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五話

「才識者がですか?」

「そう」


 有用な能力ゆえに重用され、希少だから隠されるというのは分からなくはない。だが一人の人であることを思うと、それでいいのか、という気持ちにもなる。


「持って生まれたもので、人生の幅が狭まることもあるさ。誰だって大なり小なりな。その点で言えば、多少の不自由を被っても才識者は別に悲観するほどじゃないだろ。大切にはされてるんだから」


 世間からは負の方向でしか評価されない『特別』だって、世の中にはあるのだ。


「恵まれてるから幸せってわけじゃないだろうが、持ってない奴からすりゃ贅沢言うなって話になるし」

「……うん。でも、大変なんじゃないかなあって思っただけ」


 相対的に多くの人より恵まれていて、ずっと恵まれているがゆえに当人が知らなかっただけだとしても、心が訴えて感じていることに嘘はあるまい。


「わたしがずっと自由にさせてもらってきてて、楽しかったからかな、きっと」

「であればコーデリアさんの力で叶う範囲で、その気持ちを共有されるのがよいかと思います」


 それこそ、才識者の身をどうこうするのはコーデリアには不可能だ。

 だがもし、手が伸ばせるものであったときは――


「うん、そうする」

(できるような人になりたい)


 目標がもう一つ増えた。


「人生って大変ね。一つ経験するごとに、次々やりたいことが増えるんだもの」

「知って興味を持って、やりたくなる。そうして発展していく。人間ってやつは、立てた目標を達成したときに快感を得るようにできてるからさ」


 そうして努力を重ねるのだ。


「だからコーデリア。君は今、自分が楽しくなるチャンスを得たってことだ。喜べ喜べ」

「いいわね、それ。頑張りがいがあって」


 先に楽しい気持ちが待っているとなれば、やる気も出るというものだ。


「だろー?」


 くすくすと笑い合いながら、神殿を出る。建物内から出ると少し陽が眩しい。手をかざしてしばしやり過ごす。


「さて、これからどうしましょうか。まだ陽も高いですし、アルディオ殿の屋敷で過ごすだけというのも少々もったいない気もしますが」

「わたしももったいないなとは思うけど……。じゃあ有効な使い方は? って聞かれると思い付かないって言うか……」

「そうだなあ……」


 三人で、しばし頭を捻る。


「じゃ、酒場に行くか?」

「昼間なのに?」

「昼間だからいいんだって。夜の酒場はコーデリアには早い!」


 年齢的には許される。なのに駄目だと断言されるのには反発心が湧いた。

 しかし、では夜の酒場に行きたいのかというと、そんなことはない。


(怖い印象があるし……)


 行ったことさえないので限りなく勝手な印象だが、酔漢だらけで理屈の通じない場所、という感じだ。


「こういう大きな町の酒場には、傭兵なんかに頼む仕事の依頼板みたいなのがあるもんだ。で、それを目当てに傭兵たちも酒場に集まる」

「そっか。そこで腕の立つ人を探すのね」

「まー、一応な。ちゃんと探しといたほうがコーデリアも報告しやすいだろ?」


 両親と交わした約束を、道中でロジュスにも話してあった。


「あんまり期待してない言い方ね?」

「どうしてもって訳じゃなくなったからな。ほら、戦力的には一応バランスはとれてるし。ラスが呪紋士で俺は基本何でもできるし、コーデリアが近接特化。な?」


 ラースディアンやロジュスが女性の仲間を求めたのは、戦力面というよりもコーデリアの心理的な負担を軽減するためだ。


 それを大して必要と感じなくなったのは、コーデリアが二人と打ち解けてきた実感があるのだろう。

 コーデリアからしても、ロジュスが加わった時点で一応の目標は達成されたといえなくはない。


 完全に信用できる味方、と言い切れないのが難しい所ではあるが。


「あと一人、仲間に欲しいとしたら……。やはり護りの得意な方でしょうか」

「だな。いてくれると心強くはある」

「それって女性に向くものなの?」


 男性に比べて、女性は力や体力で劣る。これは覆せない事実だ。


「本物の才覚を持つ人材なら、正直性差はそこまで響かない。なぜなら万物はすべてマナでできていて、そのマナを呪力として上手く扱えれば、理論上何でもできるからだ」

「肉体を強化するのに長けた方なら、己の想像する最高の肉体を実現できる可能性もある、ということです」

「へえ……」


 コーデリアは思わず自分の手をまじまじと見て、それから顔を上げて周囲を眺めた。

 どれ一つ、同じものなどない。なのに根源は同じだと言う。


「世界って不思議ね」

「まあ、そーだな」


 これまで見てきたものへと思いを馳せたとき、はたと気が付く。


「魔物も同じなの?」

「お。そこに行くか」

「自然だと思うけど」


 魔物も人間も根源が一緒――となったとき、一番気にしそうなのはラースディアンだ。恐る恐る様子を窺う、と。


「この世界に在るものですから、残念ながら認めなくてはならないでしょうね。残念ながら」


 認めつつも強調して繰り返された言葉に苦笑いするしかない。


「確かに根源は一緒だが、人間と魔物は別物だ。神力に依る生き物は魔力が害になるし、魔力に依る生き物は神力が害になる。まー、余程濃くない限りは摂取してもいきなり死んだりしないし、抵抗力付けて便利に使ってる部分もあるっちゃあるが……」


 あまり認めたくなさそうな口調だった。


「そういえば、わたしが作ってもらった服の原料って……」

「ああ、丁度そんな感じ。魔物はいるだけで周囲を魔力化するから、町とかには本っ当いてほしくねーんだけどな」

「国も神殿も推奨はしていないんですが。比較的楽に飼育できて有用な魔物は、禁止にはし難い部分があります」


 コーデリアに服を作ってくれた商人も、中級ぐらいの傭兵、冒険者にとって手頃だと言っていた。禁制品となれば困る者も少なくないのだろう。


「話が逸れたな。そーゆーわけで、女性でも超一流なら大丈夫だ。で、男だろうが女だろうがそういう人材じゃないとむしろ加えられないから問題なし。中途半端な奴を誘ったら、多分そいつが途中で死ぬ。止めとけ」

「やっぱり、そんなに過酷なのね」


 中途半端なままでは死ぬ――のは、コーデリアとて同じだろう。


「コーデリアは強くなるのが確定してるから、順番に鍛えてきゃいいさ。な?」


 表情を硬くしたコーデリアに、脅かしすぎたと思ったかロジュスは明るく笑って気楽な口調に戻す。

 そんな話をしながら、再び商業区へと戻ってきた。

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