8話:看板を作ろう
窓から差すぽかぽか陽気に当たり、アレクは眠くなるのを堪えながら、帳簿を付けていく。
セレスにマテリアを買ってもらったおかげで、当分は生活に困らないほどの資金はある。ただ、あれから来客はなく、1度だけ冷やかしで男女2人組が店内を覗いたぐらいだ。
場所が場所だけに仕方ないのだろう。
「セレスさんは知り合いを紹介してくれると言ってくれてたけど……うーん、流石にこう毎日閑古鳥が鳴いているとなあ」
アレクの独り言に、丸まって昼寝していたサンドラが片目を開けて、眠そうな声で答えた。
「ふあ……だってまだ看板もないし……店名も決まってないし……」
「確かに」
そんな初歩的なことにようやく気付いたアレクだった。
「看板ってどこで作るんだろ……」
「鉄製の物なら鍛冶屋か金物屋なんじゃない? 村に居た時はよくあの金物屋のおっさんが作ってたでしょ」
「あー。そういえばそうだったね。あ、この路地に小さな金物屋があったよね」
「……なんか寂れている店でしょ」
「とりあえず行って話を聞いてみよう」
アレクは支度をすると、サンドラを肩に乗せて、店の扉に鍵を掛けた。一応、マテリアも数種類持っていくことにする。
改めて自分の店を見ると、ショーウィンドウに宝石は飾ってあるものの、値札も付いていないし一見すると商品には見えない。そもそも店がオープンしているのか、していないのかも分からない。
「んー。確かにこれじゃダメだね」
「でしょ? さ、まずは看板を作りましょ!」
☆☆☆
路地の先にあったその金物屋には、太陽とハンマーの紋章と【ルベウス金物店】と書かれた看板が置いてあった。
アレクが中に入ると、金物屋独特の金属の匂いが漂っている。アレクはその匂いが決して嫌いでなかった。
店内には日用品であるハサミやザル、包丁といった物が置かれてあり、付いている値札は日焼けして、文字が掠れている。
「――冷やかしなら帰れよ小僧」
包丁を熱心に見つめていたアレクの背中に、やる気のない声が掛かった。
アレクが振り向くと、店の奥にあるカウンターに足を乗せて座っている男性が、眠そうな目でこちらを睨んでいる。30代ぐらいの無精髭の生えた赤髪の男で、アレクは素直に格好いい人だなあと思ったが、にしても接客する態度ではない、と厳しい評価を下していた。
「こちらの店主ですか? 僕はアレクです。この路地の先で加工魔石屋をやってます」
「俺がルベウスだよ……あん? この路地の先といやあ……レガードの爺さんの店か?」
赤髪の男――ルベウスがカウンターから足を下ろすと、アレクの全身を見つめた。サンドラが睨んでいるが、彼は気にしない。
「はい。店を譲渡していただきました」
「あのジジイ、ついにくたばったか」
「旅に出ただけですよ。それで、実はお店の看板を作ってもらいたいのですが」
「……うちじゃ無理だ。よそにいきな」
もう話は終いとばかりにルベウスは手を払って、再びカウンターの上に足を乗せ、目を閉じた。
だがアレクは目敏く、そのカウンターの奥に続く通路の先に、作業場と火炉があるのを見付けた。間違いない。この人はただ金物を売っているだけじゃない。ちゃんと……自分で打っている人だ。
なのに、ここに置いてある金物は包丁を除き、全て他所で作られた量産品ばかりだ。アレクは、勇者パーティにいた時に雑用として勇者達の武器のメンテナンスや研ぎ依頼などを全てやっていた。なので自然と鍛冶職人達とは仲良くなり、色んな話を聞いていたのだ。
曰く、鍛冶職人は必ず自分の作品には刻印を入れるという。そしてこの店の中で唯一、包丁だけがこのお店の看板にあった物と同じ紋章が刻印されていた。
だからこそアレクは確信を持って、口を開く
「ルベウスさん、貴方本当は――鍛冶職人なんですよね?」
アレク君は、なろう小説あるあるな、雑用を一手に引き受けてやっていたタイプです。なので年のわりに、観察眼や交渉力がありますね。商人には向いているタイプです。
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