62話:誰もやらないからこそ
「この……マテリアだったか? をこの騎士団で買えと。そう言いたいのか?」
ウヴァロの低く重い声が響く。
「まずはお試しということで、無償でお貸しますよ。それで改めて有用性を吟味していただいて、必要だと感じていただけたら、改めて交渉……というのは如何でしょう?」
「……確かに、この【録音】は有用であると認めよう。なんせ、我々は日々犯罪者やそれに類するものと戦っている。奴らだけではなく、悲しいながら騎士団内部でも、言った言っていないで揉める事は日常茶飯事だ。そのマテリアがあれば、問題の一部が解決するかもしれん」
アレクはウヴァロの言葉に頷いた。
いつぞや、無実の罪でこの騎士団に拘束された時の事をアレクは思い出した。あの時、他の人の尋問を見ていたが、証言がバラバラであったり、それを後からまとめるのに苦労している騎士の姿を見て、【録音】という発想に至ったのだった。
そして、ウヴァロのような厳格な騎士長は、1度使うと決めれば、長い付き合いになる可能性が高い。幸い量産する為の原材料は沢山ある。もし契約まで持っていければ結構な取引額になると踏んでアレクはこうして交渉を持ちかけたのだ。
「……【白の天秤】の騎士長である儂に取引を持ちかけるとは……恐れはないのか? 儂であれば簡単に貴様を処刑できる上に、その録音とやらも押収することが出来るのだぞ。そんな儂相手に商売をしようなど……この国の商人ならやろうとは思っても行動には移さないだろう」
厳格なる法の番人。その体現者とでも言うべきウヴァロの言葉にしかしアレクは笑みを崩さない。
「はい。だからこそ、ですね。誰もがやる事をしていては……商売にはなりませんから。それにウヴァロ様は信頼に値する人だと思ったからこその取引です」
「……ふはは! 面白い奴だ。あの古狸をやり込めただけはあるな! これは【白の天秤】の騎士長ではなく儂個人の発言だが……あの狸には我々も苦労していた。よくやった……と褒めておこう」
「ありがたき御言葉」
アレクが頭を下げると、ウヴァロが口角を歪めた。
「良いだろう。この【録音】のマテリア、まずは使ってみることにしよう。その後、騎士団内の意見をまとめて、必要であれば改めて購入の契約を交わそう。このマテリア、何個用意できる」
「必要な数を言っていただければ、すぐにでも用意いたします」
「では、まず20個だ。明後日に会議があるからそれまでに用意できれば助かるが」
それは、まるでこちらを試すような物言いだが、アレクは怯まない。
「であれば20個、明日こちらに運ばさせていただきます」
「早いな」
「商売は、鮮度が命ですから。まあこれは受け売りなんですけどね」
「では頼んだぞアレク、若き店主よ」
「かしこまりました」
こうしてアレクは、【白の天秤】騎士長のウヴァロとの初交渉を終えたのだった。
後に【白の天秤】は録音を始め、様々なマテリアを駆使するようになり、優秀さと公平さによってその名が国内外に轟くことになる。
ちなみに【白の天秤】は法を司っている為、他の騎士団と違い、王家からも独立した権力を持っています。こちらに非や不正がない限り、強い味方ですね。
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