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エピローグ 熱いうちに召し上がれ

「「「いただきまーす」」しゅ!」


「はい召し上がれ」



プロポーズの言葉と共に指輪と業務用オーブンをクリスから贈られて早や四年が経過していた。


ジュリアはあれからすぐにクリスと入籍して夫婦となった。

小さなお店の二階に三人暮らし……と思っていたが、入籍と共にクリスは八百屋とは反対側の空き家になっていた店を買い取り、改装を行った。


店をこれ以上大きくするつもりはないジュリアの意向を汲んで店はそのままで少しだけ手を入れ、家族で暮らす居住部分を増やしての改装となった。


そしてそれからすぐにジュリアは第二子を妊娠出産。

ジュリアにとっては二度目でもクリスにとっては初めての経験なのでとにかく心配性で過保護な旦那兼父親であった。


そうして生まれた二人目は女の子で、これまたクリスにそっくりの髪と瞳の色を持って生まれてきた。


クリスは生まれた娘にルチェと名付けた。

古代アデリオール語で“幸福”という意味がある。


二歳になっていたリューイはすでにお兄ちゃんの顔をして生まれたばかりの妹の頬にちゅっとして、相棒のバンスもルチェのほっぺをひと舐めした。


きっと二人なりのはじめましての挨拶で、これからはリューイとバンスで力を合わせて可愛い妹を守ってゆくのだろう。


そんな兄妹も五歳と三歳となり、ジュリアは店と子育てで毎日忙しく暮らしている。

だけどクリスが魔法律事務所に勤めながらも家事や育児を率先してやってくれるので、忙しくはあるが大変だと思うほどではない。


随分と回り道をしたけれど、本当によい旦那サマと結婚したものだといつもジュリアは内心ガッツポーズをキメている。


その回り道を余儀なくされた元凶のドウマ男爵父娘だが、父親の方は様々な不祥事や不始末が明るみに出て魔法省を懲戒免職。(魔法省職員は公務員である)


かつて魔法大臣の下でブイブイいわせていた権威は見る影もなく消え失せ、今は田舎の小さな領地で細々と暮らしているらしい。


駆け落ちした娘のルメリアは契約した魔法生物の保護管理の責任を放棄した罪により軽い懲役刑が課せられた。

それよりもルメリア自身にとって堪えたのは服役中に駆け落ちしてまで一緒になった夫に浮気され逃げられていた事だろう。

クリスの立場を利用してまで育んだ真実の愛とやらに彼女は裏切られたのだ。


だけど人生はまだまだ長い。服役中に大いに自分と向き合い、反省してやり直して貰いたい。


過去に起きた事の顛末をクリスから聞かされた時、ジュリアはそう思ったのであった。



「ママ、エビドリア美味しいね!」


「おいちぃ!」


「ジュリアのドリアはなんでも美味い」


家族から大絶賛を受け、ジュリアは微笑んだ。


「それにしてもあなた達、ドリアばっかり食べてよく飽きないわねぇ」


ジュリアとしてはその日の余った食材を片付けられるので大助かりだが、週に三回夕食はドリアというのはどうなのだろう。

まぁもちろん、ホワイトソース系トマト系カレー系とドリアの種類は上手く変えているつもりだが。


五歳になったリューイが元気よく答える。


「ちっともあきないよ!ママのドリアはさいこうだもん!バンスもドリアをたべたあとのぼくのまりょくがおいしいっていってるよ!ね、バンス」


「クゥン!」


「ふふ、ありがとうリューくん、バンス」


ジュリアが嬉しそうにそう言うと三歳になったルチェが兄の真似をして言った。


「るちぇもままのどりあしゃいこーだもん!」


「まぁふふふ、ルチェもありがとうね」


「俺だってジュリアのドリアを最高だと思ってるぞ!」


「ぷ、知ってるわよ」


ドリアに限らず、ジュリアが作った食事を毎日美味しいと言って食べてくれる家族。


三人が美味しそうに食べている姿を見るのが、ジュリアにとって何よりも至福の時間なのだ。


身重の体で一人王都から逃げるようにこの町へ来た時は、こんな日がくるなんて思ってもみなかった。


生まれて来る子どもとずっと二人だけで暮らしてゆくのだろうと思っていた。

そしていつか子どもが巣立てば自分は一人で生きてゆくのだと……。


クリスが必死になって探してくれなければ、そして必死に求めてくれなければ手にする事が出来なかった幸せが何よりも奇跡に感じる。


ジュリアは熱いドリアを美味しそうに食べるクリスの横顔を見た。

ジュリアの視線に気づいたクリスが優しげな笑みを返してくれる。


「ん?どうした?」


「幸せだなぁと思って」


「俺もだ。ジュリアが居て、子どもたちが居て、毎日が幸せで泣きそうになる」


「実際よく泣いてるじゃない」


「ダメなんだ。ジュリアと再会してからはもう涙腺が脆くなって……」


そう言ったそばから目に涙を浮かべる夫に、ジュリアは笑いながらその涙を拭いてあげる。


「ふふ、もうすぐに泣かないの。それにほら、口の端に少しソースが付いているわ」


ジュリアがクリスの口元を拭いてやるのを見て、リューイとルチェが言った。


「あーパパ、またママにあまえてるー」


「てるー」


「パパだってママに甘えたいんだよ」


「ずるいぼくもー」


「るちぇも!」


「はいはい。寝る前に絵本を二冊、読んであげるから」


「いっさつはパパがよんで!」


「よんで!」


子どもたちにせがまれてクリスが破顔しながら答える


「ああ、いいぞ」


その光景が何よりも愛しく、何よりも尊い。

そう思うとジュリアの胸に熱いもの押し寄せてくる。


目の端にキラリと涙の粒を光らせて、ジュリアは家族皆に言った。



「さぁさ、ドリアはアツアツが美味しいのよ。冷めないうちに召し上がれ」




終わり








───────────────────────





これにて完結です。



元々は読み切り用に考えたお話。

じっくり書けば全21話となりました(笑)


やはりシークレットベビーものが好きなので、書き出したら読み切りの文字数には収まりきらない☆

なので連載に切り替えて良かったなと自己満足しております。


さてさて次回作ですが、投稿はちょっと間が空きまして月曜日からとさせて頂きます。


お話も用意している二つの内どちらにしようか迷っております。

急ぎの作業を済ませながら決めて、投稿予定前日にまた告知をさせて頂きますね。

(忘れませんように!)


少し日にちが空きますがどうぞよろしくお願いいたします!



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