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二十一話

「名前が重なる人がいる程大所帯なの」


 意外だった。

 団とは言っても、それは犯罪組織。町という安全な場所を捨ててまで、人を襲うために自らを危険に晒すことを選択する者がそんなに多いとは考えていなかった。


「ヘッ、ビビったか。分かったらさっさと手を離せ。今なら勘弁してやらあ」

「逃げないわよ? 話があるって言ってるでしょ」


 規模が想定外でも、やることは変わらない。元々戦うために来ているのではないので。

 万が一があっても、逃げることぐらいならできるだろう。


 直前の話が頭からすっぽり抜け落ちているぐらいだ。逃げたいがだけの虚勢であることも明らかである。


「そ、そうだったな。だったら、ほら、案内してやるから……」

「うーん」


 砦に到着するまで、延々と襲って来るだろう盗賊たちと戦い続けるのが得策ではないことは、コーデリアにも分かっている。


「案内係として任せられると思う?」

「駄目なら別の奴にすりゃいいさ」

「それもそっか」


 躊躇なく容赦のないことを言ったロジュスに、コーデリアも同じく迷わずに同意する。

 代わりはいくらでもいると言ったも同然なので、個の人格に対して無礼であることは間違いない。


 しかし盗賊への嫌悪も手伝って、脅しがもたらすだろう効率の方を優先した。

 そして二人の目論見通り、盗賊は怯えて顔を引きつらせる。


「ということで、大人しく案内して。仲間が襲ってきそうになったら止めてね?」

「お、おぅ……」


 震えた頼りない返事ではあったが、盗賊はしっかりとうなずいた。自分が助かるにはそれしかないと判断したのだろう。


「交渉成立ね。さ、行きましょ」

「お前ら、一体何の用なんだ。どこに行けって?」

「とりあえず白狼砦に案内して。ロブって人から手紙を預かったのよ。頭に渡してくれって」

「頭に直接か? ってことは、ロッシュの兄貴か?」

「本名は知らないわ。でもその分なら、手紙を渡せば通じそうね」


 今はコーデリアたちからも用があるので、穏便に面会が叶うならそちらの方がありがたい。

 その先で求める情報が得られるかは、また別の話だが。


「兄貴の手紙があるなら、頭も会うだけは会うだろうよ。分かった。案内する」

「よろしくね」


 思いの外重鎮だったらしいロブのおかげで、素直に案内をしてもらえそうだ。

 渡したロブも自分の名前の効果に自信があったのかもしれない。


 そうして進むことしばし。遠くに砦の尖塔が見える頃になると、見張りらしき盗賊団のメンバーから呼び止められることが増えていった。


 その度に案内役に捕らえた盗賊が説明をして、とりあえずは順調に進んでいく。

 更に歩いて砦の全容が分かるようになってくると、ラースディアンが戸惑うように辺りを見回す。


「どうしたの?」

「……いえ。なぜかは分からないのですが、この砦に既視感があって」

「来たことがあるとか?」


 失っている記憶の中で訪れたことがあるのなら、既視感を覚えても不思議はない。

 記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないと、コーデリアは思考を促した。


 コーデリアに言われるまでもなく、ラースディアンも己の内に問いかけていただろう。ややあって首を横に振る。


「ない……と思います。この白狼砦は建てられてから随分と時間が経ち、朽ちた跡も見えます。ですが私の感覚では、まだそう古くはなかったはずの場所なのです」

「それなら別の場所だな。なにせこの砦が放棄されたのは、もう二百年は前って話だ」


 ラースディアンの見解に答えを与えたのは、砦を根城に使っている盗賊だった。


「元はやっぱり、魔物への備えだったのかしら」

「そうなんじゃねえか。知らねえけど」


 しかしどうやら、自分たちが拠点として使っている砦の歴史に大して興味はないようだった。

 盗賊から情報を得るのは諦めて、コーデリアはラースディアンへと目を戻す。


「残念ね。来たことのある場所なら、思い出す刺激になったかもしれないのに」

「そう、ですね」


 肯定しつつも、ラースディアンの言い方は歯切れが悪い。少なくとも心の底から迷いなく、という様子ではなかった。


(……近付いていくのも、怖いのかしら)


 かろうじて残っている記憶の断片から考えても、ラースディアンの過去は楽しいだけのものではない。

 反射的に心が拒む。そういう事もあるかもしれない。


 それ以上は触れずに、砦の門を潜る。今は通れるように下ろされている跳ね橋を支える鉄の鎖は、古そうだがしっかり手入れはされていた。


 おそらくいざ敵から攻められても、正常に働いてくれるだろう。


(備えは魔物を想定しているのかしら。それとも人?)


 もしくは、敵であればどちらでも変わらないか。


 砦の内部は、コーデリアが想像していたよりもしっかり整備されていた。庭に置いてある石像にも補修の跡がある。


 城の庭園とまでは言えないが、植物も放置はされていない。


(意外だわ)


 もっと荒れた様相を想像していたのだが。

 当然寄り道は許されず、コーデリアたちは案内している盗賊に付いて最短距離で奥へ進む。階段を上がって二階に出たところで、再び呼び止められた。


「止まれ。そいつらが伝令のあった客人か?」

「ああ、そうだ。ロッシュの兄貴からの手紙を預かってるんだとよ」

「なら、そいつを見せてもらおうか」

「これよ」


 盗賊の威圧的な態度に反感を覚えつつ、コーデリアは手紙を渡す。

 手紙を受け取りつつ、見張りはコーデリアを見てにやりと笑う。


「まあ、まるきりフカシじゃなさそうだ。良い度胸だよ。頭が気に入るかもな」

「そう? わたしの方から好意を抱ける可能性は凄く低いけど」

「おっと。じゃあ駄目かもだ。――おお、こいつは確かに兄貴の字だな」


 手紙を開いて文字だけ確認すると、すぐに畳んでコーデリアに返してくる。


「中身は改めないのね」

「生憎、俺はただの見張りだ。知っちゃならねえ情報を目にするような危険は冒さねえのさ。さ、行った行った」


 塞いでいた道を、二人の見張り両方が端に移動することで空ける。


「俺も担当場所に戻らあ。あぁ、変な奴に当たっちまった。ついてなかったぜ、まったく」


 何事もなくコーデリアが通されたことにほっとした様子を見せつつ、案内をしてきた盗賊も引き返していく。

 下手な相手を連れてきたら責任を問われるのだろう。安心したのは本心からのように見えた。


 そしてコーデリアたちは、見張りの間を通って先に進む。


 二階にはいくつか部屋があり、中には人が潜んでいる気配があった。だがどこに行けばいいのは明快だ。

 一つの扉の前だけに見張りがいて、視覚的に教えてくれる。

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