光のこどもたち ー 未来へ
光のこどもたち ー 未来へ
陽向の結婚:「春風のような彼女」
陽向が出会ったのは、小児科医として働く**千紘**という女性だった。
彼女は明るく、おっちょこちょいな一面もありながら、
子どもの前では誰よりも真剣だった。
重度アレルギーの子どもに寄り添い、親の不安に耳を傾け、誰よりも温かいまなざしで診察を続けていた。
最初は、真面目な陽向と元気な千紘はまるで正反対だった。
だが、ある夜の当直明け、彼女がポツリとこぼした。
「患者の子、怖くて泣いちゃってさ……でも、お母さんの方がもっと泣いてて……私、もっとできたはずなのに」
その涙を見たとき、陽向は気づいた。
この人は、表の明るさの裏で、深い想いと覚悟を抱えている人だと。
交際はゆっくりと、しかし確かに始まった。
そして、ある春の日。丘に咲く桜の下で、陽向は言った。
「父が、春風に名前を呼ばれてるって言ってた。
君のそばにいると、その風を思い出すんだ。……結婚してください」
千紘は笑った。涙をこぼしながら、ただ一言、「はい」と。
ふたりの間にはやがて、女の子が生まれた。
名は日葵。
陽向と千紘の“陽”と“光”を受け継いだ、未来そのもののような少女だった。
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澪の結婚:「静けさの中に響く声」
澪が愛したのは、同じ研究所で働く**蓮**という青年だった。
彼は無口で、人付き合いも苦手だったが、誰よりも誠実だった。
ある日、澪が実験に失敗して落ち込んでいると、蓮は不器用に差し出した。
「……この花、庭に咲いてた。元気出るらしい。たぶん」
渡されたのは、彼女が子どものころ父に教えてもらった――
**ネモフィラ(瑠璃唐草)**だった。
「……知ってた? これ、花言葉は“どこまでも続く優しさ”なんだよ」
蓮は驚いたように目を丸くし、うなずいた。
「……君の研究は、きっと、それに似てる」
その一言で、澪の心の扉は音もなく開いた。
交際を経て、ふたりは静かに結婚を決めた。
指輪も豪華な式もなかったが、ふたりにとってそれは完璧な誓いだった。
やがて澪と蓮の間には、男の子が生まれた。
名は陸翔。
亡き父の名を一文字引き継ぎ、大空へと羽ばたくよう願いが込められた。
澪は息子に言った。
「あなたのおじいちゃんはね、とても特別な人だったの。だから私たちも、特別な“やさしさ”を持って生きていこうね」
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家族の再会
春のある日、陽向と澪、ふたりの家族が再び丘に集まった。
桜が舞うその場所は、今や「家族の原点」だった。
日葵と陸翔が駆け回り、澪と陽向は微笑む。
いちかの写真が収められた小さなフレームが、今も家族に見守られている。
陽向が言った。
「パパとママの想い、ちゃんと子どもたちに届いてる気がするんだ」
澪が答える。
「うん。私たちが、春の風になって、ずっと守っていくから」
春風が吹いた。
それはまるで、陸と楓がそっと、そばに寄り添っているようだった。




