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二十五話

「残念ですが、それはできません」


 将軍が真実、事態を突き止めて解決しようとしているだけの可能性もまだ残っている。どちらであっても無視はできない。


「総務部でしたね。お手数ですが、ご案内をお願いします」

「……分かったよ」


 引き留めたそうに、しかし同時に諦めた雰囲気を漂わせて少年兵はうなずいた。


「一般人にウロウロされたら困るからな」

「助かります」

「ついでに聞くが、本を持ってきた連中はその後どうしてる」

「そんなことを聞くんだから、分かってるんだろう。砦の外には出てるよ。俺も見送った事がある。――でも、その先は知らない」


 そしてコーデリアたちは、町の人々から砦に行った者たちが戻ってこない、という話を聞いている。

 町に寄らずに、そのまま先へ進んだ者もいるかもしれない。しかし全員などということはやはりあり得ない。


「不気味な話ね」

「そうだろう? だから」

「戻らないけどね」


 少年兵が再度促そうとするのを遮って、コーデリアは明確な意思として表し、断った。


「……意思は変わらないのか。さあ、行くぞ」

「ええ、お願い」


 掲げられた篝火や松明の明かりが闇に浮かび上がる中を、コーデリアたちは進む。そしてほどなく一つの塔の中へと案内された。


「すみません、ちょっといいですか」

「おう、フレッドか。どうし――……あぁ……」


 顔見知りらしく親しげに少年兵の名前を呼んだもう一人の兵士は、後ろに続くコーデリアたちを見て顔をしかめた。


「また、例のやつか」

「はい」

「分かった、ここで引き受ける。戻っていいぞ」

「お願いします」


 フレッドは年長の兵士に一礼して、踵を返す。去り際、心配そうにもう一度だけコーデリアたちを振り返ったが、言葉にはしなかった。


「さて。それじゃあ本を預かろうか」


 そしてやり甲斐のない、その上面倒な雑用を片付けるやる気のなさを隠さずに、コーデリアたちに向き直った兵士は用件を促す。


「その前に、訊きたいことがあるわ」


 魔書の受取主など存在しない。届けられた魔書は将軍が預かって、届けに来た人々は行方不明。

 あとコーデリアが調べるべきは、どこまでの人間がかかわっているかだ。


「この件にかかわっているのは、将軍と、他には誰かいる?」

「……何を言っている」


 一応届けに来た人物の記録はしているようだ。机に名前がずらりと並んだリストを置き直していた兵士は、動きを止めて警戒したようにコーデリアを見る。


「訊きたいことは大体聞けたと思うの。だから後は砦を出て、行方不明の人を探してみるわ」


 その前に魔書を破壊したいと思っているが、そこは伏せておく。


「君たちは何者だ。本の納品者じゃないな」

「そうね。そっちとは敵対している状態だから」

「敵……」


 呟き、兵士は眉をしかめる。


 彼らにとってこの件とは、奇妙であり不気味ではあるが、実害が証明できずに手をこまねいている状況だ。


 まして長自らが調べていると言うのなら、余計に下の裁量で動くのは難しい。


「敵とは、何だ」

「魔物よ」


 迷いなく、コーデリアは言い切った。

 人同士も団結は出来ていない。禍招の徒も、盗賊も、他国からの不穏な干渉も見え隠れしている。


 だがコーデリアが相対するべきは、常に魔物だ。全てはその先である。


「貴方の敵は、何者になるの?」

「――私の敵は、国と民を脅かす者。全てだ」


 一拍、己の心の中にある答えを探し出す間を空けてから、きっぱりと答える。


「その点で言えば、こんな不審なばかりの依頼に対して、こちらが守秘を行う必要など国防に一切関係なかったか。そんな単純な事さえ忘れかけていたとは」


 組織が運用されるにあたっては、個人の考えを抑えて命令に従わねばならないこともある。


 だがそれは、組織のための命令に限定されねばならない。決して、権力を得た者が己に都合の良いように乱用するためにあるわけではない。


「持ち込まれた魔書は、全て将軍の執務室に運ばれる。私が知る限り、他にかかわっていると言えるほどの者はいない」

「こうなる前に変わったことはなかった?」

「一つだけあった」


 兵士の答えは早かった。おそらく、彼の中でも奇妙に感じてずっと引っかかっていたのだろう。


「ルーファス王子殿下から、贈答品があった。日々、国と民を護るために戦っている者を労うためだと。贈られたのは食料品だけだと言うし、我ら一兵まで相伴に預かった。だが、それ以外がなかったかは知らない」

「他国の兵士にですか」

「人として、ということだった。何とできた方だと、大きな声では言えんが隣国が羨ましく思ったものだ」


 建前としては問題ない。仕事だからといつの間にか当然にされている労働を、改めて褒められれば嬉しいものだ。


「我らの砦は殿下の母国ギステファとは隣接していない。懐柔するにも旨味は薄いはずだと、我らも少々首を傾げたものだが」


 結局、建前以上のことは起こらなかったのだという。

 信じ切ることはなくても、とりあえず建前通りに受け取った、というのが砦全体の雰囲気だ。


「普段起こらないことではある。しかしだからと言って、関係しているとは言えまい?」

「ええ、もちろん」

(だけど、ルーファス王子の行動は怪しい)


 王都の神殿で魔物が生み出されたときにその場にいた事。魔石の取引きを秘密裏に行っている事。

 そして今回も。かかわった後に事件が起こっている。


(ルーファス王子とフレイネルも繋がっている……のかしら)


 同じ事件にかかわっているのならば、無関係なわけがない。

 ギルドに依頼を大量に出す資金力も、王子であれば有りそうである。


「それを知って、君たちはどうする」

「そうね、とりあえず……。盗賊にでもなろうかしら」

「それはまた、堂々とした宣言だな」

「正面から行っても、探し物をさせてもらえるとは思えないもの」


 残念ながら、踏み込んで隅々までを探して回れるような権限がない。コーデリアたちだけではなく、この場の誰も。

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