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72話:アベル


 王都、冒険者街。そこには冒険者向けの酒場や宿屋が連なる大通りがあり、その一番奥には冒険者ギルドがあった。


「ありがとう助かったよ。悪いね、わざわざ来てもらって」


 そう言って、一人の松葉杖をついた冒険者らしき青年が宿屋の入口からアレクを見送った。


「いえ、これもアフターサービスですから。それでは」


 アレクはぺこりと頭を下げると、宿屋から生温い夜の風が吹く通りへと出た。マテリアの傷が想定よりも大きく修復作業に時間が掛かってしまったのだ。


「急いで帰らないと、ベルとサンドラが心配するな」


 普段ならば店でやる作業なのだが、今回は依頼者の冒険者が足を怪我しており、動けないということなので出張してきたのだ。その冒険者は、マテリアをレンタルではなく購入してくれた大事なお客さんなので、アレクが多少は融通を利かすのも無理はなかった。


 最近はマテリアの購入者も増えてきて、魔石屋アレキサンドライトは完全に軌道に乗っていた。その事実にアレクは笑みを浮かべずにいられなかった。


 一時期はどうなるかと思ったが、周りの人の助けもあって何とかやっていけている事に感謝をしつつ、そろそろ一度エルフの里に行かないとなあ……と考えていると。


 シャリン、という涼しげな音が鳴った。


「ん? 鈴……の音かな?」


 シャリン――それは、この時間ならば人通りはそれなりあるはずのこの通りがなぜか無人であり、雑踏とざわめきがないからこそ、強く響いていた。


 その音に、なぜかアレクは肌を粟立たせた。


 なぜだか分からないが――その音に嫌な感じはしないものの、なぜかそれは人が聞いていけない音……そうアレクは感じ、腰に差している短剣へと密かに手を伸ばした。


「こんばんは。良い夜だね」


 夜闇の中から出てきたのは――小さな鐘が先端に付いた杖を持つ子供だった。ゆったりとしたローブのような服を身に纏い、腰には生活用品と思われるものが沢山ぶら下がっていた。


 その顔は怖いぐらいに整っており、声といい顔付きも中性的で、アレクにはその子供が少年なのか少女なのか分からなかった。何よりその目は両目とも閉じられていた。


「……君は?」

「僕は――アベルだよ」


 そう言ってアベルが目を閉じたまま笑った、手に持つ杖が揺れ、またあのシャリン、という音が鳴る。


「月が綺麗だ。とてもとても綺麗だ」


 アベルのうわごとのような言葉に、アレクはどう返すべきか迷った。


 間違いなく、アベルは常人ではないとアレクは察していた。なんせアベルは目を閉じているし、そもそも夜空を見上げても、雲に覆われており月なんて見えていないのだ。


「君と僕は似た者同士だね。名前も、役割も、そして()()も」

「どういう意味かな?」

「そのままの意味だよ。アレク、これを君が信じるか否かは分からないけども……()()()()()()()()()()()()。人の形を弄ぶのは……魔女の領域なのだから」


 その言葉に、名乗ってもいないのにこちらの名前を把握していることについて考える余裕はアレクにはなかった。


「待って! それはどういう意味!」


 アレクがそう言って、手を伸ばした瞬間――アベルが目を見開いた。


「君の選択次第だよ――アレク」

「……!」


 アレクの耳に、雑踏と酔った冒険者達の歌声や喧噪が飛び込んで来る。


「え!?」


 周囲を見渡すと、そこは通りの真ん中であり冒険者達が行き交っていた。まるで、アレクだけがそれに気付いていないかのようだった。


 そして当然そこに、アベルの姿はない。


「あの目……そんな馬鹿な」


 だが、アベルの言葉と何よりその瞳がアレクの脳裏に焼き付いて離れなかった。


 なぜなら、その二つの眼が――アレクが見間違わなければ、間違いなく()()()()()()()()()()


「アベル……一体何者なんだろ……それにあの言葉」


 その答えにアレクに辿り着くのはもう少し先の話になる。


意味深なことを言うキャラが登場しましたね。



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「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
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