孤独の影
虐待要素があるため、注意です。
阿久津は、一人暮らしの部屋のうす暗い照明の下、スマートフォンを握りしめていた。
今日の試合の結果を父親に話さなければならない。
「もしもし…。」
電話の向こうから、父親の重々しい声が響いてきた。
「どうだったんだ?」
深呼吸して、震える声で答えた。
「あの、ええと、あの…。」
言葉が出てこない。
試合の結果を伝えることが怖くて仕方なかった。
「どうしたんだ。黙っているとは。」
父親の声が一段と厳しさを増した。
そして、覚悟を決めて今日の試合の結果を告げた。
「あの、試合は…、負けました。」
言った瞬間、電話の向こうから怒声が飛んだ。
「お前言ったよな!?今日の相手には勝てるって!!」
「はい。」
確かに事実だった。
自分が普通にやれば勝てる相手。
そう…。普通にできれば…。
「思うようにできなくて…、でも、言われてたユーロステップからのダブルクラッチは成功したんだ!」
「だから?」
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
「だから、なんなんだ?結局2部ごときの連中に勝てず、お前は、そこのぬるま湯に浸かって遊んでいるだけじゃないのか?」
「そんなことは…」
「無いと言い切れるのか!!」
また、父親の怒声が飛ぶ。
「いいえ…。」
そうやって、力なく答えること以外できない自分に嫌気がさす。
電話越しから大きなため息が聞こえる。
「金を返せ…」
「それは…」
「約束と違うだろ!!お前に今まで使った金と時間返してもらわないと、こちらになんの得もないじゃないか!!」
「すみません。すぐには、返せません…。まだ、やらせてください…」
「お前がやりたいっていうから、先行投資してやってんのに…」
そこから3時間はこのやり取りが続き、日をまたいだため、父親が折れ、電話は切れた。
電話が切れた後、ベッドに倒れこみ、しばらくの間動けなかった。
父親から言われた言葉が頭をぐるぐる回る。
「先行投資…か。」
あまり聞きたくない言葉だった。自分は父親が満足する人生でなければならないのか。いつまでこんな気持ちを持ち続けなければならないのか。
突如、視界がぼやけた。目をこすると濡れている。
「あぁ。死にたい…」
誰にも聞こえない弱音は、静かな深淵に吸い込まれ、消えていった。