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第6話:誤解だよ

 この国この街では建物を建てるのに税金がかかる。

 建築にかかった費用の八分(はちぶ)(8%)を建築業者と依頼者で折半して支払う仕組みだ。

 建築にすら税金を取られるのだ。当然、土地を持つのにも金がかかる。

 家一軒分ぐらいならだいたい幾らだろうか。土地の広さによって割合は変わるが、少なくとも探索者協会の王都よりは広い土地を確保したい。

 なんてったって探索者に対抗する組織を作ろうとしているのだ。本部が支部にすら負けていたのではお話にならないだろう。

 先ずはこの探索者の聖地クレアドールを僕たちの縄張りにする。僕一人では不可能だろうが、今の僕には強い味方がいる。権力的な意味でも、戦力的な意味でも。

 戦ったら多分僕が勝つけど、それでも勇者テリオマの戦闘力は基本的には異常だ。ほぼ最強と言ってもいい。

 彼の勇気とやさしさと戦闘能力を鑑みれば、彼が勇者なことに文句を言う人間など誰一人として存在しないだろう。


「本当にお前は、いつもおかしなことをしているな」


 いい感じの土地を見繕いつつ大通りを歩いている俺の後ろからかかる声は、何を隠そう。先ほどまで僕が褒めそやしていたその人である。

 服も市販品で高いものでもないし、口調や態度や歩き方も、一般人が見れば友人に対するそれで間違いないだろう。

 戦いの達人が見ればその足遣いから姿勢まで、隙の欠片もない美しいものだと察せられるだろうが、彼の力を知る人間などそういない。

 一見すると彼は、ただ金髪碧眼のイケメンにしか見えないという事だ。

 普顔に派手な服装を着ている僕が霞むというか悪目立ちするからやめてほしいんだけどね。

 オフなのかはたまた世を忍ぶ意図があるのか、服装はいつもよりラフなもの。腰に付けた美しい剣は彼が勇者であるという事をありありと主張していた。

 勇者だとばれたら周りを囲まれて困ってしまうとこの前言っていたが、この剣は手放せば二度と勇者と認められなくなるから離せないらしい。

 全くもって嫌味なやつである。


 僕は若干不機嫌になりながらも、彼の独り言にあえて答えた。


「そう言いつつ何で来たの?テリオマ」

「友人が友人のことを手伝ったら不満か?」


 事も無げに言い放つテリオマ。

 こいつのこういうところは何時まで経っても好きになれそうにない。


 不機嫌が加速するも、態度に出したらまた余計な心配をかけるだろう。そうなると面倒くさいことになるだろう。僕は知ってるのだ、テリオマは探索者には珍しく、ただどこまでもお人好しなイケメン勇者であるという事を。

 それなら僕を追放なんてしないで欲しかったんだけど、彼にも譲れない一線というものがあったのだろう。


「不満じゃないさ、けど君は『お前にはついていけない』と、そう言ったろ?」


 僕が彼の方を振り返ると、彼は人の良い笑みを浮かべて返した。


「ああ言ったよ。お前のやってることは犯罪だし、いつか死人が出るかもしれない。いや、今まで出ていないのが奇跡みたいなものなんだ。だから俺はお前を追放したことを後悔していない。初めはピクトルに言われたことだが、選択は間違っちゃいないと今でも信じているよ」

「……」


 またピクトルだ。やはり彼が裏で糸を握っていたんだろう。

 僕の追放を誘導し、僕を貶め……いや、喧嘩を売るためなのか?彼の目的が分からない。


「だから、見張ることにしたんだ」

「それが君たちが僕のギルドに入った最大の理由?」

「そうだね、だれも反対しなかった」


 話半分に聞いておこうピクトルの意志や彼らの思惑が僕の予想から外れる可能性を考慮するためにも、無駄な思考の余地は残しておくべきだ。

 反省は活かす。それがステイラ流である。


「ピクトルが反対しなかったのは意外だな。てっきり僕を追い落とそうとしているかと」

「……なぜそう思うんだ?」

「いや、印象の話さ。気にしないでくれ」


 不思議そうに首を傾げるテリオマだが、僕はぼかすように口を濁す。

 嘘や隠し事をするのは気が引けるが、ピストルの事は彼らパーティの亀裂、果てには権威の失落につながりかねない。

 僕よギルドが大きくなるまでは控えるが吉だろう。


 秘密を知っているのはマルハだけで十分だ。


「さて、大方決まったし交渉と行こう」

「相変わらず仕事が早いな。ほとんど歩いていない上、決まったようには見えなかったが……」

「相変わらずだね」


 本当にこいつは鈍いな、予め決めていた場所の下見に来ただけだってのに。




 *



「いらっしゃいまー……テリオマ様!?」

「と、ステイラだよ」


 ガラガラな酒場の店内で店員は二人。年齢や顔だちを考えるに母と娘だろう。事前情報と一致する、第一段階は問題なしだな。

 と、店内を見て回っていると俺を見てあからさまに苦々しげな顔をする店員。いろんな噂を聞いているのだろうが、まったくもって不本意なことだ。

 僕が勇者パーティを追放されたことも面白おかしく脚色されて、今日の朝刊でボコボコに叩かれていた。


 ……よく見たらテリオマまでこっち睨んできてるじゃないか。

 この店をつぶすのかとでも言いたげだ。間違っちゃいないが、出て行けというつもりもないんだよ。


「おいステイラ。この店を潰すつもりなのか!?」

「そうじゃなきゃあの流れで入らないよ……」

「お前、それでも元勇者パーティの一員なのか!」

「そぐわないって言われて追放させられたんだろう?」


 胸ぐらをつかまれ、僕は無抵抗のまま宙に浮く。彼の方が身長が高いだけに、結構な高さになっている。

 くだらない言い合いだが、彼の声が大きいおかげで要件を伝える手間が省けた。

 そんな風に思っていると、ずんずんとこちらに来る店員の姿が目に入った。年上の方だな。

 叩かれるか、出禁にされるか。これから良い関係を築こうってのに最悪なスタートを切った可能性は高いが……どうだろう。


 僕が年上であろう彼女の顔を伺うと、彼女は怒りに打ち震えたような声で僕に言い放った。


「この店を明け渡す気はありません。この店は私の娘がやっとの思いで始めた店なんです」

「……でも、どっちにしろ赤字で潰れるんじゃありませんか?」

「……ッ!」

「ステイラ!!」


 娘の方が悲痛そうな表情を浮かべてこちらを見、テリオマと母の方が僕をキッと睨みつける。

 誤解を煽るような表現をしたのは認めるが、ここまで酷い仕打ちをされるいわれは無いぞ。


「まあいいですよ、座りません?浮いてるのも疲れたし、怒るのも疲れるでしょう」


 僕はそう言って奥のテーブル席を指さした。

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