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第5話:勧誘

「嘘。ステイラはすぐに嘘を吐く」

「僕も驚いたんだよ。流石に予想外だった」

「ピクトルに何の恨みがあるのか知らないけど、話がそれだけならもう帰る」


 取り付く島もなさそうな態度は流石にマルハと言った所だが、僕は一応彼らと数年を共にしている。

 真正面から否定して、聞きたくないアピールをしているだけだ。面倒くさがっているのか、信じたくないのか。おそらくその両方だろう。

 彼女はこういう時、引かれると弱い。


「そうか、そうだよね。どうせ信じてもらえないと思ってたよ。でもマルハなら万が一、と思ったんだ。でも君でも信じてくれないんだったら、僕は一体誰を頼ったら良いのかわからないんだ」

「あからさますぎる。その煽り癖、止めた方がいい」


 煽ってる訳では無いんだけど……すぐに見破られちゃったな。


「演技だけはどうしても苦手だよ」

「下らない話はいい。続きを話して」

「はいはい」


 僕は手を振って降参の意を示すと、彼女はフンと鼻を鳴らして左手で手招きをした。

 右手ではベッドの上を叩いている。座れと言うことだろう。

 僕は溜息を吐きつつ彼女の隣に腰掛けた。


「近い、もっと離れて」

「ああ、そう。僕は気にしないけど」

「私が気にする」


 僕はベッドの上で少しだけ彼女と距離を取る。


「さて、そろそろ話を聞いてくれる?」

「言っておくけど、私はステイラのことを信用していない。そのことを念頭に話すといい」

「気遣いありがとう。さて、今回のことに関して僕が何をしたか、何を見たかを粗方話そうと思う」

「ついでに何を知ってるかも全部吐いて」

「さあ?何も知らないよ」

「……」


 訝しげに僕を見る視線が痛い。

 彼女が善人なだけに更に悲しい。僕が何をしたと言うのか。


「まず、僕は部屋を整理した。君たちとこれ以上接触しても気まずくなるだけだしね。それで宿を出た後に噂を聞いたわけだ。この僕が、探索者協会の追放者リストに載っていたとね」

「その紙が公開された時には私たちはもう宿に戻ってた。また嘘」

「出た後って言ったでしょ?君たちが帰った後に僕は宿を探していたんだ」


 再び疑るような目だ。あまり気持ちの良いものじゃないし、無意味な嘘を吐きたくは無いんだけど……今役に立たない嘘も、最終的に役に立つ事が良くある。

 有意義でリスクが低く、失うものも少ない嘘は試してみるべきだ。軽い嘘の積み重ねは信頼を失わせるが、要は確証を与えないことが重要なのだ。より多くの情報がほしい現状では特に。

 この会話で分かったことが1つある。

 一つが、本来なら貼り出される瞬間まで分からない筈の除名者をチンピラの彼等が知っていたと言うこと。もう一つ考えられるのは既に噂になっていたパターンだな。

 誰かが手引きしたのか、ピクトルは利用されているだけなのか?はたまた彼主導なのか。少なくともこの街で、僕に気付かれずに暗躍ができたことを褒めるべきか。

 それとも心の中では納得していたパーティの追放で、僕が思った以上にショックを受けていて冷静な判断能力を失っていたと自省すべきか。おそらくその両方に当てはまる。

 僕が一瞬思考するうちに彼女の中でも納得がついたのだろう。


「まあいい、続けて」

「その後の行動はすぐだったよ。協会に駆け込んで受付に話を通し、却下されたから支部長室まで殴り込みに行った」

「随分と乱暴」

「誰だってそうするさ。不当解雇ってやつだよ」


 泣き寝入りする奴も少なくは無いだろうが、少なくとも僕は違う。ゴネ得とか言うつもりはないけれど、僕はこの特級の立場にふさわしい実力と態度と尊敬を勝ち取っている。

 そんな僕を勇者パーティから脱退したというそれだけの理由で辞めさせる?どうにかなっているに違いない。


「そして部屋に着くと支部長殿が仕事中。僕はそれを待った後に話をしたんだが、その話の流れでピクトルが出てきた。ピクトルは言わない約束だっただろうと支部長を攻め立て、事実を否定はしなかった」

「その話が本当なら、とんだ茶番。けどピクトルがそんな馬鹿なことに手を貸すとは思えない」


 そう、そうなのだ。

 確かに意外性は薄かった。マルハはこの性格上絶対に俺を除名させようなんて言わないだろうし、テリオマに関しては論外だ。ガルオスは特に何も言わなそうだが、ギルド立ち上げまで進めて除名嘆願って意味がわからない。

 ありえるとしたらピクトルだ。普段お喋りな彼はあの場で何も言わなかったし、ありえるとしたら彼が最も怪しいのだ。だから疑う余地もないと思った。

 が、彼はそんなに馬鹿じゃない。意味がないこと、金にならないことは嫌いだし、ハイリスクローリターンな今回の行動は明らかに彼の信念からずれている。

 黒幕の存在が疑われると、そう言うことだ。


「だから僕は、誰か裏側での関与を疑っているよ。誰かがピクトルを騙して利用したのか、はたまた自分の意思なのか。怒るにしても、真実を知らないきゃどうしようもない」

「珍しくまとも」

「珍しくとはひどい言い草だ」


 マルハは顎に手を当てて思案げな表情を浮かべている。信じられるか信じられないかで言ったら、信じられないだろう。

 仲間の一人が追放され、もう一人はその仲間の職を奪った。基本的には平和だったはずのパーティ秩序は崩壊し、ボロボロだ。

 かく言う僕も良い気味だなんて言える立場には既にない。

 僕が苛立っているのは簡単に利用されてしまったピクトルと探索者協会に対してだ。この王都に犯罪組織なんていくつも存在するし、その多くは僕に恨みを持っているだろう。

 この機会に全て掃討する?いや、非現実的だ。今回だって察知できなかった。彼等の総力は国家でさえ対応できないレベルだと、この現状が証明してる。


「さっさと本題を」

「ああ、そうだね。僕の考えを伝えよう。戻せとも、ピクトルを追放しろとも言わない。追放されたのは事実だし、その責任の一端が君たちにあるのは良く分かるだろ?」

「それは……。だけど」

「良いんだ。君たちにも色々あるだろうしね。()()()お願いだ」

「……聞く」


 僕は焦らすように水を飲み、ベッドから降りる。

 大袈裟に振り向き、彼女の方を見ると不安そうな表情をしているのが見てとれた。

 うん、悪くない。最初の仲間が勇者なら、彼女のパーティなら願ったり叶ったりだ。

 僕は一拍置くと、両手を大きく広げてマルハに言った。


「勇者パーティとして僕の作るギルドに入ってよ。探索者協会に対抗するギルドの最初のパーティとしてさ」


 いいね、やっぱり彼女は良い表情をする。

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