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74話:魔女との邂逅


「なるほど……はは、青春してやがるな」


 ベルの話を聞いた、ディアナが笑った。


「青春? どういう意味でしょうか」

「お前にも心が出来つつあるってことだ」


 ディアナは、ベルのその様子を興味深く見つめていた。自分の扱う人形達とはまるで違う方向に成長しているベルを見て嬉しくもあり、同時に危ういなとも思った。


 人間らしくないところが、人形の長所であるからだ。


 だがそれもあくまで自分の考えであり、そもそも使い方も接し方もアレクは違うのだから、どちらが良い悪いという話でもない。


「ま、とにかくこういう話はな、あっさり聞いてみたらすぐに済む話なんだ。案外アレクがベルに恋してたりしてな! それなら傑作なんだがなあ」


 からかうようなディアナの口調に、ベルが真顔で首を横に振った。


「……それはないでしょう。私はあくまで人形で……マスターは人間ですから」

「つまらん奴だな。別に良いじゃねえかよ、人と人形がお互いに恋して愛し合ったって」


 そんなディアナの言葉に、ベルが少しだけ顔を赤くした。ディアナはそんな機能付いていたっけな? と思うもすぐにその思考を振り払う。


「それは……そうかもしれないです」

「まあ、恋云々は冗談にしても、とりあえず聞いてみる方が早い気がするな」

「分かりました。帰還したらすぐに聞いてみます。ありがとうございます、ディアナさん」

「気にすんな。さて、あたしはまたしばらく忙しいんでアレクによろしく伝えといてくれ。じゃあな」


 そう言ってディアナは立ち上がると、片手を上げ足早に去っていった。


「心……ですか」


 それは知識としては分かるものの、それが自分の中にあるかどうかまではベルも分からなかった。


「ふう……さて、帰りましょうか」


 ベルがベンチから立ち上がって、大きく伸びをした。


 その行為もまた人間臭い挙動なのだが……本人は無意識でやっていた。


 ベルが、帰りにアレクの好物であるアップルパイでも買って帰ろうかしらと考えながら歩いていると――


「ん? マテリアの……気配?」


 細い路地裏から先から、マナの波長――しかもマテリアと似たような波長――をベルが察知した。


「まさかマスター?」


 この街にマテリアは徐々に浸透しつつあるが、しかしこの波長は、どちらかと言えばマテリアを使う時ではなく――()()()()()()()()()()だと分析したベルが、アレクがそちらにいるのかもしれないと勘違いするのも無理はなかった


 ベルが足早にそちらへと進んでいく。


 もしかしたら、自分が嘘の外出をしたのがバレたのかもしれない。そう思うと、急に気恥ずかしさみたいなものが湧き上がってくるのをベルを感じた。


「はあ……ディアナさんが変なことを言うから……」


 そんな独り言を呟きながら、マナの波長が強くなっていく方向へと向かっていくと、建物と建物の間にある小さな広場へと辿り着いた。


「マスターがこんなところで?」


 そこは誰もおらず無人で、しかしその広場の中心には光る何かが落ちていた。


「あれは……」


 ベルが近付いてそれへと手を伸ばした。


 それは、深い闇色を宿した宝石――つまりマテリアのように見えたのだ。


 そしてベルがその暗い色のマテリアに触れた瞬間。


「やはり……お前だったか――()()()()()()()()()


 そんな声が背後から聞こえたと同時に――ベルの意識が途絶えた。


ベルちゃんピンチ? の巻


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