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プロローグ② ジュリアのドリア屋

ジュリアは地方の小さな町でドリア屋をひとりで営んでいる。


七席のカウンター席しかない小さな店で、二階を住居にしているドリア屋だ。



ドリア屋と銘打つのだから当然店で出すのはドリアのみ。


しかし店の売りがドリアだけと侮ることなかれ。

ひと口にドリアと言ってもじつに様々なバリエーションがある。


まずはオーソドックスなホワイトソースのドリア。

そしてミートソースドリアに、

ターメリックライスの上にドリア用に作ったカレーをかけ、落し玉子がオーブンで焼かれて半熟になったカレードリア。

それらにハンバーグ、ハーブ入りのソーセージ、チキンやシーフードなど好きな具材のトッピングが選べるのだ。


他には冬季限定のトマトクリームソースのサーモンドリアに、夏季限定のラタトゥイユドリアもある。

裏メニューには賄い用だったのが客の要望でメニューに追加されたベーコンがたっぷりのカルボナーラ風ドリアなどもあり、具材やソースやライスに工夫を凝らし、毎日食べても飽きが来ないドリアを客に提供している。


さらに追いトッピングにチーズ鬼マシマシや目玉焼きや半熟卵などもチョイス可能だ。


それらの工夫のおかげで客の心と胃袋をがっちりキャッチしている。


店を初めてまだ七ヶ月。

だがリーズナブルで美味しいドリアを求めて固定客が定着し、なんとか軌道に乗りはじめていた。



王都から逃げるようにこの地に来て、ちょうど貸店舗になっていたこの店を見つけられたのは本当に幸運だった。


高官の補佐に抜擢されてからというもの、恋人だったクリスの周囲の環境は激変した。

その直後に妊娠したと知り、彼の側にはいられないと黙って姿を消したのだ。


彼の事を忘れ、子どもと二人で生きていこうと頑張っていたのにまさかの再会。

最悪な事にリューイ(子ども)の存在を知られてしまった……。



───いや、きっと大丈夫!この居場所が知られるわけないし、向こうも家庭を持っているはず。


執着強めの男だったが、今の生活に波風を立ててまで自分を探そうとはしないだろう。


「あれは幻!一瞬だけ白昼夢を見たのよ!そうよ!うん、忘れよう!」


「まー?」


一歳になり、喃語から意味のある言葉を発し始めようとしている息子のリューイを抱き上げ、ジュリアはそのふくふくの柔らかなほっぺに顔を寄せた。


───私にはこの子がいるから大丈夫。強く生きていける。



母と子、小さな家で二人、文字通り身を寄せあった。




◇◇◇




朝、(まな)息子のリューイを託児所に預けてから開店の準備をする。


掃除をして店の前に置いてる鉢植えや店内の観葉植物に水をやる。


仕込みはいつも夜。二階でリューイを寝かしつけてから行う。

店舗兼自宅はこのような時に便利で本当に助かる。


託児所に行く前にセットしてあった各種ライスが魔道具により炊きあがると、OPENの札を出して開店だ。


11時開店すぐから常連客はやってくる。

この店は七席しかないためお昼前には席が埋まってしまう。

それを避けるために時間を調整して早めに食べに来てくれるお客もいるのだ。


「いらっしゃいませ」


「ジュリアさん、いつもの」


常連客の一人がこう言いながら一番奥の席に座る。

ジュリアはカウンター越しに水を出しながら返事をした。


「はーい、ハンバーグドリア、トッピングチーズ鬼マシマシですね~」


「今日はチーズ、鬼鬼でよろしく」


「……大きめのドリア皿にしようか」


そうやって客の好みに気軽に合わせるのもこの店の売りだ。


女手ひとつ、まだ一歳になったばかりの子どもを育てながら店に立つジュリアを、店の客も近所の人たちも温かく見守ってくれている。


だから一人でもなんとかやって来れたし、やっていけるのだ。



──みんな、じつは私がかつては魔法省のバリキャリだったと言ったら驚くでしょうね。



そんな事を考えてくすっと笑いながら、ジュリアは次々と訪れる客の給仕をした。

今日も店はそれなりに繁盛である。




そしてランチタイムのみの営業のこの店が15時で閉店をした後、

遠慮がちに店の扉に付いているドアベルが鳴る音がした。


「すみません、今日はもう店は終わ………


カウンターから閉店を告げるジュリアの声が消えてゆく。


「ジュリア……」



「…………クリス」



なんで来たコイツ。



そこには先日再会してしまったリューイの遺伝子上の父親である、


クリス=ライナルドが立っていた。






─────────────────────────




プロローグはここまで。


次から過去のお話になります。


次回、『二人は同期でライバルでそして……?』


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