60話:反撃の狼煙をあげろ
王都――魔石屋アレキサンドライト
店は既に閉店しており、灯りも落としていた。
「さてと……思わぬ名前が出てきたね」
カウンターの上で眠りこけるサンドラを撫でながらアレクが溜息をついた。まさか、またこの国の王子に頭を悩まされるとは思わなかった。
「アルマンディ商会と王家が繋がっているのは当然ですが……アレク様暗殺がユーファ王子の指示である可能性が高くなりました。おそらく、アルマン氏は暗殺とは関わっていないと思います。暗殺に失敗したユーファ王子は、今度はアルマン氏を使って圧力を掛けてきた……と考えるのが妥当でしょう」
ベルがそう言いながらアレクのカップに紅茶を入れた。
「はあ……マテリアを売っているだけなのになあ……」
「仕方ありません。それだけマテリアの力が認められつつあるということです。ただユーファ王子がなぜ、アレク様を狙うのか……そこが不明瞭ですね」
「ジェミニ王子の事を恨んで……じゃないかな」
「……ユーファ王子の評判を聞く限りではそういう人柄には思えませんが。いずれにせよ相手が王族となると厄介ですね」
「あんまり気が進まないけど、セレスさんに協力を仰ぐ必要があるかも」
「そうするべきかと。セラフィ王女の後ろ盾を得ればこちらもやりやすくなります。マスター、色仕掛けでも何でも使って何とか味方に引き込みましょう」
ベルの言葉に、思わずアレクは紅茶を噴いてしまい、むせて咳き込む。アレクの目の前にいたせいで紅茶が掛かり、起こされたサンドラが恨みがましい目でアレクを見つめた。
「ちょっと……アレク……何すんのよ」
「ゲホゲホ……ベル、今なんて言った!?」
「セラフィ王女をたらしこんで、バックについてもらいましょうと言いました」
「……相手は王女だよ?」
アレクが引き攣った笑みを浮かべるが、ベルは真面目な表情のまま言葉を続けた。
「マスターなら、やれます。自信を持ってください」
「そんな自信ないってば!」
「アレクは昔からそういうの疎いもんね~」
サンドラが意地悪そうな声を出してアレクをからかう。
「いずれにせよ、王女の協力は必須。今後の事も考えれば悪くないかと。王家御用達の看板は商人にとって1つの到達点ですから」
「……そうだね。セレスさんにそれとなく相談してみよう。まずはアルマンディ商会を何とかしないとね」
「それについては、既に水面下で動いております。証拠もトリフェン達が集めてくれましたし、採掘士達もアルマンが手出し出来ないように安全な場所に匿って、トリフェンに護衛をさせています」
ベルの言葉を聞いてアレクが頷いた。にしても、本当にベルは優秀だ。いつかまた、何かの形でディアナさんに恩返ししないといけないな、と思うアレクだった。
「あとは……マスター次第かと」
「うん。交渉が決裂した以上は、やるしかないね」
「では――始めますか」
ベルの言葉に、アレクが頷いた。
こうして、アレクによるささやかな反撃が開始されたのだった。
アレクさんついに動く。
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