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第10話:激震

『ふ、面白い男だステイラ。いつか殺すのが楽しみだよ』

「冗談を言うな。今回の標的は奴ではない」

『分かっている、だから()()()だ。では通信を切るぞ』

「天使達に栄光あれ」

『天使達に栄光あれ』


 水晶から女性の声が聞こえなくなると同時に、青く輝いていた美しいそれは、濁って光を反射しない粗悪品のような見た目に変化した。

 それを見てふぅとため息をついた者が一人。


「……面白い、か。儂からすれば面白いことなど何もないのだがな」

「いいじゃありませんか、()()万王(ばんおう)』ステイラにその存在を気取られることなくここまで計画を進められた。もうバレる頃だろうが……もう問題ない。奴のこの街への執着は凄まじかったが手遅れだ」

「最初から奴を過大評価しすぎなのだ。自らを策士と勘違いした愚か者は、利用して殺すが吉よの、ヌハハ」


 薄気味悪い部屋に不気味に反射する笑い声が、異質な空間を更に異質たらしめて、何とも気色の悪い雰囲気を演出していた。

 しかしそれを指摘する者は誰も居ない。皆それに慣れ、それこそが正しい姿と知っているからだ。


 暗い部屋の中に2人の男が座っており、それぞれの後ろには性別も体系も不明瞭な黒装束の教徒達が佇んでいる。

 教徒達はゆらゆらと左右に揺れるのみで、無個性。その行動の一つ一つから何らかの感情を読み取ることは不可能だ。しかし時折腰から取り出した水のような液体を飲んでいるところを見ると、生きているという事だけは辛うじて分かるだろう。

 それに対して2人の男は個性豊かだ。赤い髪を短く切りそろえ、黒と銀の派手派手しい若者のような服を着た壮年の男。その格好に似合わず敬語を使い、仕草もどこか上品で貴族めいている。


 対する老人の格好は、毛がすべて白く生え変わり髭を蓄えた魔術師風であった。誰もが憧れる魔術師像のような恰好をしておいてその行動の一つ一つには乱雑さが見て取れる。

 用意された食事を丁寧に食器を使って食べる赤髪の男と、食器を使わずに手掴みで食べる老人。

 何もかもがあべこべな彼らだが、それに慣れているのかお互いのマナーに何かを言う事も無い。

 やはりそれは、それが正しいと考えているから。


 二人が食事を食べ終わると、教徒が彼らに火の付いた葉巻を渡した。

 これは彼らの儀式である。 

 葉巻を吸って食事の記憶を消し飛ばす。何から何まで禁術だが、ここにはそれを気にするような者は居ない。


 天使(モンド)教団。

 知らぬ者無き闇の組織にもかかわらず、その内情は一切不明の秘密結社である。

 彼らの起こす事件は何時でも大規模で、致命的だ。都市一つを壊滅させる爆弾を落としたり、違法都市を利用して疫病を蔓延させたり。人々は彼らを恐れ、しかし彼らがやったのだろうと思う事しかできない。

 秘匿性と規模は裏社会の中でも最大級であり、ここにいる貫録を持った二人の男もまた、失態を演じてしまえばより上位の者に首が飛ばされる立場にしかない。


 だからこそ、彼等の忠義心はまさしく磐石の上に成り立っているのだ。

 そんな状況であっても、忠義を捨てない迄の意思力は、到底得られるものでは無い。


 だから彼等は捨てたのだ。プライドや、信念や、果てには自我までもを捨て去ったのだ。

 元から無かったそれらに教団が入り込んだのかもしれない、力を得る為に敢えて捨てたのかもしれない、捨てるしか無かったのかも……。


 しかし彼等がそれを後悔することは決してない。

 何故か?世界の真実を知ったと、そう思っているからだ。

 人間は皆自分が特別な人間であるという証明を欲しがっている。恋人から愛されるように、友人に褒められるように、観衆に声援を送られるように。

 しかしどんなに頑張ってもそれらを得られない者も存在する。

 そして彼らの心の隙間に入り込むのが教団だ。

 世界の真実を教えるという名目で人々を誑かし、力を与えて利用する。

 然しそれを分かっていても尚、それを良しとしてしまうのも人間だ。


 公にされた真実に価値はない。何故ならそれは、人々の都合の良いように形を変え、意味を変え、やがてそれに触れたものすらも変えていく。

 しかし隠された真実は、限りなく真実に近いのだ。

 異常結構、むしろ歓迎。異常だと思われているという事は、自らの知る真実がまだ公に、『価値の無いもの』になっていないという何よりの証左だからだ。

 それが彼らの承認欲求。たったそれだけの事で、それ程の事である。


「ふん、仰々しい二つ名の割に随分と呆気のない奴じゃったのう。万王の二つ名は要するに器用貧乏って事じゃろうて」

「いえ、彼の監視の目を掻い潜るのは至難の業でしたよ。万王に喧嘩を売るなかれ。その忠言もある意味正しいのかも知れません」

「儂らにとって以外……じゃろう」


 老人は柔らかい笑みを湛える赤髪の男の態度が気に食わない、とでも言うように「ふんっ」と鼻を鳴らして返事とも言えない返事をした。


「万王ステイラ、平凡な生まれの天才児。彼を本気にさせた以上、我々も覚悟を決めなくてはならないのよ」


 薄暗い部屋によく響く、落ち着いた声が聞こえた。




 *



 その日探索者協会を含む王都に激震が走った。

 王都トップの探索者達が、(こぞ)ってステイラのギルド、名を『迷宮狩協会(ハンターギルド)』に加入することを表明したからである。


 失墜した探索者協会と王都の裏を巻き込んで、事態は更に重大な方向へと加速して行く。

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