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7.記録保管装置

 略奪者たちは土埃を巻き上げながら接近してきた。武装はまばらだが、数では圧倒的に不利だった。


「ミリア!やっぱり逃げる?」

「この人数相手じゃ正面から戦うのは自殺行為。けど、逃げ場がない以上、奴らを混乱させて突破するしかない!」


 ヴィエナがうなずこうとした瞬間、マイニオが鋭い声を上げた。


「ヴィエナ、周囲を見ろ! 後方に岩の裂け目がある。あそこなら一時的に身を隠せるかもしれない」


 ヴィエナが背後を振り返ると、大きな岩場が影を落としている裂け目が見えた。ミリアもそれを確認し、矢を構え直した。


「時間を稼ぐから、先に行って!」

「でも、一人じゃ……」

「大丈夫、矢が尽きるまでには追いつくわ!」


 ミリアは険しい表情で叫び、次々と矢を放ち始めた。迫りくる略奪者たちは思いがけない反撃に動揺し、一瞬足を止める。しかし、それでも勢いが完全に削がれることはなかった。


 ヴィエナは迷いながらもマイニオの促しに従い、裂け目へ向かって駆け出した。足元の砂が滑るのを感じながら、振り返らずに走る。裂け目へ飛び込むと、ひんやりとした空気が肌を撫でた。


「ここで待てばいいの?」

「いや、奥まで進め。裂け目の先がどうなっているかわからないが、ここでじっとしているのは危険だ」


 マイニオの声が冷静に響いた。

 ヴィエナは頷き、裂け目の奥へ進み始める。暗がりの中、足元に転がる小石を避けながら慎重に歩くと、微かに風が抜ける音が聞こえてきた。


「出口かな」

「可能性は高い。進め、ヴィエナ!」


 後方から、ミリアの矢が放たれる音と略奪者たちの叫び声が混ざり合い、荒野に響いていた。それが次第に遠のく中、ヴィエナの胸に不安が広がる。


「ミリア、大丈夫かな……」

「今は信じるしかない」


 マイニオは静かに答えた。


 その言葉に励まされながら、ヴィエナは足を速めた。裂け目の先に光が差し込む場所を見つけ、ようやく安堵の息を吐いた。その時、背後からミリアの声が聞こえた。


「ヴィエナ、そこにいるのね!」


 振り返ると、矢筒を空にしながらもミリアが走り込んでくる姿が見えた。彼女の髪は汗に濡れ、息は荒いが、その瞳にはまだ戦う意志が宿っていた。


「追手は?」


 ヴィエナが尋ねる。

 ミリアは矢筒を見下ろして苦笑した。


「少しは混乱させられたけど、完全に振り切るのは無理だった。奥に逃げられるかどうかで運命が決まるわよ」


 二人は再び目を合わせると、裂け目の奥へと駆け出した。

 そして、裂け目の出口へ差し掛かった瞬間、目の前には荒野とはまるで異なる光景が広がっていた。


「これ……施設?」


 ヴィエナが呆然と立ち尽くす。

 そこには古びた研究所のような建物が姿を現していた。半壊してはいるものの、明らかに人の手によるものであり、長らく忘れ去られた存在であることが一目で分かった。


「記録装置を解析できる可能性がある」


 マイニオが低く呟いた。

 ヴィエナとミリアは緊張したまま、静かに施設の中へと足を踏み入れた。


 施設の中は荒廃していた。天井は崩れ、壁には無数のひびが走っている。薄暗い空間に足を踏み入れると、微かに鉄の匂いが鼻を突いた。


「ここ、何なんだろう……?」


 ヴィエナは周囲を見回しながら慎重に進んだ。


「かつての研究施設だろうな。だが廃墟になっているとはいえ、まだ何かが動いているかもしれない。気を抜くな」


 ミリアがすぐ後ろからつぶやいた。


「この場所、国家軍の地図には載っていなかった。つまり、誰も知らないか、意図的に隠されているのか……」


 三人はさらに奥へと進んだ。足元に散らばる機械の残骸を踏み越えながら、薄暗い廊下を進むたび、どこからともなく風の音が響く。それがただの空気の流れではなく、何かの動作音のように聞こえることにヴィエナは気づいた。


「ヴィエナ、ここで一度立ち止まれ」


 マイニオが急に低い声を上げた。


「この部屋の先に、動力源が残っている気配がある。おそらく、機械が稼働している」

「機械?遺物みたいなもの?」

「可能性はある。だが確かなのは、誰かが使おうとしている形跡があるということだ」


 ミリアが肩に掛けていたナイフを手に取った。


「だったら、急いで調べる必要があるわね。この施設が誰の手に渡るかで荒野の状況が一変するかもしれない」


 ヴィエナは頷き、マイニオを信じて慎重に進むことを決意した。やがて廊下の終わりに、重厚な扉が現れる。扉はわずかに開いており、そこから漏れる光が廊下を照らしていた。


「中を確認しよう」


 ヴィエナは深呼吸をして扉の隙間に目をやる。すると、中には巨大な機械が稼働している光景が広がっていた。それは人間ほどの高さを持つ円筒形の装置で、何かを保存するためのような冷却装置が取り付けられていた。マイニオが緊張した声で話す。


「この装置には、戦争時代の記録やデータが保管されている可能性がある。ソニヤの手がかりが含まれているかもしれない」


 ミリアが扉を静かに押し開けた。


「だったら、早く調べないと」


 三人が部屋に足を踏み入れると、装置のパネルが淡い光を放ち始めた。それと同時に、どこからか警告音のような音が鳴り響いた。マイニオが鋭く叫んだ。


「侵入者を感知するセンサーかもしれない。この施設がまだ機能している証拠だ!」


 ヴィエナとミリアが周囲を見回すと、床から複数の小型の機械兵がせり上がってくるのが見えた。それらは人間の膝ほどの高さだが、光る目のような部分がヴィエナたちをロックオンしていた。


「迎撃モードだ……戦うしかない!」


 ミリアがナイフを構えながら叫ぶ。


「ヴィエナ、この機械たちを倒さないと、装置を調べられない!」


 ヴィエナは決意を固め、マイニオをしっかりと履き直した。

 機械兵たちが低く唸る音を立てながら、ゆっくりとヴィエナたちに迫ってきた。その光る目が不気味に輝き、何かを分析するように動きを止めない。

 ミリアがナイフを握りしめたまま身構える。


「まったく忌々しいな」


 マイニオが厳しい口調で言う。

 ヴィエナは喉を鳴らしながら、自らの足元に目をやる。マイニオがいつでも力を貸す準備ができていることを感じた。


「行くよ、マイニオ!」


 ヴィエナが一歩踏み出すと同時に、機械兵の一体が素早く動き、鋭い刃を持つアームを振りかざしてきた。しかし、マイニオの力がヴィエナの動きを補助し、その攻撃を軽やかに避ける。


「今だ、カウンターを叩き込め!」


 ヴィエナはその指示に従い、回し蹴りを放つ。その蹴りはマイニオの強化によって驚異的な威力を放ち、機械兵の頭部を粉砕した。


「やった!」


 しかし、喜ぶ暇もなく次の機械兵が動き出した。ヴィエナは立て続けに攻撃をかわしながら反撃を繰り出す。一方で、ミリアも素早い動きで敵を翻弄し、ナイフで的確に関節部分を突いて次々と仕留めていく。

 やがて、最後の機械兵が動きを止め、静寂が訪れた。機械の残骸が床に散らばり、戦闘の余韻がまだ空気に漂っている。

 ヴィエナが息をつきながら周囲を見渡す。マイニオが彼女に声をかける。


「あの装置を調べるぞ」


 ヴィエナとミリアは装置の前に立ち、慎重に操作パネルを触れ始めた。ミリアがパネルを分析しながらつぶやく。


「これは記録保管装置……データはほぼ消されているけど、一部が残っているみたい」


 パネルに映し出されたのは、古びた戦時中の記録だった。映像の中には、実験施設で数名の研究者が何かを操作している様子が映っている。そして、画面の片隅に名前が表示された。

 ヴィエナが息を飲む。そこには、かすれた文字で「ソニヤ」の名が記されていた。マイニオが声を上げる。


「彼女はこの施設で何らかの実験に関わっていたんだ。この記録を辿れば、次の目的地が分かるはずだ」


 ミリアが真剣な表情でパネルを見つめた。


「でも、これだけじゃ情報が足りない。他の端末や記録も探さないと……」


 ヴィエナたちは記録の残る端末をさらに調べるべく、施設の奥へと足を踏み入れた。荒野で長い年月を経たその場所は、壁が崩れかけ、ところどころ機械の部品が錆びて床に散らばっていた。だが、それでもなお動作を続ける装置の微かな振動が、ここに何かが隠されていることを伝えていた。


「この施設、まだ完全には放棄されていないのね」

 

 ミリアが鋭い視線を巡らせた。

 

「少なくとも、何者かがこれを利用し続けている……私たち以外の足跡もあるわ」

「用心しろ、ヴィエナ」


 ヴィエナは静かにうなずきながら、マイニオの感覚を足元に感じ取った。靴が地面を踏むたびに微かに伝わる振動が、まるで彼自身が周囲を探知しているかのようだった。


 施設の奥の部屋にたどり着いたとき、彼女たちは大きな端末を発見した。青白い光がかすかに点滅し、パネルがまだ動作していることを示している。

 ミリアが慎重に装置に近づく。

 ヴィエナはミリアを見守りながら、緊張の中で周囲を警戒していた。荒野での数々の戦いを経て、彼女は自分の感覚が研ぎ澄まされていることを感じていた。そして、その感覚が囁く。何かがおかしい、と。


 ヴィエナが警告を発しようとした瞬間、施設全体に警報音が響き渡った。赤いランプが点灯し、部屋中がまるで血の色に染まったかのように見えた。


「侵入者検知。施設の防衛システムを起動します」


 無機質な声とともに、壁の隙間から再び機械兵が出現した。その数は先ほどとは比べ物にならないほど多い。

 マイニオが怒声を上げる。


「くそっ!この施設、ただの記録保管所じゃないな。敵を引き寄せるための仕掛けだ!」

「時間を稼いで!このデータ、必ず回収するから!」


 ミリアが端末を操作しながら叫ぶ。

 ヴィエナは深く息を吸い込むと、マイニオの力を足に感じて前に出た。


「私が何とかする!」


 機械兵の群れが一斉に動き出した。彼女は鋭い目つきで敵の動きを追いながら、一歩一歩を正確に踏みしめていく。マイニオの導きに従い、敵の隙を見抜きながら、一撃ずつ確実に機械兵を仕留めていく。


 しかし、敵の数は尽きることがなかった。戦いの最中、ヴィエナはふと視界の端にミリアの苦悶の表情を捉えた。

 ミリアが必死に端末を操作しながら叫ぶ。


「これ、暗号化されてる!解除するのに時間がかかる!」


 ヴィエナはその言葉に焦りを感じつつも、振り返ることなく戦い続けた。

 すると、不意に部屋全体が激しく揺れ始めた。天井から砂や瓦礫が降り落ち、さらに大きな音が施設内に響き渡る。


「最悪だな!」


 マイニオが苛立ちを隠さずに声を荒げる。


「早くデータを取れ!でないとここごと崩れるぞ!」

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