だったんだ、まだデータが不完全なのに……」
そう自分を責める陸翔に、日葵は言った。
「責任なんて言わないで。あの子はあなたの研究で助かってる。
……陸翔、あなたのやってること、私は世界で一番信じてる」
その言葉に、彼の胸がふるえた。
初めて誰かに「信じられた」という実感を得た気がした。
――あの日、桜の下で交わした誓いを、ようやく今、現実に変えられる。
陸翔は深呼吸して言った。
「ひまり……君と人生を、生きていきたい。俺と、結婚してください」
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第四章 春の丘にて
結婚式は、両家の家族だけが集う、小さな春の丘で行われた。
陽向、千紘、澪、蓮――
そして、すでにこの世を旅立った陸と楓。
写真の中で微笑む祖父母に、日葵はそっと語りかけた。
「じいじ、ばあば。ようやく、私もこの手で光を届けられるようになったよ」
陸翔がそっと、彼女の手を握る。
「僕らの子どもには、僕たちの“光”を継がせよう。何があっても、消えない光を」
春風が吹く。
それはまるで、何代にも渡って受け継がれてきた“希望”の記憶だった。
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エピローグ:光の名をもつこども
やがてふたりの間には、双子が生まれた。
男の子の名は「光翔」、
女の子の名は「春音」。
その名前に込められたのは、
命の尊さ、希望、家族、そして「春に吹く優しい風」の記憶だった。
「ねえパパ、ママ、おじいちゃんとおばあちゃんはどんな人だったの?」
小さな声に、日葵は微笑んで答える。
「とっても、やさしくて、強くてね――
私たちに“未来を生きていい”って教えてくれたんだよ」
光翔と春音の成長物語を…
3世代目の子どもたちがどんな未来を築いていくか




