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三十三話

「じゃ、ちゃっちゃと片付けようぜ。ラス、火を頼む。一緒に来てくれ。コーデリアは外の見張りな。何かあったら大きな音を立てろ」

「もしかしなくても、気を遣ってくれてる?」


 魔物とはいえ、幼体、抗う力もないだろう生き物を、おそらく大量に殺害することになる。

 成体になればどうなるかが分かっているので、見逃す選択肢はない。それでも思うところはある。


 まだ吹っ切れていないコーデリアのためらいを、きっとロジュスは見抜いているのだ。


「まー、一応。敵だっつっても、命を奪うのは楽しいことじゃないからさ」

「レフェルトカパス神の熱心な信徒で魔物撲滅派なのに、命には価値を置いているのね」


 いっそラースディアンや、何ならコーデリアの方が命の価値という点では軽視しているかもしれない。

 目の前の敵対種族としての認識が勝るコーデリアたちよりも、ロジュスの視点は高いのだろう。


「命は命だからな」

「ですが、敵です。妥協点などないほどに」


 事実、ホブゴブリンは人間を餌だと言い切った。


「ああ。だからもちろん容赦しない。でも迷う奴が間違っているわけじゃないし、わざわざやらせることはないだろう?」

「それは確かに」


 二人に気を遣われている事実に、コーデリアは申し訳なさを感じる。


「だ、大丈夫です。わたしもできるようになるために、やります」

「そうですね。いずれは必要になるかもしれません。ですが今は私とロジュスがいます。それに、ためらいを捨てる必要はありません。ロジュスの言う通り、貴女が今感じている想いは間違いではない」


 自身は一切の迷いを持っていないラースディアンだが、同じ精神性をコーデリアに求めはしなかった。


「己の心にある正義に、人は嘘をつくべきではないと思います」

「それでいいんでしょうか? だって戦って、勝たなくてはいけないのに。わたしの弱くて狡い部分が、嫌なことを二人に押し付けているのも変わりありません」

「命を奪うことをためらうのは、弱さとは言いません。優しさと呼ばれるべきものです」


 ラースディアンの言葉は間違ってはいないと、コーデリアの中の良心も同意する。


 だが全面的な肯定はできない。コーデリアがその優しさを発揮したあと、もしかしたら他の誰かが成長したゴブリンに殺されるのかもしれないのだから。


「ただ、狡さという点は否定しきれません。私は真実、一切躊躇いありませんしむしろ清々するのでいっそ積極的に役目を回していただけると嬉しいのですが」

「そ、そうなんですか」


 段々、ラースディアンが自分の物騒さを隠さなくなってきている気がする。

 打ち解けたと喜ぶべきかどうか、迷いどころだ。


「はい、ぜひ」

「……」


 答えようがなく沈黙するコーデリアの隣で、ロジュスも苦笑いをしていた。


「話がずれました。ともかく、そういうことなので私に対してはそのように気を病んでいただく必要はありません。しかしコーデリア殿と似た心性をお持ちの方であれば、苦を押し付けることになりかねないのは確かです」

「はい」


 そういう時が来るかもしれない。


(その瞬間が訪れたときの覚悟を、わたしはしておくべきではないかしら)


 嫌なことを人に押し付けて自分だけが楽をするのは、コーデリアの誇りが否を叫ぶ。

 苦も楽も、そして喜びも分かち合うものだ。そのために人は集団で暮らしているのではなかったか。


「ま、そーゆーのはゆっくりやってきゃいいさ。それにな、コーデリア」

「?」

「君は真面目だ。それは間違いなく美点さ。だけどもう一歩勇気を持つべきでもある」

「勇気……?」

「そう。最善を求める勇気だ」


 柔らかく微笑して言われたロジュスの言葉に、コーデリアははっとする。


「今叶わないなら、努力する」

「その通り」


 コーデリアが『必要』で望まない選択を採らなくてはならないと考えるのは、望んだ先の道にあるかもしれない悲劇の可能性を恐れているからだ。


 自分の力が及ばず、止められないことを想像している。

 ならば力があればどうか。


「そうよね。殺さなくてもいい力を付ければいい。いえ、望むのならつけるべきなのね。それこそ人が魔物よりも強くなれば、きっと」


 徹底して殺すのではなく、追い払えばよいぐらいの感覚になるかもしれない。

 さらなる理想は共存だが、魔物たちにどうもその気がなさそうなので難しいだろう。


「その間は騙し騙しやってきゃいいさ。な?」

「ええ。――では、コーデリア殿。表をよろしくお願いします」

「分かりました」


 中に入っていく二人を見送ったコーデリアは、しばし上空と地上の両方を警戒して身構えつつ立っていた。


 しかしすぐに疲れた上、どうも無意味に感じたので止める。近くに腰を降ろせそうな岩を見付けると、座って体を楽にさせることにした。


 ホブゴブリンとの戦いで疲れている体は正直だ。すぐにどっと疲労感が出て来た。

 とはいえ、警戒を解いたわけではない。周辺の気配は集中して探っている。


(命を持って動いているような魔力が近付いてきたら、きっと分かると思うのよね)


 そして同時に思う。こうして集中して精神研ぎ澄まし魔力を探るのも、良い鍛錬になる気がする。


 ともあれ心配は取り越し苦労で、ややあって二人が戻ってくるまで何も起こらなかった。

 他の場所での討伐も、本格的に進んでいるのかもしれない。


「よ、お待たせ。いい時間にもなったし、キャンプに戻ろうぜ」

「うん」


 表の死骸もラースディアンが焼いて処理をして、コーデリアたちは来た道を引き返していく。


(他のグループの成果はどうだったのかな)


 できれば人間側の犠牲なく、捗っていてくれるとよいのだが、と思う。

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