まさかの再会
愛息子のリューイが一歳を迎えた日、ジュリアはふと思い出した。
「そういえば魔術師資格の更新期限が迫っているんだった。もう魔法魔術関連の仕事をする事はなくても、転移魔法みたいな高度魔法を扱いたいから資格の更新はしておかないと」
と、ジュリアは明日の定休日にリューイを連れて町の役所の中に在る、魔術師協会の出張所へと更新登録の手続きに行く事にした。
今日はリューイの一歳のお誕生日。
「早いなぁ。もうあれから一年?ホントにあっという間だったわ」
「まぁ」
リューイはジュリアの事を「まぁ」と呼べるようになった。
もちろん「ママ」の「まぁ」だ。
リューイの言葉の発達は遅くも早くもないようだ。
男の子は若干お喋りは遅いかもと八百屋のおかみさんに聞いていたので心配はしていない。
表情も豊かになった分、我も強くなりご機嫌取りが大変になったがそれもまた成長の証で嬉しい。
「リューイ、リューくん。お誕生日のお祝いをしましょうね」
昼間、ご町内の皆さんから届けられたリューイへのお祝いの数々。
オモチャあり、お洋服あり、乳幼児が食べられるケーキありとバラエティに飛んでいて本当に有り難い。
ジュリアはいただいたケーキをリューイに食べさせながら皆に心から感謝をした。
「まぁ!ちー」
「ふふふ美味しのね。良かったわねリューくん」
「まぁ!まぁ!」
全身で喜びを表現し、一心に母親に気持ちをぶつけてくる息子が可愛くてたまらない。
「リューイ、大好き。あなたがママの全てよ」
ジュリアはそう言ってリューイに頬ずりをした。
擽ったくて笑いながら身を捩る息子から、乳幼児独特の柔らかな香りがする。
ジュリアにとって、何よりも癒しの香りなのだった。
そうして次の日、リューイを連れて少し離れた所にある町役場へと資格更新のために訪れる。
必要な書類に署名と魔法印を捺印して無事に更新手続きは終わった。
リューイを抱っこしながら町役場の階段をゆっくりと下りて行く。
「ふぅ、やれやれ。終わった終わった……せっかく町の中心地に来たんだから何か美味しいものでも食べて帰ろう…かし、ら……」
そうひとり言ちるジュリアが階段下に立つ男性に気づきその方向に視線を向けた。
そしてそこに立つ人物が誰なのかを知った時、思わず我が目を疑った。
「クリ……ス……?」
階段下からこれ以上ないほど目を見開いてこちらを見るクリス・ライナルドがそこに立っていたのだ。
互いに目が合って、互いの時が一瞬にして止まる。
ジュリアはクリスを、クリスはジュリアとそして……
「子ど、も……」
クリスがそう言ったのを聞いたその瞬間、ジュリアはリューイを隠すようにクリスに対し体を斜めに構えた。
それでもクリスは一心不乱にジュリアが抱いている赤ん坊を見つめている。
そして声を押し出すようにして話かけてきた。
「ジュ……ジュリア……そ、その子、は…」
見られた!
知られた!
ジュリアは自身の血の気がどんどん引いていくのを感じた。
しかしここで怯んでいてはダメだ。
リューイを守れるのは自分しかいないのだからとジュリアは気を引き締めてクリスに返した。
「この子が何?あなたには関係ない子よ」
そう。ジュリアとクリスはもう何の関係もないのだ。
それなのにクリスが認めないとばかりに言い募る。
「だけどっ……その髪色も瞳も、俺と一緒じゃないかっ……」
「だから?この子はね、私が一人でお腹の中で育てて、一人で生んで、これまた一人で育ててる私だけの子なのっ。あなたとは何の関わり合いもない子なのっ!」
「ジュリア……」
どうしてクリスが今にも泣き出しそうな顔をしているのか、ジュリアにはわからない。
混乱しながもクリスの隙をついてジュリアは逃げ出した。
クリスに……知られてしまった。
リューイの存在を、子どもが生まれていた事を。
それを知ったところで、互いに幸せにはなれないというのに。
クリスの家庭を、幸せを壊す事だけはしたくない。
クリスにとってジュリアとリューイの存在が、重荷や汚点となるのだけは死んでも嫌だった。
だけどきっと大丈夫。
ちゃんと逃げおおせたはず。
複数回の転移魔法に中和剤を服用しているのだ、ジュリアの居場所を突き止める手立てはないはず。
あの時何故クリスがあの場所に居たのか気になるがきっともの凄い偶然が重なっただけだろう。
というかそう思いたい。
今日の事は忘れてまた明日から新たな気持ちで頑張ろう。
そう思っていたのに。
店の営業が終わると同時に、
クリスが店を訪れたのであった。
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お待たせしました。
次回クリスsideです!
アホクリスの言い分を、聞いてやろうじゃないですか。
次の投稿から夜更新に変わります。
さっそく今夜からです。
よろしくお願いしまーす!