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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その38 新型肺炎ウイルス事故物件

作者: 天城冴

ある事実を隠して賃貸物件を借りたゴウペイ。部屋に入居早々の夜、苦しみのあまり目が覚める。その苦しみは隠した事実に…

「く、苦しい、い、息が」

苦痛のあまりゴウペイは目が覚めた。救急車を呼ぶためにスマートフォンを探すが、暗くてよくみえない。朦朧とした意識で周囲を手でまさぐると、

ゴツン

と段ボールにあたった。

「引っ越し、した、まだ荷物が、確か充電器が」

布団の周囲に山積みにされた段ボールの間にスマートフォンを置いたはずだが、慣れない場所の上、暗がりでよくみえない。おまけに息苦しさと熱のせいでフラフラする。

「ようやく、部屋を見つけたのに、そんな…」

急とはいえ、引っ越し先の物件がなかなか見つからないとは想定外だった。一応それなりの貯金もあり、仕事もある、なのに

「なんで、アノ事を話すと断られるんだ…はあ、はあ。前の部屋も」

悪いことはしていないのに、アレに参加したということが分かったとたん、周囲がぎすぎすしたように感じた。職場ではすでに知られていたことだが、こんなにも露骨に避けられたのは初めてだ。

「頑張ったねとか応援してくれる人も…いるはずだ」

あの大会開催はやはり良かったという意見が6割はあってはずじゃないか、少なくとも直後は…、なのに。

「アパートの人も、不動産屋も、なんで」

特に不動産屋が酷い、なぜ大会参加者というだけで、貸したがらないのだ。

「貸さなかったことなんて、今は、それどころじゃ」

そうだ、スマートフォン、何とか手を動かした先に

「これは、違う…か」

大会の記念品だ、これのために頑張った。だが部屋を借りるため、最後の不動産屋で大会関係者であることをひた隠しにしたのだ。嫌でたまらなかったが仕方がない。ようやく引っ越して出すことができたが、

「それより、スマホ、きゅ、救急車を…」

今は何の役にもたたない、円形の平べったい金属片を放り投げ、スマホを探そうと手をのばした。

パチン

ふいに液晶画面が明るくなった。

「テ、テレビ?リモコンか?」

“やりました、、金銀にはとどかなかったが、ムラガミ、銅、三位です!”

“いやあ、ニホン中に勇気を与えましたねえ”

「なんで、こんな夜中に…、あの大会の放送が」

“新型肺炎ウイルスのせいで苦しむ国民を励ます、よい演技でしたね。これで勇気づけられる人々もたくさんいるでしょう”

明るい声で言うアナウンサーに向かって、ゴウペイは思わず毒づいた。

「ばか…いってんじゃない…。だからって病気が治るわけじゃ…」

“おや、貴方だって、そう思ってあの大会に参加したんでしょう?”

「え?」

気が付くとアナウンサーが画面越しにこちらをみている。

“ウイルスが蔓延する中、大会開催しないとアスリートの頑張りが無駄とか、選手がかわいそうとかいってませんでしたっけ?”

「そ、それは…」

こんなことになるとは思ってなかったんだ、まさかあの大会の関係者が多数の変異株を運んできて、まき散らしたも同然のことになるなんて。

“ラムダでしたっけ、シータでしたっけ、危険なウイルスの変異株をもってはいりこんできたんですよね。外国の選手さんたちは路上飲食に抜け出して観光。ああ交通事故もたくさんおこして医療崩壊をさらに進めましたねえ”

「そ、それは…、さ、参加者に関係ない…」

“そうでしょうかねえ。少なくとも、この部屋にいた方はそう思ってないようですよ”

「?」

ふいに冷たい手がゴウペイの肩にのった。

『救急車、救急車を呼んで…』

振り向くと、腐りかけた顔があった。腐臭が漂う皮膚から目玉がドロッと落ちた。

「ひいいいい」

ゴウペイは悲鳴とともに深い闇に堕ちていった。


「あー、やっぱり。亡くなってますよ、社長」

「やっぱりな。早くきて、よかったよ。この間みたいに腐って匂いが部屋中にして、目玉がゴロン、なんてことになったら、嫌だからな。掃除も大変だし」

「あのときは、ひどかったですよね。しかし、社長なんでわかったんですか、大会関係者だって」

「金があって職もあるのに、借りられなくて何軒も不動産屋まわったなんて、ちょっと変だからな。なんか隠してると思ったんで、調べてみたら、やっぱりそうだったからな」

「え、やっぱりあの大会の関係者だったんですか、それじゃ大手も貸さないわけだ、後が大変ですからね。しかし、社長よくわかりましたね。オレ、サッカーとかならわかりますけど、ほかは全然。実は有名な人なんですか?」

「まあ知ってる奴は知ってるみたいだが。マイナーっちゃマイナーな競技だ。俺だって、うろ覚えだったよ。しかし、こんなマイナー選手とかでも、やられちまうとなると、審査厳しくしなきゃなんないかな、大会のお偉いさんの付き人とかも被害が出たらしいし」

「テレビに映ったことが多かったの元大会スタッフとかもダメだったんだって、〇×不動産の専務さんが言ってましたね。例の新型肺炎ウイルスで自宅療養中での死亡者の部屋、だけですけど、もちろん」

「そういう部屋結構あるから困るよな。一人暮らしで自宅療養っていうか放っておかれて、いつの間にか死んでた事例。救急車を呼んでも間に合わないとか、満床とかで受け入れ先がなくて何時間後にようやく搬送直後に死亡とかさ。下手すると一家全員自宅療養で救急車でたらいまわしで大黒柱がなくなって、家を手放す羽目になりましたってケースもまれにあるからなあ」

「そういう物件を紹介するときは借りる人が、関係者じゃないってことをよーく確認しないとダメなんですか。なんか、面倒くさいですね。病死なら事故物件じゃないんでしょ、ホントは。なのに、新型肺炎ウイルス死亡者が出た部屋だけは、借りる人を選ばなきゃならないなんて」

「要は借りる奴がお役人とかあの大会関係者じゃなきゃいいんだよ、それなら何にも起こらないんだから。別の部屋は平気だったろ。あの部屋は正直、ここよりひどい有様だったんだぞ。なのに住んでる看護師さんは別になんともない、下手すると前の部屋より気分がいいかもって言ってたぞ」

「美人の看護師さんだと、部屋に憑いてる奴もいてくれたほうが嬉しいんじゃないですか」

「馬鹿、男性看護師だよ。最もあまり部屋にいないからかもな。やっぱりウイルスの患者は多くて、あまり部屋に帰れないからってぼやいてたよ。それじゃゴミ出しの時間が不定期でも注意できないからなあ、苦情を言ってきた人には、ゴミ置き場には網を厳重にして鍵をかけて対応ってことでなんとかしたよ。病院がそんなに忙しくても、あの大会の後の一番悲惨な時期よりはマシらしいが」

「ひどかったですからね、医療崩壊とかいうの。大会の2部中止になって、少しがっかりしたけど、それでよかったのかも。選手さんとか応援してた人には気の毒かなと思ったけど、後のこと考えればねえ。1部の参加者の人だってメダルとろうと、それがマイナスになっちまったわけでしょ」

「大会の超黒歴史ってやつだからな。それで、いろいろあって、コイツも引っ越すはめになったんだろ。しかもなかなか部屋がみつからないうえ、これじゃあなあ」

「隠して入居したのが悪いんですよ、でも、ホントにあの騒ぎで何もなかった部屋なかったんですかねえ。自宅療養中の死者が多いったって、空き部屋全部がそういう死人がでたところばっかりじゃあないでしょ」

「そういや、そうなんだが、なぜかはわからんが、あの関係者が探すときに限って、そういう物件が多くなるらしい。大手の、ほらタントウ建託の地区の担当者もぼやいてたからな。どうも全国どこでもあるらしい」

「うわ、どこいっても部屋借りられないんじゃ困りますねえ。もっとも買えばいいのか」

「それが…。もうよすか、とりあえず、この仏さんをどうにかしなくちゃ。とっとと警察に電話か」

「救急じゃないですね、もう死んでる」

「本人は呼びたかったんだろうが、スマホ握りしめたままだし」

「しゃ、社長、その手形が、へ、変なとこに」

「あ、ああ気にするな、この件じゃ、そういうことしょっちゅうだ」

「ひ、ひえええ」

「早いとこ警察を呼ぼう。…自宅療養した人、よっぽど苦しかったんだなあ。いったい、何人、いや、アレやった奴全員ってことになるのかねえ。いっそ部屋を貸さなきゃいいのかもしれんけど、それじゃこっちが、あの世行きなんだ、勘弁してくれないかねえ」

“まーだ、まだ”“足りない…”“苦しい…”

「しゃ、社長~」

「わかった、出てろ…。お祓い、は無駄だそうだし。さて、どうしたもんかねえ、ウイルスもその死者もどうすりゃ収まるんだかねえ」

従業員を外に出し、マスクを外した社長はため息をついた。

街中では今日も救急車の音がひっきりなしに響いていた。


どこぞの国では、まったく懲りずにまた同じ愚を繰り返そうとするらしいですが、悲惨な状況のなかどうするんでしょうかね。

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