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100ものアレルギーを持つ男  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第二部:春風と柴犬の名前
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第四章 いちかが見た夢

夜の静けさが、陸の新しい家を包んでいた。

 柔らかな月明かりが窓から差し込み、いちかの毛並みを銀色に染めている。


 いちかは、深い眠りの中だった。

 小さな胸が上下に揺れ、夢の中で何かを追いかけているように、前足がそっと動いた。


 ***


 夢の世界のいちかは、まるで別の生き物のように大きくて力強かった。


 広大な草原を駆け抜け、風を切って走るその姿は、自由そのもの。

 空には光る蝶が舞い、彼女はそれを追いかけながら、嬉しそうに吠えていた。


 だが、ただの夢ではなかった。


 その夢の中で、いちかは不思議な力を手に入れていた。


 体中から柔らかな光が溢れ、触れるものすべてに癒しを与える力——。


 草花は一瞬で咲き誇り、小川の水は澄み渡り、病んだ小鳥が元気に飛び立った。


 いちかが一歩踏み出すごとに、周囲の景色は鮮やかさを増し、まるで魔法のように世界が変わっていった。


 ***


 一方、現実の世界では、陸がふと目を覚ました。


 隣でいちかの呼吸が乱れているのに気づき、そっと体を撫でる。


 「大丈夫か、いちか……?」


 いちかは一瞬、目をぱちりと開けて、陸をじっと見つめた。


 その目はまるで、夢の中の輝きを宿しているかのようだった。


 ***


 次の日、陸はいつも以上にいちかと過ごす時間を大切にした。


 散歩中、いちかは普段よりも元気に走り回り、まるで何かを伝えようとしているかのようだった。


 陸は不思議に思いながらも、ただその純粋な姿に心を癒されていた。


 ***


 その夜、楓が再び訪ねてきた。


 「ねえ、聞いてほしいことがあるの」


 楓は真剣な顔で話し始めた。


 「研究所で、新しい治療法の実験がうまくいったの。

 それが、アレルギーを根本的に減らせる可能性があるって」


 陸の胸に、希望の光が差し込んだ。


 「いちかの夢は、きっと何かの兆しなんだ……」


 そう思うと、陸の心は未来への期待で満たされていった。


 ***


 その夜、陸は眠れずにベッドの上でじっと天井を見つめていた。

 いちかの夢の話と楓の言葉が、頭の中でぐるぐると回る。


 “もし本当に新しい治療法があるのなら……”

 “いちかの不思議な力も、何か意味があるのかもしれない”


 そんな思いが、彼の胸を熱くする。


 翌朝、いつもより少し早く起きたいちかを連れて、陸は再び散歩に出た。

 朝の空気は澄み、草の香りが鼻をくすぐる。


 歩きながら、陸はいちかの様子をじっと観察した。

 普段は慎重に足を運ぶいちかが、今日はまるで何かに導かれるように、まっすぐ前を見て歩いている。


 その先には、小さな丘があった。

 いちかはそこで立ち止まり、見上げるように空を見つめた。


 すると、薄い霧の中から、柔らかな光が差し込んできた。

 まるで、いちかの夢の世界が現実に現れたかのようだった。


 陸は思わず息を呑む。

 「いちか……君は、何を見ているんだ?」


 いちかはゆっくりとこちらに振り返り、少しだけ尻尾を振った。


 その瞳には、確かな決意が宿っていた。


 ***


 その日、陸は研究所に向かい、楓と落ち合った。

 実験室の中で楓が手渡したのは、小さな試験管と新しいデータだった。


 「これが新しい治療法の原理。アレルゲンに対する体の過剰反応を抑え、免疫のバランスを整えるんだ」


 陸は真剣に説明を聞きながら、心の中で誓った。

 “自分だけじゃない、いちかも、楓も、みんなでこの壁を乗り越えたい”


 研究所の窓から見える青空は、どこまでも広くて澄んでいた。


 ***


 夜、家に帰るといちかがいつものように玄関まで走って迎えてくれた。

 その瞬間、陸は心の中で強くつぶやいた。


 「ありがとう、いちか。君がいるから、僕は強くなれる」


 いちかはその言葉を理解しているかのように、彼の足元で優しく鼻を鳴らした。


 窓の外では、静かな星空が広がっていた。

 その星の光が、まるで新たな未来を祝福しているように、キラキラと輝いていた。


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