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75話:アレクは心配する


 魔石屋アレキサンドライト、店内。


「……やっぱり遅い」


 いつまで経っても帰ってこないベルを心配するあまりに、アレクは無駄に店内をうろうろしていた。


 既に外は暗くなっており、アレクも店は閉めているのだが、ベルが帰ってくる様子はない。


「ベルに何かあったんじゃ……」

「……そんなに心配なら探しにいけば? ベルにどうこうできる人がこの街にいるとは思えないけど。ディアナぐらいじゃないの?」


 サンドラが眠そうな声でそう言って、ぺたりとカウンターの上に伏せた。


「にしてもお腹すいた……ベルまだかしら」

「うーん。何か問題でも発生したのかな? でも最近は特に動きはないって言ってたし」

「そうねえ……もう考えるのもめんどくさい……」

「はは、先にサンドラのご飯だけ作ろうか」

「やった!」


 アレクはカウンター内に入ると、裏にあるキッチンで簡単な料理を作りはじめた。新鮮な材料は揃っているし、いくつかすぐに食べられるようにと作り置きもあった。全部ベルが用意してくれたものだ。


「ベルが来るまでは、晩ご飯なんてパンとミルクだけだったのに……なんだか随分と贅沢をしていた気がするよ」

「感謝しないとね……ま、あたしはパンとミルクだけでも良いけど」


 そう言いながらも用意した食事を嬉しそうに頬張るサンドラを見て、アレクは少しだけ気持ちが落ち着いた。


「アレクは食べないの?」

「うん。ベルが帰ってきてからにしようと思ってね」

「そうね。あたしも少し残しておくわ」


 少しだけお皿に残すサンドラを見て、アレクが微笑み、そのモフモフの身体を撫でた。


「早く、帰ってくるといいわね」

「うん。さて、明日の準備をしておこうかな。今日は結構返却が多かったから傷と成長具合を確認しないと」

「手伝うわ」


 そうして二人が、マテリアをカウンターの上に出して作業していると――


 扉が開いた。


「あ、ベルおかえ――えっと、どなたですか?」


 思わず先走ってそう言ってしまったアレクだったが、立っていたのは見知らぬ小汚い男性だった。警戒しながら、アレクがその男性へと近付く。


「……これを」


 男はそう言って、紙切れをアレクに手渡した。


「……手紙?」

「確かに渡したからな」


 男はそれだけ言い残すと、足早に去っていった。


「なになに?」


 タタタッと駆け寄ってきたサンドラがアレクの肩の上に乗るとアレクが広げたその紙切れを覗いた。


「下手くそな字ね。ギリギリ読めるけど――え? トリフェンから?」

「うん。多分直接会わないように言われているから、ああやって間に誰かを通したんだろうね」


 アレクがその下手くそでミミズがのたうちまわっているような字を解読していく。


 そして読むにつれて、アレクの顔が真っ青になっていく。


「そんな……そんなことってある?」


 サンドラも信じられないとばかりの声を出すも、アレクが首を横に降って否定する。


「トリフェンがリスクを負ってまでそんな嘘はつかないし、理由もないよ」

「でも……信じられない。ベルが――掠われただなんて」


 トリフェンの手紙によると、裏社会の情報網で、ベルらしき少女が掠われた現場を目撃した人がいたそうだ。トリフェンもそれが信じられず、自身で色々と探った結果、どうやらそれは事実のようなので、こうしてアレクに報告するに至ったという。


 そして手紙には、緊急事態の可能性が高いので直接会いたいという旨が最後に記載されていた。


 そこまで読んで、アレクが上着を取りにいく、ついでに短剣を腰に差して使えそうないくつかのマテリアを腰のポーチに入れた。


「行こう。場合によってはセレスさん達に手伝ってもらう必要があるかもしれない」

「そうね。とにかく、急ぎましょう」


 アレクは、この胸の中で蠢くモヤモヤが――嫌な予感でないことを祈った。


 

 二人が、夜の王都を駆けていく。



アレク、駆ける!

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「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
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