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58話:怒る大旦那(アルマン視点)


 王都――アルマンディ商会アルマンの館、会長室。


 その豪奢な部屋の奥にあるデスクに座る中年男性――アルマンが部下の報告を聞きながら爪にヤスリをかけていた。


「キーリヤ砂火山が噴火した?」

「はい……遠征班は全滅した……と思われます」

「ふん、無駄金を使ったな。どうせ死んでも惜しくない奴しか行かせてないのだろ?」


 くだらないとばかりに、アルマンが爪のカスを息で吹き飛ばした。人が数十人死のうが、関係ない。そういう立場にいるという自負がアルマンにはあった。


 それが傲慢以外の何物でもない事に、彼は気付いていない。


「はい……あと、これは未確認情報なのですが……遠征に参加した()()()()()が帰還したとか」


 その言葉を聞きアルマンはここで初めて、視線を部下へと向けた。


「……どういうことだ?」

「そ、それが……どうやら竜車を奪われたようで……あ、いえでもまだ確定したわけで――」

「馬鹿野郎!! そいつらがうちを訴えたらどうするつもりだ!!」


 アルマンが怒声を発した。この部下は何を暢気な事を言っているんだ?


「あ、いや……しかし……」

「今すぐそいつらを見つけ出して、示談交渉しろ! 金はある程度使って構わん!」

「は、はい!!」


 部下が慌てて、部屋から飛び出していくのを見届けてから、ヤスリをデスクへと叩き付けた。


「無能が!! 採掘禁止時期の遠征はリスクがあるから徹底しろと言っただろうが!!」


 アルマンは怒りながらも冷静に、今回の損失を計算していく。帰還が事実ならば、かなりの金額を積む事になるかもしれない。


 なんせ、彼らは当然、騙そうとしていたこちらの意図に気付いている。交渉が難航することは、素人でも分かる。


「いっそ……()()()


 アルマンは思わずそう呟いてしまったその言葉に、自分でも驚いていた。


 昔の自分なら絶対に言わなかった言葉だ。だが最近はとある人物の影響で、そういう思考が出てきてしまう。


「あのメイドに、頼んでみるか……いや、弱味を見せるのは悪手か」


 深く思考しているせいで、アルマンはそのノック音に気付かなかった。


「――アルマン様。失礼します!」


 業を煮やした部下の1人がそう言って扉を開けた。


「なんだ!」


 思考を中断された怒りを込めた視線で、部下を見つめるアルマンだったが、部下の慌てたような表情に、嫌な予感がした。


「どうした」

「それが……あの……例の店の店主が」


 なぜか歯切れの悪い部下の言葉に、アルマンは苛立つ。


「例の店? はっきり言え!」

「ま、魔石屋アレキサンドライトの店主のアレク様が! アルマン様と大事な話があると!」


 その言葉に、アルマンが激怒する。


「この、一大事にあんなガキと話す事なんてあるか!! すぐに追い返せ!!」


 なぜこいつはそんな事も分からない。アルマンは、この部下を即刻クビにしようと決意した。アレクの名は、今アルマンが一番聞きたくない言葉だったのだ。


 何度、嫌がらせをしても何処吹く風。平然と営業を続けているその姿に虫唾が走る。


「そ、それが……その……どうもキーリヤ砂火山の遠征からの帰還した採掘士のうちの数人が……()()()()()()()のようでして……」

「……は?」

「その件で、〝是非お話したい〟、と……えっと……これ、凄くマズイですよね」


 アルマンは、鏡を見なくても、顔が青ざめていくのが分かった。


「どどど、どういうことだ……なんでここでアイツの名前が出てくる!!」

「分かりません! ですがここで追い返したら……大変な事になるかと」

「……適当に時間を稼げ! その間に対策を練る! 館を適当に案内しろ! 絶対に帰すなよ!」

「は、はい!!」


 部下が再び、出て行ったあと、アルマンが吼えた。


「なんでこんなことになった!!」


 それに答えてくれる者は――誰もいなかった。


アルマンさん、大ピンチの巻


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[一言] 紙の毛までむしりとってください
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