69話:人を呪わば……
王都――ルベウス〝鍛冶〟金物店。
アレクがサンドラを肩に乗せ、鉄の臭い漂う店内を進んでいく。この店は以前よりも、武具の扱いが増えていて、ちらほら冒険者や騎士らしき者達がそれらを物色していた。
それを見て、アレクは少し微笑み、この店の主の下へと向かう。
カウンターの向こうで、ルベウスが片目にルーペを付けて、金属と革を組み合わせた細く平たい物に細かい装飾を施していた。
「こんにちは、ルベウスさん」
「やっほー、例のやつ取りに来たわよ~」
アレクとサンドラの言葉に、ルベウスが顔を上げてルーペを外した。
「お、丁度良いところに。最終調整がようやく終わりそうだよ」
顔を上げたルベウスが疲れた顔に笑みを浮かべた。例によって例の如くアレクの無茶ぶりに徹夜で臨んでいたようだ。それに気付いたアレクが頭を下げた。
「すみません、いつも無理言って」
「気にすんな。鍛冶職人の領分からはちと外れているが、こういう仕事も悪くない。初めて作ったにしては、それなりに仕上がっていると思うが」
そういってルベウスが作業台の上に置いていた、その平たい物をアレクに手渡した。それは、ひんやりとした輝きを放つ白金と、長さを調整する革部分で出来た首飾りだった。全体的に細く繊細な印象を受けるデザインで、金属部には深い朱色の丸い宝石が数個埋まっており、控えめに光を反射し瞬いている。
「おお、綺麗! やるねえ」
サンドラが嬉しそうな声を上げてぴょんぴょんとアレクの肩の上で跳びはねた。アレクもその仕上がりに満足げな表情を浮かべる。
「ルベウスさん、アクセサリー作りの才能もありますよ。初めてとは思えない」
「細かい装飾については既存品を真似てみたんだが、満足してもらえたようで何よりだ。だがアレク、これ何に使うんだ? 【録音】に【マナ探知】、それに【拡声】と妙なマテリアの組み合わせだが……」
ルベウスの訝しげな表情を見て、アレクがニコリと笑い、こう言ったのだった。
「呪いを――解くんですよ」
☆☆☆
王立歌劇場――オープニングセレモニー、二日前。
その建物は、旧ガラネル建築の影響を多分に受けた重厚な造りのオペラハウスだった。アレクは肩にサンドラ、後ろにベルを連れて、この歌劇場にやってきた。手には、ルベウスに作ってもらった首飾りが入った革袋を持っている。
「大きい建物ねえ」
歌劇場を見上げ、思わずサンドラを声を上げた。
「うん。でもどこから入るのだろう」
正面にある細工の施された立派な木の扉は閉まっており、入口が見当たらない。
ベルが素早く周囲を見渡すと、歌劇場の横の路地を指差した。
「マスター。あちらから物音が聞こえます。おそらく関係者はあちらから出入りするのでは?」
ベルの言葉にアレクは頷くと、路地へと入っていく。薄暗い路地を進むとその先には扉があり、その前には金髪の女性が立っていた。ドレスを着ており、派手めなメイクをしているところを見ると、歌劇場の劇団員だろうとアレクは推測した。
甘ったるい香水の匂いが路地裏に漂っている。
「ん? 君達、こっちは行き止まりだよ」
その女性がアレク達を見て目を細めた。アレクは笑顔を浮かべると口を開く。
「グロッシュ支配人と約束しています、魔石屋のアレクです。入口はこちらでしょうか」
「あたしはコニア。ここの歌手だけど……石屋? が何の用かしら」
そう言って金髪の女性――コニアがジロリとアレク達を見つめた。その視線に、アレクはなぜか悪意が含まれている気がした。何より、香水の匂いに紛れて……ドブのような臭いがどこからともかく漂っている。
「ご依頼いただいていた物をお持ちしました」
「依頼? 支配人が? 君みたいな子供に?」
「ええ。魔石屋アレキサンドライトの店主アレク、と伝えていただければ話が通じるかと思います」
「ふーん……」
コニアは、アレクがさりげなく手に持っていた革袋を背中に隠したのを見逃さなかった。
「こっちよ、ついてきて」
コニアが扉を開けると、中へとアレク達を招き入れた。その先の細い廊下の左右にはいくつもの扉があり、十字路では別の廊下へと繋がっていた。
まるで、迷路のようだ。アレクは案内なしで帰れるか少し心配になった。
「君達、どうせガーネットの声を治す為の特効薬を持ってきたのでしょ」
前を行くコニアは振り返りもせずにそう言い放ったまま、何度か角を曲がり、そして廊下の先の少し大きな扉を開けた。
その先は薄暗く良く見えないが、そこは倉庫か何かのようにアレクには思えた。
「あの、支配人は?」
「奥にある扉の先よ」
コニアに言われるままに倉庫部屋の中程まで進むと同時に、アレク達の背後で扉が閉じられた。
「ガーネットのさあ……声が戻ると困るのよね」
扉を閉じたコニアがアレク達に背を向けたまま低い声を出した。倉庫の奥には、備品や大道具が並べてあり、扉があるようには見えない。
「万年2番手の歌手だった私に、ようやくチャンスがやってきたの……いいえ、チャンスを自ら掴んだのよ」
「あの、コニア……さん?」
「アレク! 閉じ込められたよ!」
その様子のおかしさに流石にアレクとサンドラも気付く。ベルが静かにアレクの前へと出た。
「人を呪わば穴二つ……あはは、アイツを呪ったのは良いけど……あたしまで呪われるなんてほんとバカな話よね」
ブツブツと呟きながら――コニアが振り返った。
「マスター、下がってください」
ベルの視線の先、そこには、顔がまるでヒキガエルのように醜くなり、髪の毛が蛇のようにうねうねとひとりでに動くコニアの姿があった。
「あたしの……邪魔を……するナアアアアアアア!!」
歌手だった名残なのか、そのコニアの絶叫は大きく響いたのだった。
歌劇場とかのバックステージツアーとか行くとワクワクするね!
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