禁止事項 out list ②
「え、赤色……」
セリカはゲートが赤く光っていることに驚きを隠せない。
どたどたと魔法警備員らしき人たちが朝加の周りを取り囲む。
「えー俺なんか悪いことしたかな」
誤魔化したとしても遅い。周りの目は完全に朝加を犯罪者として見ていた。
「君、名前は」
「朝加鍵人っす」
「入学者に君の名前は書いてないね。その制服はどこで手に入れたんだい?」
「普通に家に届いたんですが…」
「君には制服に纏っている加護がないんだ。模造品だね?」
「模造品なんですかこれ」
ゲートの奥にいるセリカが悲しい表情で朝加を見ていた。
「エンデュミオンや魔法都市に不法に滞在している者は、厳しい罰則を科せられるんだ。それをわかってて、やったのかい?」
「俺はただ入学案内がきたから、ここにいるだけで…」
「この期に及んで言い訳するのかい?」
手錠を取り出そうとした警備員を一人の女性が止めた。
「はーいストップストップ。その子は大丈夫。通してあげて。あーだる」
警備員は驚いた顔をして、女性を見た。
「これは明神さん。どうしてあなたがこんなところへ」
「あー、今年から新入生担当なったんでね。だるいけど。というか、そこの少年を解放してあげてくれないかなあ」
「いやでもこの子、ゲートが赤く光ったし、入学者一覧にも名前が……」
「あーだるいだるい。その子はあれだよ、あれ。禁止事項」
「禁則事項!? こ、これは失礼しました。それにしてもこの子が……」
警備員は朝加をまじまじと見て、周りの生徒も凝視していた。
それはセリカも例外ではなく……
「鍵人くんが禁止事項……? だから、変だったんだ」
明神は朝加の気だるそうにしながら、こっちに来いと促した。
「騒がれるとだるいから、来てもらってもいいかい?」
○
「だるいけど、君のことちゃんと説明しろと上から言われているからね」
「俺のことですか?」
「そう君はだるいかもしれないけど、禁止事項と呼ばれる存在なのさ」
「なんですかその、あうなんとかって」
面会室のようなところでお見合いするかのように向かい合って話す二人。
明神は水が満タンに入ったペットボトルを指差した。
「君はこれと一緒」
「全然意味がわからないんですが……」
「だるいと思うけど、開けてみて」
朝加はペットボトルを手に取ると、キャップを開けようとした。
しかし、どんなに力を入れてもキャップが開かない。
「もう手が痛ぇ!」
「そう。それが君の状態ってわけさ。だるいでしょ?」
「いやそれでも全然意味わかんないす」
「君の身体の中には、とてつもなく強大な魔力が眠ってるわけさ。だるいくらいにね」
「俺の中に!?」
まったく魔法が使えない朝加にとってはどうにも信じられない話だった。
明神はペットボトルを指差して告げた。
「その水は君の魔力。というかそれ以上にもうだるいくらいの、貯水槽みたいなもん。けど、封印が強すぎて放出しないようにしてるわけさ」
「でもそれ魔法が使えないってことですよね?」
「まぁね。魔法が使いたいんだとしたら、相当だるいことになるかも。けど、そうしてるってことは危険なわけだよ、君は。もうほんと、だるいわな」
「なんで俺にそんな魔力を封印とかそういう大層なもんが眠ってるわけすか」
「君が産まれるくらいに、魔法で世界を滅ぼそうとした魔王がいたんだよ。なぜか君に封印されちゃったってわけ。それで、君を管理下に置きたい上層部が禁止事項として入学を許可したわけさ」
「なんで俺にそんな恐ろしいやつを封印したんすか! というかそんなの人生で初めて聞いたし!」
「君を育ててくれた父と母も魔法都市上層部が用意した育ての親で、あー…だるい言い方すると仮の両親なわけだ」
「そんな……」
朝加の脳裏に両親の顔が浮かぶ。
あんなに愛情いっぱいに育ててくれた母や父が偽物だったんだなんて、信じられなかった。
ショックが隠しきれない。
「つまりだるいことに、禁止事項っていうのは君自身のことで、エンデュミオン入学から魔法都市から出してはいけない、禁止された存在ってことさ」
「俺ってもしかして疎まれた存在?」
「正確には君がなぜ禁止事項なのか知っている者は少ない。ただ、禁止事項という言葉が独り歩きしているのもあって噂は広がっているがな。だるい学園生活になると思うぞ」
「俺は魔法も使えないのに、魔法学園にきて、避けられる人生を送るってことですか……?」
朝加はもう今すぐこの場から抜け出したい気持ちに駆られていた。
やっぱ、自分の人生なんてくそくらえだ。明神の言葉を借りるならこんなだるい人生はない。
「ただ私たちもだるいほどに君について厄介なことは、君の膨大な魔力が邪魔をしてほとんどの魔法は打ち切られてしまうことなんだよ」
「それってどういうことですか?」
「君に基本的な魔法は通用しないってことだよ」
「魔法が通用しない?」
「説明だるいけど、魔法っていうのは基本的に魔力を使用するわけだ。その魔力は魔力で相殺される。魔王の魔力に匹敵する魔法じゃない限り、基本的に君に対してだるいほどに魔法は通用しない」
「あー、だから……」
朝加は幼い頃を思い出していた。
幼い頃から魔法の才能を発揮する子供もいる。朝加はまったく何もなかったが、小学生の頃も中学生の頃もいたずらで朝加に魔法をかけても、みんな失敗していた。
その時はまだ何か間違いがあったんだろう、と笑っていたが…今その理由がわかった。
「つまりどんな防御結界があっても俺がぶん殴ったら一発ってことすか」
「それしたらかなりだるいけど、概ね当たり」
「じゃあ俺の着ている制服が模造品って言われたのも」
「そう。神の加護が付いていても、だるいほどの魔力で相殺されて消えちゃったってわけさ」
「俺、この魔法世界に全然あってなくないすか」
「そうだな」
ますます朝加は帰りたくなった。
そもそも防御結界をぶん殴る機会なんて現れないし、魔法で作れた便利なものは絶対使えないわけだ。
だって空飛ぶ箒もただの掃除用具ってことになる。
魔法で使うキッチンも、何もかも…。
「もちろんだるいかもしれないが、手動で魔法を使わない代物だってある。数百年前の世界は魔法なんて認知されていなかったしな」
「俺、これからどうやって生きていくんすか」
「がんばれ」
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