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十八話

「アルディオ殿に相談した方が良いかもしれませんね」

「そうね」


 もしかしたら新たな情報があるかもしれない。


 人は煙や霞ではないので、動けば動くほど痕跡は大きくなり、捕らえやすくなる。今の禍招の徒がこの九十九年の中で最も活発に活動しているのは間違いあるまい。


(それこそ、組織の中枢をどうにかすれば、根絶まではできなくても動きを封じる、鈍らせることはできるかもしれないわ)


 と、コーデリアが対処を考えている隣で。


「……禍招の徒、か」


 珍しくずっと黙っていたロジュスの低い呟きに、コーデリアは背筋が寒くなった心地がした。


 ラースディアンは魔物に対して過激だが、ロジュスは魔物本体よりもそちらに近寄ろうとする人間に対して苛烈だ。


「きっちり調べる必要があるだろうな」

「――……」


 それは話の流れにも沿っていて、自然な一言だったはず。

 しかしコーデリアにはそこに、自分が思う以上の意図が含まれているように感じてならなかった。


「……ロジュス?」


 ラースディアンも同様だったようで、名前を呼んで真意を促す。


 コーデリアとラースディアンが自分を見る目に気が付き、ロジュスははっとした顔をして、常の作り笑顔に戻った。


「何、詰まらねー横槍を入れられたくねーって話。さ、次行こうぜ」

「そう、ですね」

「そうね」


 今はそれが一番、前に進む一歩だろう。




 その後も森を見て回り、コーデリアたちが村の宿屋に戻ってきたのは、太陽が朱に傾きつつある頃だった。


「おお、皆さん、お帰りなさいませ」

「ただいま戻りました」


 店内の掃除をしていた主人の言葉に応じつつ、コーデリアは二階を見上げた。


「倒れていた人の具合はどうですか?」

「何度か起きたんですが、やはり疲労が濃いようで。ですがきっと、明日には自宅にも帰れるでしょう」

「そうですか」


 順調な回復――かどうかは治癒士でもないコーデリアには分からなかったが、快方に向かっているのならば良かった、と思う。


「その、それで、森の様子は……?」

「ええ、もう大丈夫です。結構深くまで見て回りましたけど、マッドフレイアーをはじめ、大体倒せたと思います」

「そうですか!」


 待ち望んでいた朗報を受け取って、主人は顔を輝かせた。

 保証となるのはコーデリアの言葉のみ。しかし主人はもう、彼女の言葉を疑わなかった。


 コーデリアの言葉の保証を、主人は信じている。


「皆さん、さぞお疲れの事でしょう。今日はどうぞ、ごゆっくりお休みください。本当にありがとうございました」

「はい、そうさせてもらいます。――あ、それと。王都に戻ったら報告をするので、近いうちに通達も来ると思うんですけど、もし必要だったら村の方々にも伝えていただけますか」


 依頼者はアルディオなので、彼の前に現地の人に報告するというのもちぐはぐな気がしたし、誰に伝えるべきかも分からない。


 住人である主人ならば格式ばった報告とかではなく、自然の会話で広めてくれるだろう。


「分かりました、伝えておきます。……そうだ、皆さん、蜂蜜はお好きでしょうか?」

「勿論好きです! あ、わたしは」


 ラースディアンとロジュスの好みは聞いたことがない。意気込んで答えてから、コーデリアは補足を付け加えた。


「私も好きです」

「俺も」


 ただ、訂正する必要はなかった。コーデリアに続いて二人もうなずく。


「良かった。では今日は腕によりをかけて蜂蜜を振舞いましょう」

「いいんですか?」


 今村にある蜂蜜は、絶対に納品しなくてはならない相手に納める分だと言っていた。


「森が安全になったのなら、また取りに行けば問題ありませんから。よければ一瓶、贈らせていただけますか」

「えっ。いえ、ちゃんと買います。だってお仕事で退治したんだもの。報酬以上のものを貰うのは、契約としてよくないと思うの」


 契約以上の報酬を支払うのが当然になる――そんな悪習を生み出しかねない。きっぱりとコーデリアは断った。


「でも、買わせてもらえるならぜひ」


 話を聞いて依頼を受けたときから欲しいとは思っていたし、今後の生産、採集が見込めるようになれば売ってもらえるのではという下心もあった。


(旅の途中だったり、宿を借りてたりだと迷ったかもしれないけど……)


 幸い、今はアルディオの屋敷に間借りしていて長期滞在できる拠点がある。蜂蜜一瓶ぐらいなら保存しておけるはずだ。


「確かに、契約以上の物を支払うのはよくないですな。では、村の仲間を助けていただいたお礼としてお納めいただけませんか。こちらはお嬢さんたちの厚意だ。厚意によって受けた恩を返すのはただの道理と言えましょう?」

(お礼目当てじゃ、なかったんだけど……)


 助けられるなら助けたい。助けられなかったらきっと自分も悔しい気持ちになる。それだけの理由だった。

 少しだけ迷ってから、コーデリアは首を縦に振る。


「分かりました。お礼ならありがたく頂きます」


 助けたことへのお礼だというなら、突っぱねるのもむしろ失礼だろう。


 コーデリアたちが助けた青年とジュノーの命を大切に想っているからこその礼だ。それを大したことではないと言うのは、まるで彼らの命を軽く扱ったかのような側面が生まれる気がした。


「じゃ、飯時になったら声かけてくれ。俺は少し部屋で休むなー」

「うん、分かった」


 ひらりと手を振ったロジュスはコーデリアがうなずくと、二階へと上って行った。


「では、私は……」

「あ、ごめん。ラスはちょっといい?」

「何でしょうか?」


 ラースディアンが自身の予定を決める前に、コーデリアが引き留める。


「聖鏡を貸してほしいの」

「……気になる変化がありましたか」

「少しだけ」


 隠すことに意味はない。共に旅をしている以上、いっそ危険さえ生むかもしれない。


「では鏡をお持ちします。部屋でお待ちください」

「うん」


 聖鏡で禍刻紋を調べると、当人の背後に光で映し出されるという中々派手な形になる。人目がある所では避けた方が無難だと思われた。

 今の宿屋に外からの客はいないが、料理を食べに来ている村人はちらほらいるようなのだ。

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