夕刻に 〜桜井 春流〜
私は偶然佐伯君をホームで見かけて
一緒の車両に乗った
最初は普通に他愛のない話しをするつもりだった。そう、ほんと他愛のない話し。
私の想像ではその他愛のない話しをして
いつものように自分に言い訳して
帰るはずだった
けど、佐伯君を目の前にすると胸が嬉しさで満ち溢れた
これはもう抑えきれなくて
…言ってしまった
「しまった」って言葉はまるで私が悪い事をしてるみたい
私は悪い事はしてないし
気持ちに素直になってしまった…だけ
あぁ、また使ってしまった
明日、なんて顔で楓に会えばいいんだろう
とベットの掛け布団にくるまって考え込む
バイブレーションと共にスマホが光る
楓からの着信
「もしもし、夜にごめんね」
「大丈夫だよ。どうかした?
「明日、橋野さん達の事打ち合わせって言うと大袈裟だけどちょっと話し合ってた方がいいかなって思って」
「あ、うん、そうだね」
「元気ないけど、何かあった?」
「イヤ〜、明日ってなったら緊張しちゃって!」
反射的に取り繕う、こんな私なんて嫌だ。
「実は私もだけど、2人会ってもらったら一緒に遊園地まわって遊ぼうよ」
「うんっ、楽しみ!あっそうそう遊園地のジェットコースターむちゃくちゃヤバいらしいよ!楓って絶叫系苦手だったよね?」
ごめん楓
「そうなんだよね。だけど、春流とならまぁ、うん、乗れるかなぁ」
「怖がちゃって〜、可愛い〜」
「揶揄わないでよー、もうっ」
楓とは1時間程電話した
最初は打ち合わせするって話しだったけど直ぐに脱線して遊園地の話題に切り替わっていった
そう、こんな話しを佐伯君としたかったんだ。
お姉ちゃんに明日遊園地の入り口前10時に集合だよってメールした。
「ふぅ」
ダラんとした息が行き場もなく漂った
まだ、夜の9時だ
眠ってしまうには早過ぎる
リビングでテレビでも見て紛らわせよう
暖かい紅茶を入れて、定位置のソファに座り
スマホでSNSをチェックした
そうしていくうちに時間はあっという間に過ぎていき
もう、夜中12時に流石に眠らないとヤバい
リビングから部屋に戻った
けど、やっぱりスマホを弄ってしまい
余り寝付けなかったし
眠れる訳なかった。
翌日
寝起きは最悪で洗面所の鏡越しに自分の姿を見るとクマが酷い「最悪」と独り言を呟く
クマはメイクで隠した
こんな日に限って何をしてるのだろうか
お姉ちゃんが楽しみにしてる側で
こんな、私は、どうしたらいいのかな
玄関でスニーカーを履きながら思った
休日の遊園地は当たり前だけど人が多くて
私は人酔いしそうだった
お姉ちゃんはソワソワして髪型を気にしたり
手鏡でメイクの確実をしてる
「春流ちゃん、だ、大丈夫かなあ?変じゃない?」
「大丈夫だよ、可愛いよ」
「う、うん」
本当に綺麗だし可愛い
そうこうしてる内に橋野さんが向こうから楓とやってくる
「お姉ちゃん来たよっ」
「うん、緊張する」
「大丈夫だよ、ほら」
私はお姉ちゃんの背中を押した。
2人は出会い。頭を掻いて照れ臭そうにしてる橋野さんと俯いて顔を真っ赤にしてるお姉ちゃん
私と楓はそっとその場を後にした。
「あー、良かったよね2人共上手く行きそうだね」
楓が嬉しいそうにして言うと
「本当お似合いの2人」
って私は思ったし言った。
その後、ジェットコースターにお化け屋敷
私達はそれなりに遊園地を満喫した。
お化け屋敷から出てから楓がトイレに
私はトイレ前で楓を待った
やっぱりカップル多いなぁ
羨ましいとか
佐伯君と歩きたいなぁ
「風船ちょうだい!」
子供の声が聞こえる方に視線を向ける
パンダの着ぐるみが小学生と戯れている
風船を配って手を振って
そんな他愛の無い景色に私自身の気持ちを落とし込める事が出来ずにいた。
「春流お待たせ」
「うん」
「じゃあ、次どこ行こっか?」
楓は長い黒髪を耳にかけて園内の地図を広げている
私は佐伯君に告白した事を告げようと意を決して言い掛けた
「桜井さん、榎本さんおはようございます」
侑樹君の声が聞こえて
喉まで出掛かっていた言葉を
「侑樹君、おはよう〜。えっともしかして1人?な、訳ないかぁ」
無理矢理いつものテンションで
侑樹君に接する
そんな私に嫌気が差す。
「そうですね、流石に1人で遊園地は僕はキツイです。久留美と来てて…もう少しで戻るかなと思います」
侑樹君はそう言うとグッズ売り場の方に視線を向ける
くーちゃんが小走りでやって来た
「侑くんごめん待った?あ…桜井先輩」
持っていた淡いピンク色のトートバッグの持ち手をぎゅっと握る
くーちゃんは侑樹君の顔に目線を送る
そりゃねデートの邪魔しちゃ悪いし
それに私は佐伯君が侑樹君と重なってチラついて落ち着かないし
「楓〜、次はあれ乗ろうよ!それじゃね〜
デート楽しんで!」
「ちょ、春流?」
私は適当なアトラクションを指差して楓を少し強引に連れて行った
少し残念がった侑樹君
くーちゃんは楽しみを邪魔されたくない
一心だったんだと思う
逆の立場だったら私もそうだ
邪魔はされたくない。
「あー、もうこんな時間」
楓が腕時計を見て言う
もう、気付けば夕方になっていた
言えなかった佐伯君の事を意を決して言った
「だね。で、あのね」
「うん?何」
「その、告白した、佐伯君に」
少し、前を歩いていた楓が足を止めて
振り向く、心臓が飛び出そうなのと、足が動かなかった
「…そっかー」
「…うん、ごめん。けど、もうやめたから好きになるの」
「春流が好きなら応援するし、気持ちにウソ付かないで欲しい」
「ウソなんか」
「泣きながら言われたら誰でも思うし、ましてや親友だよね
私達当然分かるよ」
楓はそう言って前を向いて歩き出した
そう言ってくれても
お互い好き同士だと分かっているのに間に割って入った私はやっぱ、嫌いだ、嫌いだ。
お読み頂きありがとうございます♪
久しぶりに投稿出来ました( ´ ▽ ` )
また、投稿するのでお読み頂けたら幸いです!




