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100ものアレルギーを持つ男  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第一章 触れられない恋
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第3章 青い注射と鼓動の音

注射器に満たされた薬剤は、わずかに青みがかった透明だった。

 それは「試験段階の抗アレルギー治療薬」——陸の体に合わせて調整された特別なものだ。


 「これが、青い……?」


 陸は、注射器をまじまじと見つめた。普段の薬剤は無色か淡黄色。青い液体なんて初めてだった。


 「青というより、澄んだ空みたいな色だね」

 そう言ったのは、隣で立っていた宮坂楓だった。


 彼女は、研究者であると同時に、看護の資格も持っているらしい。手際がよく、無駄がない。けれど、彼女の動きにはどこか“優しさ”が滲んでいた。


 「副作用の可能性は、ゼロじゃない。けど、これまでの実験データから見て、君の体には適応する可能性が高い。……挑戦してみる?」


 楓の問いに、陸はしばらく黙っていた。


 アレルギーの薬は、刃物のようなものだ。

 効けば命をつなぐが、外れれば命を断つ。


 それでも——


 「やってみるよ。……生きたいから」


 楓の目が、少しだけ潤んだように見えた。


 「じゃあ、始めるね。……ちょっとチクっとするよ」


 細い針が、彼の左腕の静脈に刺さる。

 青い薬剤が、体内へとゆっくり流れ込んでいく。


 時間が止まったようだった。


 心拍数を確認するモニターが、静かに、規則正しくピッ、ピッと音を立てる。

 でも、それよりも大きく聞こえたのは——楓の手から伝わるわずかな鼓動だった。


 手袋越しなのに、温かい。


 「体の感覚、どう?」


 「……なんか、眠くなる。ふわふわして……」


 「副作用かもしれない。深くは寝ないで。私、ここにいるから」


 楓の声が、どこか遠くから響いた。

 薄れていく意識の中で、陸は自分でも驚くような感情を抱いていた。


 ——ああ、誰かに“任せる”って、こんなに安心できるんだな。


 彼女がそばにいるだけで、ほんの少し、アレルギーという牢獄の檻が緩んだ気がした。


 鼓動の音が、少しずつ静かに、柔らかくなっていく。

 それは、長い戦いの果てに見えた一筋の青空だった。


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