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prologue:そして天災が野に放たれる

 新作を書き始めました、今はやりの追放ものです(遅い)。

 こいつの構想を練ってたら「回生の侵略者」の方が全然更新できないと言う。


 しばらく(一か月くらい?)はこいつの投稿にかかりっきりで、回生は後回しになりそうですが、落ち着いたら回生ガチるんで期待して待っててください!

 新規の人は見に行って!「回生の侵略者」で検索したら出てくるから見に行って!!

 英雄譚、冒険譚、その他多くの小説を見て少年が思ったのは、ただ「()()()()()」とそれだけだった。


 少年は7歳にして物語の中の勇者や賢者よりも強い魔法を使えたし、強い力を持っていたし、推理小説の答えを探偵よりも早く解いた。

 だからだろうか、少年は勇者にあこがれるという事をしなかった。憧れという感情を抱くことはなかった。


 やがて少年は探索者となった。少年は、魔法使いとなった。

 しかし魔法使いという職業に執着していたわけでも、こだわっていたわけでもない。ただ、何となくそうなっただけだ。

 やがて少年が青年になった頃。彼は勇者パーティに参入することになる。最強の魔術師として知れ渡った彼の実力を求めて、勧誘に来たのだ。


 その勧誘を快く受け入れた青年。そして彼が勇者パーティ最後の加入メンバーにして、最初の離脱メンバーになる。

 そのことを予想できたのは唯一、青年だけだった。これは、もう何年前の話になるだろうか。



 *


「お前にはもう、ついていけない。このパーティから抜けてほしい」


 勇者の称号を与えられた探索者の男は、男性にしては少し高い声で、しかし重々しくステイラに告げた。

 誰も否定しないその言葉はしかし、テーブルに座る人間の、一人を除いた総意でもあった。 


 探索者という職業は古くから存在する。魔力の変質によって生れると言われるダンジョンを攻略し、遺物を手に入れ、またダンジョンへと潜って行く。

 そんな気狂いの集まりが、探索者だ。遺物を売った金で酒を貪り、魔獣を殺して得た金でまた酒を貪る。

 粗暴、強力、それ故に羨望される職業だ。


 そんな探索者の集うこの酒場において、新しいパーティの結成は日常茶飯事である。解散、離脱も非常に多い。

 酒の席での喧嘩を本気にして離脱する者。埋め合わせを狙って上位パーティに紛れ込む者。勧誘、追放、除名。

 死と隣り合わせの彼らの職業は、彼らの本質を粗暴に変質させ、人間離れした彼等の力は、本能をより活性化させる。


 そんな異質な集団の中でもしかし、更に異質な存在があった。

 勇者パーティ。一国に一人のみ認めらる特別な一人と、そのパーティ。知力、礼儀、仲間、そして何より力が重視されるその称号を与えられた特別な存在、それが勇者だ。


 そのパーティから一人、離脱者。否、追放者が出ると言う重大な事件がこの酒場の一角で起こっている事だった。


「一応……理由を聞きたいな。僕はこのパーティに、結構貢献してきた方だと思うんだけど」


 困ったようなステイラの質問に、皆が一様に口を噤む。その様子を見て勇者は、仕方なくといった様子で、答えた。


「間違いない。お前はこのパーティの要だった。魔法の技術は今まで見た誰よりも卓越してるし、魔力量も圧倒的だ。俺は今まで、お前以上の魔法使いを、物語の中だとしても見たことがない」

「だったらやっぱり、なんで?」

「それは……」


 当然の疑問だった。

 誰が見ても、ステイラをパーティから離脱させる意味などない。


 勇者パーティは5人によって構成されている。

 勇者(ブレイバー)テリオマ、聖者(シュリィ)マルハ、戦士(ウォリアー)ガルオス、 盗賊(シーフ)ピクトル、そして導士(ウィザード)ステイラ。

 恵まれたメンバー、バランスのいい構成、高いレベルで維持されている全員の強さ。

 これらが揃って始めて勇者パーティだったにも拘らず、持ち上がったステイラの実質的な()()にパーティメンバーは迷ったが、しかし何も言う事は無かった。

 まるで()()()()()()()()()()()大人しさ。それはステイラが状況を察するに足りる材料だった。


「お前が、あまりにも勇者パーティに相応しくないからだ」

「相応しさ、か。確かに僕は君達とは違う。君達は揃いも揃って優しいし、強い。そして何より勇敢だ。でも、僕は君たちにそれを上回る実力と、戦略をもって君たちに貢献してきた。違う?」

「その通りだ。だが、お前は享楽主義が過ぎるんだよ」


 享楽主義。快楽を追い求めて生きる生き方。

 そう断定されたステイラは、何も意外じゃなさそうに言った。


「不本意だな。一体僕の何処を見て、そんな事を(のたま)うんだ」

「情報を出し惜しみして窮地を演出したり、そのせいで市民に被害が出かけたり、魔獣の多いところに誘導して死ぬような思いをさせたり」

「何か証拠があるなら出してみなよ」

「証拠はない。が、あまりにも不自然すぎる!お前についていったらいつか死者が出る。冗談じゃ済まなくなるんだぞ!」

「知ってるさ。だけどその偶然の積み重ねが君たちを強くしたんだろ?」


 あくまでも認めず、しかしステイラは不満そうに口を尖らせ、しかし笑ったままの目でテーブルの上の肉を一つ、口の中へと放り込んだ。

 誰も望まない陰気な沈黙が舞い降りる。

 その空気に耐えられなくなったマルハがジョッキを持ち上げ、大口を開けて酒を喉奥に流し込んだ。

 一般人なら気絶してしまうような高純度のアルコールが、マルハの喉を通り抜ける。しかし彼女は酔っぱらう気配すら無く、そのままジョッキを空にして、机へと戻した。

 一触即発、いつもは静かな時の方が少ない酒場にも拘らず、いつの間にやら全員がギャラリーになり、この言い合いの結果を見届けようとしていた。


 納得していないであろうステイラの態度に、ガルオスがその重い口を開いた。


「……何もお前が弱いって言ってる訳じゃない。お前の腕ならソロでも十分活躍できるだろう?なら、いっそのことクランでも立ち上げたらどうだ。お前の事だ、仲間はすぐに集まる」

「集まらないよ。僕は君達の勧誘を受けるために、僕に来た大量の勧誘を全部蹴ったんだ。探索者はメンツの職業。追放された僕を見て、指さして笑うだけさ。ギルドのメンバーなんてそれこそ集まらない」

「それは……」


 テリオマが言い淀んだのを見て、ステイラは溜息を吐いた。


「まぁどうせここで何言ったって、除名は既定路線なんだろ?」

「……ッ!すまない」

「方針の違いだよね、分かる分かる」


 軽くそう言って手を差し出すステイラ。


「結構長い間ありがとね。明日には荷物纏めて宿も出てくから」

「パーティの貯金の5分の1はお前のものだ。後で書類を作ろう」

「いいよいいよ、居させてもらっただけ有難いってもんだ。じゃ、僕は先に帰るね」

「あぁ……」


 縋るように、拒絶するように()()の口から出たそれを、ステイラは受け流す。


「さあて、これからどうしよっかな……」


 酒場から一歩踏み出した時、ふとステイラの口から出たひと言。

 しかしそれは、未来を悲観する類のものではないと。そこにいた誰もに分かった。

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