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79話:造船所にて


 王都――〝職人街〟


 そこは王都の南西部の区画であり、名前の通り、様々な職人や商家が集まって出来た街だ。職人達の工房や鍛冶場、倉庫や職人向けの商店などが節操なく並んでいる。


 更にそこはこの大陸を横断する大河、ストル川に沿った土地なので、船関係や貿易関係の者達も事務所や倉庫を構えており、その裏には造船所が建ち並んでいる。


 一般市民にはあまり馴染みのない場所ではあるが、そこはまさに王都の心臓部と言っても過言ではないほどの重要地区なのだ。


「ふあー。凄い活気」


 サンドラの感想にアレクが無言で頷いた。それに対し、二人の先を歩くバガンティ商会のニールが答える。


「素晴らしいだろ? 今この国はとても景気が良いからね。このベリル国の特産品は需要があるから、生産が追い付かないぐらいだ」

「輸出が好調ということですね」

「その通り! 諸外国が関税を引き上げする前にバシバシ売らないと」

「なるほど」

「さあ、こっちだ」


 ニールに案内されて、アレク達がストル川沿いにある巨大な倉庫の中へと入った。


「おお!」

「立派!」


 そこには、今まさに建造されている途中の巨大な帆船があった。


「セントナイト号だ! 素晴らしいだろ? 最新の魔蒸原動機も搭載予定で、風がなくても動く最新鋭の船さ! うちはこれで本格的に貿易業に乗り出すつもりだよ」

「こんな大きな船をバガンティ商会で作っているのですか!?」


 驚きのあまりにアレクが声を少し大きくしてしまう。


「うちだけじゃ、とても無理だからね。王家の援助もある」

「アゲート王家の?」

「セラフィ王女だよ。あの方は若いが、先見の明がある。これまでアルマンディ商会がサボっていた貿易業……特に輸出に関しては今後力を入れていきたいと仰ってくれてね。彼女がパトロン筆頭になってくれたおかげで、色んな資産家や貴族が名乗り出てくれて、ようやくここまでこぎ着けたのさ」

「セラフィは流石だね~」


 サンドラが感心したように頷いているが、アレクは既に少しだけ警戒心を抱いていた。


 船の建造、他国との貿易。それらは大商会の領分であって、決して自分のような宝石師、しかも魔石という特殊な物を扱っている商人に縁のある話ではない。


 しかもそこにセラフィ王女が関わっているとなると、なおさらである。


 この話が、ニールがただ自分の船を自慢したいだけなら良いが、彼の性格からしてそんな無駄をするとは思えなかった。


「それで商売の話というのは、この船に関係が?」

「その通り! まあ詳しくは事務所で」


 そうして造船所の事務所へと案内されたアレクに、ニールが資料を踏まえつつ説明していく。


「とまあこんな感じに、この国の特産品……特に酒類と鉱石・宝石を中心に輸出することになる。他にも工芸品や絹製品もあるが、これは前者二つに比べれば微々たるものだ。これまでは酒類と特に鉱石・宝石類はアルマンディ商会が市場を独占していたが、それが開放されたおかげでこうして貿易が可能になったんだ。このセントナイト号による貿易は必ずこの国に利をもたらすはずだ」


 ニールが嬉しそうにそう言って、資料を次々とアレクの前へと出していく。


「うーん、アルマンディ商会が弱小化したのは私達が原因だと思うけど、それから船を造ったにしては、完成が早すぎる気がするけど」


 サンドラが器用に前足で資料を持って読みながら首を傾げた。


「そりゃあこの計画も船の建造も三年前から始めているからね。商機になってから準備するようじゃ、三流さ」

「なるほど……でも、もしアルマンディ商会が弱体化しなかった場合はどうするつもりだったんですか?」

「んー? うーん、そりゃあまあ……あの手この手を使うしかないよねえ」


 そう静かに口にしたニールは笑みを浮かべているが、その目は笑っていないことにアレクは気付いていた。


「ふふふ……アルマンディ商会を良く思わない連中は君以外にも沢山いるし、アルマンは色々と黒い噂が絶えないからね。うっかり裏社会の連中の機嫌を損ねた結果、ストル川に浮かんでいた……なんてことがあっても不思議ではない。だからそういう意味では、君は彼の命を救ったことになる。騎士団の庇護下にいる限りは安全だろうさ」

「それはそれで複雑ね……」

「自業自得と言えばそれまででしょうが、罰はもう十分受けているでしょう」


 アレクはそう静かに言った。


「アレクさんは優しいねえ。でも僕もその意見には賛成さ。最も平和的に事が運んだのも君のおかげだ。だからこうして、この計画に誘っている」

「ですが出資と言っても僕の店は小さいですし、そんな大金は用意できません」


 アレクが片隅にあった出資者用の資料を見て、小さく首を横に振った。

 書かれている金額は目が飛びでるような金額であり、そんなものはどう足掻いても出て来ない。


「あはは! それは金を持ってる奴用に作った資料だからね。これからもっと小口の出資者を募る予定だ。アレクさん、船を造る、そしてそれで海や大河を渡り、貿易を行う事がいかに商人にとってハイリスクかは分かるよね?」

「はい。海上は様々な危険があります。嵐、海の魔物、エーテル乱気流、様々な要因で船は沈みます。そして沈めば、船、船員、そして積荷も全て無くなります」


 アレクは勇者との短い旅で、一度だけ船による旅を経験した。そしてそれは決して楽なものではなかった。


「船が沈めば、商売も沈む。だから、これまではよほどの資産家か王侯貴族がバックにいないとできなかったことだ。だけども、我が社が提唱するこのやり方であれば、リスクを分散できる。出資した額に応じて、貿易で得た利益が分配される仕組みで、当然高額出資者の方が得る利益は大きい」

「おお……確かにそれであればリスクは分散できますね。面白い仕組みです」


 アレクは頭の中で何度か考えてみるも、やはりとても上手いやり方だと感心してしまう。


「とりあえずセラフィ王女のおかげで、最低限の商売は出来る資金は集まった。ここからは小口を集めるのは、まあ宣伝も兼ねてってところだね」


 小口出資の資料を見れば、それはアレクでも無理をすれば手を出せる金額だった。


「だけどね、こんなもんはどうでもいいんだよ」

「へ?」

「こんなつまらないことの為にアレクさんに声を掛けたわけじゃないのさ。あ、もちろん小口の出資をしてくれるなら大歓迎だがね」

「では、儲け話というのは?」

「ふふふ、実はね、この船で運ぼうとしている物は色々あるが……その中でも鉱石・宝石類についてはかなり力を入れていてね」


 そう言って、ニールが箱を取り出した。そこには貿易品となる様々鉱石の原石や宝石が入っている。


「どれも良質ですね。僕の目から見ても、間違いなく高額で売れる物かと。でもそれが?」

「本当はさ、ここにね、君の魔石を入れたいのさ」

「魔石を!?」


 サンドラが思わず声を上げてしまう。


「その通り。魔石は素晴らしい。僕も現物を見たことがあるが、感心したよ。魔石には無限の可能性が詰まっていると思っている。商材としては完璧だしね。だけども――それは無理だ」

「えー、なんでー?」


 アレクは答えを何となく察していたが、あえて沈黙のまま、ニールの答えを待った。


「それはね……魔石は国外との取引が――()()()()()()()()()()()()()

 

貿易および株式のあれこれは、あくまでフィクション世界のものなので、経済警察の方はお引き取りくださいね!!!


そして魔石の輸出はできませぬ……

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[一言] この世界では、これでいいんです。 余計なツッコミいらないから。
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