59話:追い詰められた狸(アルマン視点)
「は、入れ!」
アルマンは精一杯の虚勢を張り、そう声を出す。
「失礼します」
そう言って入って来たのは1人の子供とその召使いらしき少女だ。
分かっている。なにかの間違いであればどれだけ良かったか。だが、あの生意気そうな顔を忘れるわけがない。あれは魔石屋アレキサンドライトの店主――アレクだ。
「お忙しいところ、御時間をいただき恐縮です。いやあ素晴らしい建物ですね。お陰様ですっかりこの館について詳しくなってしまいました」
そう言ってアレクと召使いの少女が慇懃にお辞儀する。白々しいその態度にアルマンは苛立つも、それを何とか面に出さないように抑える。
こちらが時間稼ぎに館の案内をした事に気付いているのかいないのか。その笑顔からはなにも読めない。
「用件を言え。まあ、想像はつくが」
アルマンはあくまで余裕の態勢を崩さない。たかが、商人ごっこをしている子供に過ぎないが、隙を見せるつもりもない。
「ええ。実は僕の店のお客様で、アルマンディ商会が仕切っている採掘遠征に参加された方がいまして」
「それで?」
「そのお客様が大変ご立腹でして……採掘士ギルドを巻き込んで、アルマンディ商会を訴えると仰っているので……」
「それで?」
そんな事は分かっている。まさかわざわざそれだけを言いに来たわけではあるまい。
「……僕ならばその訴え、取り下げさせる事が出来る、という事をお伝えしようとやってきました。流石のアルマンディ商会でも、今回の件はかなりの大事かと思いまして」
アレクは目を細めた笑顔を崩さない。
アルマンは、苛立ちを含ませた声を上げる。
「くだらん。お前はこの私にこう言いたいのだろ? 訴えを取り下げてやるから、頭を下げろと」
「――ええ、その通りです。くだらない嫌がらせも止めていただきたいと思っています」
強気なその発言から、その思考を読もうとアルマンが思考する。
まず、先述の話が事実だとして、証拠も握られている場合。これは、アルマンとしてはかなり良くない状況だが、逆に言えば、交渉次第では訴えをもみ消せる。
次に、先述の話は事実だが、証拠もなにも持っておらず、ただのハッタリだった場合。この場合は突っぱねるのが正解だが、証拠を持っていないと確信できるほどの情報が手元にない。
ここで、アルマンは思い出す。そもそもなんでこんな子供相手に自分がわざわざ圧力を掛けねばならないのか。
全部――あのクソ王子のせいだ。
「――お前は、王族御用達の……アルマンディ商会を、この私を……敵に回すつもりなのか」
「いえいえ……まさか。だからこうしてわざわざご挨拶に来たのですから。アルマン様の事を想っての行動と思っていただければ。ですが僕も商人の端くれ。交渉の勉強もさせていただければなあと」
喰えないガキだ。アルマンの中で苛立ちが募り、限界に近付いていた。
「良いだろう。話だけは聞いてやる」
「ありがとうございます。簡単な話ですよ……今後は商人ギルドもアルマンディ商会もそれに類する他組織も、僕及びその店舗と周囲の者達へ干渉をしないでいただきたいんですよ。小さな店舗ですから、放っておいてくださっても問題ありませんよ? そうしていただけると、契約を交わせるのであれば、採掘遠征の件……無かった事にいたします」
「……黙れ」
「はい?」
「――黙れクソガキ! 大人しく聞いていれば調子に乗りやがって!! 大人を舐めるなよ小僧!! こちとらバックには王族がいるんだぞ! そもそも貴様は既にかの王子に嫌われているからな! 本気で私と王族を敵に回してタダで済むと思っているのか!?」
アルマンが激怒したのを見て――アレクが作り物ではない、本当の笑みを浮かべた事に、アルマンは気付いていない。
「――へえ。王子が……ねえ。なるほど……色々と見えてきましたね」
「帰れ!! 訴えられるものなら訴えてみろ!! 全部俺が揉み潰してやる!! 王族の力を使ってでもな!」
「アルマン様とユーファ王子の力で、違法な遠征と強制労働の訴えを揉み潰すと。そう仰るのですね」
「そうだ!!」
アレクがチラリと視線を召し使いの少女に向けると、少女は無表情のまま小さく頷いた。
「ありがとうございます。確認が取れたようで何よりです。では、失礼します」
そう言って、アレクと少女はそそくさと去っていった。
アルマンは怒りで冷静さを失っていたせいで気付いていなかった。否、気付ける訳がなかった。
アレクが召使いの少女ベルに――
――【録音】のマテリアを使わせていたことを……。
あーあ。アルマン様、失言した上に色々と教えちゃったね……。
↓ハイファン×ミステリー短編書きました。ネクロマンサーが推理する系です。自信作なので是非!
URLは広告の下!
死霊術士は欺けない ~死者の記憶を視るネクロマンサー、冒険者ギルドの保険調査員になる。その【死因】、本当か視させてもらおうか~




