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77話:ベルヌーイ


「じゃあアレクの旦那……任せましたぜ!」

「うん!」

「あたしも手伝うからね!」


 トリフェンがベルへと向かっていき、サンドラがアレクの肩から離れて、地面に立った。


 アレクが短剣を構えて、トリフェンのあとを追う。


「……さっきの感じだと――ここか!」


 トリフェンが気配を感じて再度ステップをした瞬間、元いた位置に魔弾が飛んでくる。


「分かってりゃ当たらないぜ姐さん!」


 更にトリフェンが接近。ベルが魔弾を撃つも、マテリアで強化されたトリフェンはそれすらも避けた。


「――迎撃モード」


 ベルの無機質な、何の感情もこもっていない声が響く。アレクは流れ弾に当たらないように慎重に、しかし着実にベルへと遠回りに近付いていく。


 その間に、ベルの右手から放たれた炎剣を、トリフェンが山刀で受けた。


「ち、やっぱり斬撃が重く速えな! 長くは保たないぞ!」

「分かってる!」


 ベルとトリフェンが斬り合う中、彼女の背後からアレクが一気に距離を詰めた。その横をサンドラも走っている。


「サンドラ、頼んだよ!」

「任せなさい! ベルは妹みたいなもんなんだからあたしが助けてあげないと!」


 アレクに気付いたベルが、これまでに見たことのないほどの速度で蹴りをトリフェンへと放つ。


「ぐえっ」


 トリフェンの身体があっけなく吹き飛ぶ。同時にくるりと回ったベルが魔弾をサンドラへ、炎剣をアレクへと放つ。


 いずれも手加減無しの一撃だが――


「いつもの君なら……こんな単純な罠には引っかからないよ、ベル」


 確かに当たったはずの魔弾と炎剣はしかし、小さな宝石を二つ、砕いたのみだ。


 それは【幻影】と呼ばれるマテリアだった。使用者の幻影を放つマテリアであり、ベルが見たのはそれによって出来た幻に過ぎない。


 その隙に、アレクがベルへと接近する。その手を彼女の額へと翳した。いつもの要領でマテリアを浮かび上がらせようとするも、上手くいかない。


 しかし少しだけ浮いたところで、ベルがアレクの腕を掴んで投げ飛ばした。


「……任せたよサンドラ」


 足下にいたサンドラがベルの身体を駆け上がっていく。


「目を……覚ましなさいベル!」


 サンドラがベルの額の浮きかけの黒いマテリアへと爪を掛けて、渾身の力でそれを剥がした。


 その瞬間――ベルがまるで気絶したかのように倒れた。


「おっと、危ない」


 すかさず飛び込んできたトリフェンが、ベルの身体を抱き抱えた。


「アレクの旦那! 大丈夫か!?」

「いてて……何とかね……」


 起きあがったアレクはいたるところを擦りむいていたが、骨には異常はなさそうだった。


 ベルは、まるで眠っているかのように目を閉じていた。


 なんとなくだが、その顔は安らかにアレクには見えた。


「多分……もう大丈夫だよ」

「……アレク、あれ」


 サンドラが地面に置いている黒いマテリアへと視線を向けた。


「……砕きたいところだけど……持って帰ろう」


 アレクはそれを手袋を嵌めて拾うと、ポーチへと大事に仕舞った。


「はあ……とにかく、一件落着か?」

「……いや。問題は残っているよ」

「誰が、こんなことをやった、ってとこか」

「うん。そして、考える時間も……ないみたいだよ」


 アレクが短剣を再び構えた。


 嫌なマナの流れを感じるからだ。


「アレク……来るよ」

「ちっ……黒幕のお出ましか!」


 広場の中心に、風が渦巻く。


「トリフェンはベルを守って」

「ああ、だがアレクの旦那は?」

「……いざとなったら逃げる」

「了解だ」


 そんな会話をまるで嘲笑うかのように、広場に笑い声が響く。


「ヒヒヒヒヒヒヒ! この時代にまだ魔珠をまともに使える奴が残っていたとはね! 驚きだよ!」


 そこにいたのは、ボロボロのローブを纏った背の高い妙齢の女性だった。長く黒い前髪の間から、爛々と輝く赤い瞳が不気味だった。


「貴方は……何者ですか」

「あたしかい……あたしはベルヌーイ。人の形を弄ぶのが趣味な、ただの魔女だよ」

「ベルヌーイ……まさか」


 アレクは、ベルの背中に刻まれていた言葉、【アリス式魔導自律人形()()()()()7656τ型】を思い出した。


 そうか……つまり……。


「貴方が……ベルを造ったんですね」

「いやでもアレクの旦那……姐さんは何百年も昔に造られたって話じゃなかったか!? だとしたら……あいつは……一体何年生きている」

「だとしたら……彼女もまた……人形なんだろうね」


 アレクがそう言うと、魔女――ベルヌーイが愉快そうに声を上げた。


「ヒヒヒヒヒヒヒ!! 流石は現代の魔珠使い! 正解だよ!」


 そう言ってベルヌーイが自分の右手を外して見せた。球状の関節を見る限り……ベルより古いタイプだろうとアレクは推測する。


「一体……なぜベルにあんなものを」

「ヒヒヒ……人形王の復活の前座には丁度良いだろう? ヒヒヒ……せいぜい……足掻くと良い、現代の魔珠使いよ」


 そう言い残すと――ベルヌーイが忽然と姿を消した。


「……なんだよあいつ……あれは俺でも分かる。絶対にヤバい奴だ」

「うん。それになんだろう……人形王の復活って」

「……ねえ。もう帰りましょう。ここ、気味が悪いわ」


 サンドラが怯えたような声を出した。確かにさっきから……くすくすと笑う、小さな囁きがどこからともなく聞こえてきているような気がした。


「……帰ろう、店へ」

「うん」


 こうしてアレクは無事、ベルを取り戻すことが出来た。


 しかし、ベルヌーイの存在は――当分の間、アレクを悩ませることになる。


ベルおかえり! 何だか不穏な感じになってきましたね……


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても楽しく読める素敵な物語でとても読みやすくてとてもいいと思います。 [気になる点] 冒頭のお知らせと本編が分けられて無かったのが、少しわかりづらかったです。 [一言] これは携帯版だけ…
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