66話:人形遣いは笑う
王都――魔石屋アレキサンドライト
「いやあ、傑作だな。あの馬鹿王子が謹慎とか面白すぎる上に、王女に求婚されたとか、お前の人生どうなってるんだよ」
カウンターに座って、昼間だというのにビールを飲みながら腹を抱えて笑っているのは赤毛の美女――ディアナだった。それを見たサンドラがカウンターの上で溜息をつきながら、言葉を返す。
「もう……大変だったんだから。あ、求婚された話は内緒だからね!」
「分かってるって。しかし王家を敵に回すとはなあ。今は名ばかりの王族とはいえ、その権力は未だ健在だ。くくく……王子二人を始末して、娘まで手込めにされた王の心中たるや……やっぱり傑作だ」
ディアナが不吉なことを言ってカウンター内のアレクを見つめた。そう言う本人が王家をちっとも怖がってる様子がないせいで、アレクは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「他人事なら良いんですけどね……。はい、マテリアのメンテナンス終わりましたよ」
アレクが預かっていたマテリアを専用のケースに丁寧に仕舞うと、ディアナへと渡した。
「随分と早いな。人形五体分のマテリアなのに」
「ベルと同じ型ですからね」
「あー、そういえばベルの姿を見掛けないな」
ディアナが店内をキョロキョロと見渡すが、メイドのベルの姿はない。
「お店も落ち着いてきたので、最近は外で色々と動いてもらってます」
「人形の使い方、分かってるじゃねえか」
アレクの言葉に、ディアナがニヤリと笑った。
「人形をただの召使いに使うのは三流の人形遣いだ。戦闘に使うのが二流。一流は――諜報員として使う。なんせ裏切らないしな。気配もねえし探知魔術にも引っかからねえ。単体戦闘力も十分な上、人間がやりがちなミスも一切ない。何より――無感情で汚れ仕事ができる」
「……別にそんなつもりでやってもらってるわけじゃないですよ」
アレクは基本的にベルからは報告を受けているものの、実際彼女がどんな手を使って何を行っているかを全て把握しているかというと、自信を持ってそうとは言えなかった。
「獣人族の部下も付けて、裏社会でブイブイ言わせてる癖に何を言っているんだか……」
「……裏社会で?」
「おっと、こいつは口は滑った。今、この街の裏社会ではお前の噂で持ちきりだぜ? 王家とアルマンディ商会を敵に回して無傷で勝利した商人がいるってな」
ディアナが嬉しそうに笑った。
「勘弁してください。僕は何もしてませんよ……降りかかる火の粉を払っただけです」
「火の粉どころか、太陽レベルのやつだけどな。ま、お前ならやれると思ってたよ」
そう言ってディアナがカウンター越しにアレクの肩を力強く叩いた。
「じゃ、あたし行くわ。最近忙しくてなあ。ああ、そうだ。近々、あたしの知り合いが来ると思うから、よろしくな!」
ディアナはそれだけを言い残すと、アレクに返答させる間もなく去っていった。
「……相変わらず、台風みたいな人」
サンドラのぼやきにアレクが笑いながら、同意し、彼女の小さな頭を撫でた。
「悪い人ではないんだけどね。ディアナさんが紹介してくれる人ってどんな人なんだろう」
多分、普通の人ではないのだろうなあ……という予感しかしないアレクだった。
というわけで新章です。
ディアナさん久々登場。次話で、新しいお客さんの登場します。
~作者からのおしらせ~
えー、公私ともに忙しくしている為、更新が不定期になっていますがボチボチ更新していく所存なので気長に待って頂ければと思います。(週1更新はキープするつもりですが、もうちょっと更新頻度は増やすかもしれません)
あ、近々、タイトルを変更する予定です。よろしくお願いします!




